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首都直下地震、南海トラフ巨大地震……! 知らなかったではすまされない「最悪の被害想定」
想像以上に最悪な被害想定
今年は関東大震災からちょうど100年。新聞やニュースでそのことが報じられるたびに、個人的には「もう100年も経ってしまったのか」と思った。それは「じゃあ“次”はいつ来るんだろう」とセットになっている。
そう、次が知りたいのだ。私が心底知りたいのは、どこで災害が起こるかよりも、いつそれが起こるかだ。だけど日時を予測することは現代の科学でもむずかしい。ならば、せめて「現代では、どんな被害が想定されるか」を考えておきたい。
『首都防衛』は大災害に見舞われた首都圏における「最悪の被害想定」を詳細に伝える本だ。本当に最悪の被害が並んでいる。たとえばここを読んで暗い気持ちになった。
危機管理の要諦が「最悪の事態を想定する」ことにあるならば、首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山の噴火という3つの巨大災害がほぼ同時に発生する事態も考慮しておかなければならないだろう。少し怖く聞こえるかもしれない。だが、これらは決して絵空事とは言えないのだ。実際、我が国には3つが「大連動」した歴史があることは理解しておく必要がある。
「“次”が知りたい」なんて思ってきたが、全部が一度にやって来るなんて思っていなかった。それぞれの災害は単体で起こるものだとイメージしていたのだ。そして南海トラフ巨大地震が首都圏に与える影響の大きさを私は今まで全然考えていなかった。
内閣府の検討会による推計では、東京、名古屋、大阪の3大都市圏では南海トラフ巨大地震発生時の超高層ビルの揺れ幅は東京23区や名古屋で最大約3メートルと東日本大震災発生時の2倍近くに達し、震源からの距離が近い大阪の一部は最大約6メートルと指摘された。
東日本大震災の東京での揺れを覚えている人なら絶句するはずだ。怖い。
だが、「怖い、怖い」と右往左往するばかりではもったいない。著者の宮地美陽子さんは、東京都知事政務担当特別秘書として災害と防災に関するあらゆる情報に触れてきた人だ。都の取り組み、専門家の見解、過去の教訓、そして被災者の言葉が本書に詰まっている。
防災の盲点と東京都の取り組み
本書の1章と2章では、首都直下地震と南海トラフ巨大地震で想定される被害について詳細に語られる。どれも「ウワッ」と声が出そうになる。いくつか紹介したい。
たとえば「巨大都市ゆえの“弱点”」として紹介されるのは「港」だ。
東京湾岸をはじめとするコンビナートは、埋め立て地が揺れた場合、重油や原油タンクから漏れが生じ、燃えたり海に流出したりする危険がある。(中略)
南海トラフで巨大地震が連続発生するという条件でシミュレーションをしたところ、約600基のうち約1割のタンクの中にある油が揺動により流出する可能性があるという。(中略)
大地震が起きた場合、他府県や海外からの救援物資と人員を海上輸送し、緊急対応や復旧・復興活動の拠点となる国の施設「基幹的広域防災拠点」が神奈川県川崎市の東扇島(おうぎしま)地区にある。しかし、東京湾に大量の重油や原油が流出すれば、通行不能になって海上交通がストップする事態が予想される。
自分ひとりの視点では、ビルが揺れて電車もタクシーも使えず帰宅困難者の仲間入り……と東日本大震災の記憶で災害を考えがちだが、「首都」という大きな視点から災害を捉えると、思いもしない被害が無数に存在する。さらに帰宅困難者についてもこんなリスクが指摘されている。
2020年からの新型コロナウイルス感染拡大が収まりを見せ、ようやく国内外からの観光客が首都を訪れるようになった。ただ、河田名誉教授は「東京に土地勘のない観光客が最も危険だ。いざというとき、どこが安全なのかわからないまま右往左往すれば、その集団が『第二の災害』を引き起こす」と警告する。
ウワッ、本当だ。自分が海外旅行するときの様子を想像すれば、それがどんなに怖いことなのかがよくわかる。
そして災害のあとにも予想外のハードルが待ち構えている。「地震で家が壊れたから修理しよう」と思っても……?
