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講談社社員 人生の1冊【58】2011年に多くの意味をもつ絵本『新幹線のたび』
(作:コマヤスカン)
横山啓子 デジタルマーケティング部 50代 女
青森から鹿児島まで新幹線を乗り継いで旅をする車内の親子と、日本縦断の景色を俯瞰で追うこの絵本は、下書きで見せられた当初から関係者一同、売れる!と確信し大いに盛り上がりました。宣伝担当だった私は、コンパクト化傾向にあった書店用宣伝物としては掟破りとも言える、A3が横に8枚連なった超ロング蛇腹ポスターを作り、書店に事前に貼らせてもらったりと、わくわくしながら発売の3月14日を待ちました。
そしてあの3月11日、この絵本の中の風景は失われ、新幹線も運行を止めてしまいました。
この絶妙なリアリティで美しい日本を描いたこの絵本が、被災者の方々をかえって悲しませてしまうのではないか……。発売に関しても何度かミーティングがもたれたことは言うまでもありません。しかし3月16日に編集部から発せられた「(前略)わたしたちはけっしてひとりではありません。心をひとつにして、わたしたちが力を合わせれば、いつか、この本で描かれたはるかちゃんとお父さんのように、美しい日本の国土を旅できる日はまた来ます。それを信じて、本書を刊行いたします」というシンプルで力強い言葉に後押しされ、この絵本を売りたいというより“届けたい”というエネルギーが生まれました。
そして結果は絵本としては異例とも言える部数を重ね、復活した新幹線と共に今も力強く走っています。
2011年に刊行された『新幹線のたび』は数奇なものを背負ってしまった感がありますが、本来はゆるーくて遊び心満載の大人も楽しめる素敵な絵本です。まだの方はぜひお手に取ってみてください。
朝、6時15分。まだ明けきらない新青森駅のホームから新幹線『はやぶさ』にのっ て、はるかちゃんとお父さんの旅は始まります。これから3つの新幹線を乗りつい で、鹿児島のおじいちゃんの家まで行くのです! さて、どんな風景が二人をまって いるでしょう……。1日のなかで、季節が冬から春へと移ろっていく、こんな美しい 国土にわたしたちは住んでいたのだと改めて気づきます。びっしり描き込まれた、建 物や山。またこっそりひそんでいる変なものを探すのも楽しい本です。
既刊・関連作品
執筆した社員
横山啓子【デジタルマーケティング部 50代 女】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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