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講談社社員 人生の1冊【18】宇宙大好き少年の夢……『宇宙物理学入門』
(著:桜井 邦朋)
鈴木塁斗 モーニング編集部 20代 男
無限に広がる宇宙、それすら包み込む「本」
将来の夢、宇宙飛行士。
小学生にして科学雑誌「Newton」を愛読(1号だけ)し、その中で唯一理解できないこともない“水金地火木土天……”の呪文を得意気に唱えるイヤな子ども、それが私でした。
思春期の男子という阿呆な生き物にとって、宇宙というのはワクワクとドキドキのかたまりです。ブラックホール、ダークマター、コロナ……単語を耳にするだけで中2心をくすぐられるのは、私だけではないでしょう。
空気がないってなんだ!? 重力がないってなんだ!? 鼻を垂らしながらそんなことをぼーっと夢想している姿を見て、教育的見地からしめしめとでも思ったのか、両親は私を宇宙博物館へ連れていき、月面歩行体験(体をバネで吊って、ジャンプ力が10倍! みたいなやつです)をさせてくれました。その浮遊感は鼻血が止まらなくなるほどの衝撃で、「う、宇宙飛行士になるしかない……!」と思ったのを今でも覚えています。
そんな私の星々の大海へのあこがれは、しかし、無残にも打ち砕かれることになります。高校2年時、文系理系どちらの道に進むかを今決めよ、と言われ、理系の道を選び取ることができなかったからです(宇宙飛行士採用試験を受験するためには、通常自然科学系の大学を卒業していることが必須とされます)。
数学ではついぞ一度も問題を解く上で閃きが訪れることがなく、物理の実験で使う滑車で手をケガし、化学にいたっては当時世間を騒がせた未履修問題の渦中にあって教科書すら持っておらず……身の回りのすべての情報が、お前は文系だと語っていました。
よくよく考えたら、身長の伸びもストップして宇宙飛行士になっても船外活動できないし、そもそも目も悪くて乱視入りだし……という感じで言い訳をしつつ、宇宙大好き少年の夢はここに絶たれました。
暗黒物質、触ってみたかったなぁ。ワープとか、してみたかったなぁ。などと頭の悪いことを考えつつ、ふてくされて宇宙SF系のゲームばかりしていたころ、出会ったのが『宇宙物理学入門 宇宙の誕生と進化の謎を解き明かす』というブルーバックスの1冊です。
プリズムによって光は7色のスペクトルに分解でき、スペクトルの中には暗線があり、この暗線は特定の元素によってのみ作られる。つまり、星から届く光を分析すれば、その星がどんな元素からできているか明らかにできる。
プリズム? スペクトル?? とはなるものの、ほどよい嚙み砕き具合で、宇宙物理学の概要を教えてくれます。ときにはグラフや写真付きで、ド文系の凝り固まった頭脳でも、投げ出したくならず、頑張って読めば理解できそうな絶妙なラインを攻めてきてくれるのです。
「こういう本があったら、自分ひとりでもいろいろわかるじゃん!」と、まさに目からウロコの思いでした(いやいや、本の素晴らしさってそもそもそこじゃん、というツッコミを今となっては入れたいのですが)。
本書によれば、宇宙は光速以上のスピードで常に膨張を続けているんだそうです。その宇宙の中には約2兆の銀河があるだとか、その銀河それぞれの中には何千億もの星々があるだとか、「ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅう」みたいなことになっていて、いまいち現実感がありません。
しかしそんな、つかみようがないように思える宇宙というものについて、この1冊の本だけで、たくさんのことを知ることができる。1冊の中に、宇宙が広がっていると言ってもいいかもしれません。そしてそれはきっと、この本だけに限ったことではない。当たり前のようで、それはとてもすごいことだなあと、今でもしみじみと思います。読書の素晴らしさを自分に教えてくれた、偉大な1冊です。
- 電子あり
「星の一生」がわかる宇宙の教科書
宇宙物理学が解き明かす宇宙の現在・過去・未来 ビッグバンは本当にあったのか? ダークマター、ダークエネルギーの正体とは? 相対論、量子論を駆使することで宇宙の起源から、星の誕生、銀河の形成、星の終末、中性子星、ブラックホールのメカニズムまで宇宙の全貌を知るための手がかりが見えてくる。
執筆した社員
鈴木塁斗【モーニング編集部 20代 男】
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