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講談社社員 人生の1冊【77】宇宙観を変えた『ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む』
(著:野本 陽代)
臼杵明裕 第一事業戦略部 20代 男
心に星空を、ポケットにこの一冊を
縁あってこの春から講談社に勤めることになった僕ですが、子供のときは宇宙科学者になるのが夢でした。思えばその夢を抱いたきっかけは、まだ幼稚園の頃、両親に連れて行ってもらった天文台。父に抱きかかえられて覗(のぞ)いた大きな望遠鏡のレンズには、暗い宇宙にぽっかりと浮かぶ土星の姿が、周囲の環までくっきりと映し出されていたことを鮮明に覚えています。その後しばらくは、昼間は宇宙の図鑑を眺め、晴れた夜には星空を首が痛くなるまで見上げることが、僕の大きな楽しみになりました。あれから18年あまり、科学者にはなれなかったけれど、今でも星のない東京の夜空を仰ぐと、ふと幼い日の驚きと感動を思い出して、何とも切ない気持ちになることがあります。
1990年に打ち上げられ、修理を重ねつつ今も地球を周回しているハッブル宇宙望遠鏡。人類史上最高の性能をもつこの望遠鏡のプロフィールと業績を紹介する『カラー版 ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む』は、新書とは思えないほどの豊富な天体の図版を、これでもか!とオールカラーで掲載している贅沢な一冊です。ハッブルのまなざしがとらえた宇宙は、ただただ美しく、そして同時に、何かとても神聖なものを見るような畏れをも感じさせます。星の赤ちゃんが生まれる星雲の奥深く、衝突するふたつの銀河、はるか百数十億光年彼方の最古の星たち。ため息なしでは読めないスペースオペラが手のひらサイズにギュッと詰まった本書を、雄大な夢を抱く少年少女に、そして幼い頃宇宙に憧れた全ての大人に、この場を借りておすすめしたいと思います。
僕がこの本に出会ったのは、就職活動に疲れていた大学3年生の冬のことでした。購入してからは、いつも鞄に忍ばせて会社回りをしていたのを思い出します。宇宙スケールで見れば自分の就職、ひいては人生なんて些事の中の些事、刹那のまたたきにすぎません。ちっぽけな人生、なるようになるさ、ということを忘れないために、そして子供の頃と変わらぬ好奇心をいつも胸に秘めておくために、しばしば電車の中でこの本を開いては、遠いカリーナ星雲を駆けめぐる妄想をしたものです。それが功を奏したか否かは、まあここでは置いといて……。
最後にひとつ。みなさん、夜空は「見上げる」ものだと思いますよね。ふつうは、首を傾げて星空を仰ぎ見る方が大半でしょう。でももし今度、星空がきれいなところへ行く機会があれば、立ったままではなくて、ぜひ地面に横になって星空を見てみてください。そして、自分の正面を「上」じゃなくて「前」なんだ、自分の前方に宇宙が広がっているんだ、と自分に言い聞かせてみてください。すると、広大無辺の宇宙に投げ出されるような、自分がまるで宇宙船地球号の舳先でタイタニックのポーズをしているみたいな、そんな錯覚を楽しめます。なーんだ、と思われるかもしれませんが、一度お試しあれ。
- 電子あり
美しいカラー写真が明かす、宇宙の最新の姿とは?
加速する宇宙の膨張、宇宙の年齢など天文学の教科書をつぎつぎと書き換えてきたハッブル望遠鏡。その栄光と苦難のドラマを描く。
執筆した社員
臼杵明裕【第一事業戦略部 20代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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