2022年の国勢調査によると、2020年時点の大工は29万7900人で、20年前から半減した。(中略)中林名誉教授は「首都直下地震を想定すれば、住宅の修理をしてくれるような大工の人数は減っている、そこに注文が殺到してしまうのですぐに来てくれないと思っていた方がよい」と懸念する。さらに「平時にみんなが耐震改修を行うことは、大工さんの仕事を増やし、災害時の住まいの応急修理をしてくれる職人の確保にもつながるはずだ」という。
まるで落とし穴が無数に広がっているようだ。本書は地盤の強度の差と耐震基準についても問題を指摘する。自分の住まいの地盤やリスクを調べられる無料のサービスも本書で紹介されているのでぜひ試してほしい。
……と、怖いことばかりを並べているが(それでも本書の1%くらいだ!)、対策も紹介したい。
東京都の「防災アプリ」は、災害時に役立つコンテンツを提供している。事前の備えや災害時の対処法などの情報を掲載しているほか、オフライン時も現在地を表示し、目的地までの移動を助ける防災マップや地震情報、避難情報などをプッシュ通知する。利用料は無料で、英語や中国語などの多言語対応にもなっているので事前にダウンロードし、地域登録などを済ませておけばよいだろう。
東京都の「防災アプリ」は本当にオススメだ。日頃のゲリラ豪雨などでも助かるので愛用している。デザインもわかりやすいし、サイのアイコンもかわいらしくて見飽きない(見飽きないって大事ですよ!)。とても丁寧に作られたアプリだなあと思う。
そして東京都の取り組みをもう一つ。コロナ禍ではこんな動きをしていたのだ。
小池都政で醸成された対応力がさらに向上したのは、新型コロナウイルス感染症への対応と言える。東京都は自衛隊から「危機管理監」を迎え入れている。新型コロナ対応を「災害」と位置づけ、危機管理監が陣頭指揮にあたることにした。状況が変化するごとに危機管理監が戦略を描き、毎日同じ時間に幹部が集まって情報共有を行う自衛隊式の幹部会議を開くようにしたのだ。(中略)
災害発生時の初動は、都庁から徒歩30分圏内の災害対策職員住宅に居住する約300人が対応にあたり、危機管理監を本部長とする災害即応対策本部などが設置される。
対策のアップデートが続いているのだとわかると、心強い。とはいえ、公的機関の仕事だけにおんぶに抱っこでは生き残れないだろう。過去の地震の教訓と、大地震が発生したときに個人が「やってはいけないこと」のリストはぜひ読んでほしい。
とくに私が感心したのが「地震学者らはこう備えている」という項だ。まさに「餅は餅屋」な情報が詰まっている。
「私ってば、こんな危ないところでノンビリ暮らしているのか!」とギョッとする本ではあるが、じゃあ引っ越すかという気持ちも湧かない。日本のどこにいたって、世界のどこにいたって危機はある。それに、住む土地を選ぶことは、生き方を選ぶことでもあるからだ。でも生き方を自分で選ぶのなら、災害や危機に備えることもセットで必要なのだと痛感した。「あのね」と大切な人に語りたくなる話がいっぱい詰まった本だ。
- 電子あり
首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山大噴火……過去にも一度起きた「恐怖の大連動」は、東京・日本をどう壊すのか?
命を守るために、いま何をやるべきか?
最新データや数々の専門家の知見から明らかになった、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」とは――。
【本書のおもな内容】
●320年ほど前に起きた「前代未聞の大災害」
●首都直下地震で帰宅困難者453万人、6000人が犠牲に
●朝・昼・夕で被害はどれだけ違うのか?
●南海トラフが富士山噴火と首都直下地震を呼び起こす
●なぜ「足立区」が一番危ないのか?
●「7秒」が生死を分ける、半数は家で亡くなる
●大震災で多くの人が最も必要と感じる情報とは?
●国や都の機能が緊急時に「立川」に移るワケ
●そもそも地震は「予知」できるのか?
●「内陸直下の地震」と「海溝型の地震」は何が違うのか?
●エレベーター乗車前に「すべきこと」
●半年に1度の家族会議をする地震学者
●なぜ「耐震改修」が進まないのか?
●弾道ミサイルから逃げられない事情
●天気はコントロールできるのか……ほか
【目次】
はじめに 最悪のシミュレーション
第1章 首都直下地震の「本当の恐怖」
第2章 南海トラフ巨大地震は想像を超える
第3章 大災害「10の教訓」
第4章 富士山噴火・気象災害・弾道ミサイル
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori
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