今日のおすすめ
講談社社員 人生の1冊【54】死刑は是か非か『裁かれた命』
(堀川惠子)
佐藤雅伸 販売促進局 50代 男
「人が人を裁くこと」を世に問う、ノンフィクションの傑作
![](/content/images/201802/5713/photo.jpg)
「この本を担当することを誇りに思う」
この本を読んでみようと思ったきっかけは、販売担当者のそんな一言でした。
最近、プライベートでは小説を読む事のほうが多く、ノンフィクションは話題になっているものを読む程度だったのですが、読み始めてすぐに「これはとんでもない本に出会ってしまった!」と思いました。
さて、この本は被告人である若い死刑囚が検事、弁護士にあてた57通に及ぶ手紙を軸に、著者の丁寧な取材によって彼と彼を取り巻く人々の人間像と事実がどんどん浮かび上がってくるという構成になっています。
“本当にこの若者は死刑にならなければならなかったのか”が精緻でありながら穏やかな文章で綴られていき、読むものを引き込み、時には我々の胸の内に鋭く切り込んできます。私も読みながら幾度となく“うめき声”を発してしまうほどでした。
「死刑裁判の法廷で裁かれた被告人は、長谷川武である。しかし、彼の死をもって裁かれたのは、彼を囲んだ人たちだったのかもしれない。」(P.339)
死刑を求刑した者たちの生涯にわたる葛藤と、人が人を裁くことの難しさを鮮明に描き、また、昭和という時代のどこか埃っぽい空気の匂いまで感じさせる著者の筆力には本当に驚かせられます。
著者はこの本の中で、「限られた材料で判断を下さなくてはならないという裁判の大前提、そして人が人を裁くことの不完全さを、裁く側は頭に入れておかなければならない」とし、「そのことは、迅速性が優先されがちな裁判員裁判ではなおのこと」と提言しています。
新しい裁判員制度の導入によって、われわれ一般市民が人を裁かなければならない場合があり、そしてもちろん、死刑を求刑する可能性だって大いにあるということを今さらながら気づかされました。 “死刑は是か非か”は簡単に結論が出るものではないだろうし、そもそも正解はないのかも知れませんが、我々がずっと背負い続けていかなければならない問題なのでしょう。
最後に、“良質のノンフィクション作品が思考の幅をいかに広げてくれるか”を再認識させてくれたこの作品に敬意を払いたいと思います。
- 電子あり
1966年、強盗殺人の容疑で逮捕された22歳の長谷川武は、さしたる弁明もせず、半年後に死刑判決を受けた。独房から長谷川は、死刑を求刑した担当検事に手紙を送る。それは検事の心を激しく揺さぶるものだった。果たして死刑求刑は正しかったのか。人が人を裁くことの意味を問う新潮ドキュメント賞受賞作。
執筆した社員
![講談社社員 人生の1冊 イメージ](content/images/201802/5713/icon.jpg)
佐藤雅伸【販売促進局 50代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
関連記事
-
2016.05.31 レビュー
死刑執行まで、書き続けた手紙。自分はどこで間違ったのか?
『裁かれた命 死刑囚から届いた手紙』著:堀川惠子
-
2017.03.24 レビュー
彼は死刑でよかったのか?──凄惨極貧から獄中結婚まで、本人書簡を初公開
『死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの』著:堀川惠子
-
2017.07.15 レビュー
広島で被爆し全員没した移動演劇団「桜隊」の悲劇──戦禍の女優たちを描く超大作!
『戦禍に生きた演劇人たち』著:堀川 惠子
-
2014.07.16 レビュー
「ひとりの僧侶の目に映った「生と死」」の記録です。
『教誨師』著:堀川 惠子
-
2017.07.26 レビュー
安心できる裁判官は5%!? 「判決書くのは面倒なので和解」とか残念すぎる
『絶望の裁判所』著:瀬木 比呂志
人気記事
-
2024.06.28 レビュー
能登半島地震の悲劇を徹底取材──「政治の人災」を繰り返さないための防災マニュアル
『シン・防災論―「政治の人災」を繰り返さないための完全マニュアル』著:鈴木 哲夫
-
2024.06.26 レビュー
【衝撃の手記】ゴーン会長のもと、日産社長を務めた男はそのとき何を考えていたのか?
『わたしと日産 巨大自動車産業の光と影』著:西川 廣人
-
2024.07.01 レビュー
「趣味はダイエット、特技はリバウンド」という方へ! モチベーションアップのコツ
『にゃんこダイエット モチベーション ブック 一念発起×初志貫徹 痩せにゃいわけない辞典』編:ダイエット・モチベーション・クラブ
-
2024.06.30 レビュー
「弱いまま、強くなる」 MEGUMIさんが、美容を“やる”理由とは!?
『心に効く美容』著:MEGUMI
-
2024.06.24 レビュー
ホンモノ中華料理にアナタの肥えた舌を捧げよ!
『進撃の「ガチ中華」 中国を超えた? 激ウマ中華料理店・探訪記』著:近藤 大介