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講談社社員 人生の1冊【66】『山口組四代目 荒らぶる獅子』組長が書いた「解説」
(著:溝口 敦)
柿島一暢 学芸図書出版部 50代 男
社歴の大半が書籍編集なので、自分で手がけた本の数だけ語るべき話はある。とくにノンフィクション編集者の場合は、書き手の方々と取材にも行くし、便利屋のような存在でもあるので、1冊の本として世に出すときは思い入れも半端ではないものです。
思案しましたが、いっぷう変わった「解説」が読める本を選んでみました。
本書の親本は徳間書店。新入社員だった頃、週刊現代編集部に送られてくる書評用の本の山から見つけた1冊でした。学生時代から溝口敦さんの『血と抗争』は読んでいたし、新宿昭和館(地下のほうではない)で任侠映画ばかり観ていた身としてははずせません。
とにかくおもしろい。綿密な取材だからこそ書けたノンフィクションですが、対象である山口組四代目・竹中正久という人物の魅力も多分にあるのでしょう。山口組きっての武闘派の誉れ高く、官憲にも一歩も引かない一方で、法律を知悉し、合理的な一面もある。要するに、自分の中にあった「侠客」像に近かったのかもしれません。
後年、プラスアルファ文庫の「闇もの」路線の核として、『血と抗争 山口組三代目』『山口組四代目 荒らぶる獅子』『武闘派 三代目山口組若頭』『撃滅 山口組VS一和会』『ドキュメント 五代目山口組』……と続く、溝口さんの山口組シリーズを文庫化させていただきました。
どれもおもしろいのですが、「このイチ!」は本書です。文庫化にあたり「解説」を入れることは多いのですが、それを当時現役の竹中組組長だった竹中武さんにお願いしたのです。一和会との抗争で殺された山口組四代目の実弟で、兄同様、武闘派と評されていました。
溝口さんのご尽力で実現し、岡山の組事務所でお話をうかがいました。現役の組長が兄を語る。ありそうで、ありません。
こわいはこわいですが、言い出しっぺですし、溝口さんといっしょなら大丈夫だろうと、組事務所にうかがったことを覚えています。後日、達筆で清書された原稿「我が兄、竹中正久」をいただきましたが、それが本書の解説なのです(385ページより)。
兄は昭和六十年一月に殺されたが、なりたくてなった組長ではないという思いも幾分か影響したかもしれない。しかし圧倒的に一和会に対して油断があったことが死を招いた。山本広をはじめ一和会のメンバーを頭からなめてかかっていた。たとえ上が頼りなくても、下にしっかりした者がいることがある。兄はそのことに気づかなかった。考えが足りず、甘かった。
よくぞここまで、と今読み直しても思う言葉は続く。
今の渡辺芳則五代目組長も兄の若い者だった。私は平成元年四月に山口組を離れたのだが、それでも兄の残した山口組は強くあって欲しいと思う。他団体に侮られてはならない。近年、山口組では若頭の宅見勝が殺され、若頭補佐の中野太郎が絶縁された(平成九年)。……仮にしかるべき人間に頼まれれば、私は外部の人間として、中野問題の解決に動くこともいとわない。それぐらいの気持ちは持っているといっておきたい。
これはただの「解説」を超えた、当時の山口組執行部に対する、強烈なメッセージだったのです。
刊行後、会社のある幹部からお叱りを受けましたが、価値ある「解説」だったと思います。
ちなみに、最近(※注:2013年当時)、元山口組盛力会会長・盛力健児著『鎮魂』(宝島社)が出版されましたが、この解説につながる話満載です。ぜひ併読をおすすめします。
ノンフィクションっておもしろいですよ!
- 電子あり
山口組四代目竹中正久、一和会の兇弾に斃れる!
「一言でいうたら、男だった、ということで死にたいわ……」
極道社会の頂点を極めた襲名からわずか202日。刺客に銃殺された竹中正久の壮絶な生きざまを、関係者の証言と綿密な取材で描く。溝口敦の山口組ドキュメント第2弾。
執筆した社員
柿島一暢【学芸図書出版部 50代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
(アイコンイラスト ©石野点子さん)
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