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講談社社員 人生の1冊【79】ジュペリじゃなくてテグジュペリ『星の王子さま』
(文・絵:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ 訳:三田 誠広)
笠井俊純 モーニング編集部 30代 男
「あ、ああ……『星の王子さま』ね。うんうん、いいんじゃない。メジャー性あるしね、星だしね、王子だしね、ジュぺリだしね」
韓国在住の新人漫画家から『星の王子さま』をベースにしたミステリー仕立ての作品を描いてみたいと相談されて、しどろもどろな反応しか出来なかったのは、私がそれを読んだことがなかったからだ。
ああ、恥ずかしい。ほんとうに恥ずかしい。社員失格です。エントリーシートの郵送からやり直させていただきます。ちなみに私の同期に、面接で「一番好きな本は?」と問われて、「星の王子さま!」と答えて入社した者がいます。しかも、そいつは『星の王子さま』を読んだことがなかった! この原稿を書いている途中に確認してみたら、いまだに読んでませんでした。ああ、どいつもこいつも恥ずかしい。
そんなきっかけだったものの、読んでほんとうによかった。キツネの言葉を借りるなら、『星の王子さま』にすっかり<なついて>しまった。現在36歳、感受性も弱まって、恋に恋することもなくなった。そんな自分がまた何かに<なつく>ことができるとは。どうやら、まだまだ<うぬぼれおじさん>ではなかったようだし、<よっぱらいおじさん>や<仕事でいそがしいおじさん>でもなかったようだ。王子さまのために羊を描けるほどではないかもしれないけれど、井戸の水くらいは汲んであげられそうだ。
「話の流れは良い感じになってきましたね。ただ、王子さまは<愛>だけでなく<償い>の気持ちも教えたかったんじゃないでしょうか、そのあたりを丁寧に描けるとよい良いものになるかと思います」
おかげで、しどろもどろだった打ち合わせは、見違えるようにキビキビしたものになった。ありがとう王子さま! <償い>のほうもきっちりさせていただきます。
まったくの私事だが、『星の王子さま』を読んでいる間に入籍をした。これからは毎日家にいる<花>のために水をあげたり、夜寒い時はカバーをかけてあげたりして暮らしていきたいなと思った。
「お願い……。ヒツジの絵を描いて。」「なんだって?」「ヒツジの絵を描いて。」雷が落ちたみたいにおどろいたよ。立ちあがって目をこすり、声のしたほうを見つめた。するとそこには、とてもふうがわりな、小さな貴公子がいて、悲しそうにこちらを見ていた。(本文より)
執筆した社員
笠井俊純【モーニング編集部 30代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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