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10代の若者を中心としてディストピアの世界観が人気になっている。

進撃の巨人 Before the fall
(著:涼風涼 原作:諫山創)
2014.08.18
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大ヒット漫画『進撃の巨人』をノベライズした作品ですが、原作をそのまま小説化したものではなく、その前日譚を描いたもの。

原作では人類を巨人の脅威から守る三重の壁のうち「ウォール・マリア」はすでに破られ、その防衛圏は大幅に縮小しているが、この小説の時代はまだ健在である。
しかしその一方で巨人の研究は進んでおらず、武器も通常兵器のみ。人類側に対抗する術はなかった。
主人公は三重の生活圏のうち、もっとも外側にあるシガンシナ区に暮らすアンヘル・アールトネン。彼は「調査兵団」を顧客とする工房の職人である。調査兵団の任務は壁を出て巨人の生態を研究することにあった。過酷な任務である。
「職人」というと、なにか威勢のいい、いなせなお兄さんを想像してしまうが、本作においては、そのイメージは正しくない。
現代社会の意味合いでいうと、彼は「技術者(エンジニア)」と呼ばれるべき存在で、兵団の兵器開発にあたっている。彼は幼なじみであり、親友である調査兵団の兵士、ソルムとの約束で、職人の道を歩んでいた。優れた兵器をつくり出すことで、彼らを守る。それを自らの使命としていたのである。
巨人の脅威により、50万人まで人口が激減した人類。生活圏は壁の中。そうした状況の中で、「進撃の巨人」の登場人物たちは、この世界における「自分たちの使命」を選びとり、その道を歩んでいく。本作もそのDNAはきちんと受け継がれている。
ただ人類側の思惑も一枚岩ではない。保身に走るだけの人間もいる。なによりこの世界は美しくも残酷で、ただレールに乗っているだけでは運命を切り開くことはできない。
アンヘルもまたエンジニアとして「巨人を殺す」技術を開発するために、命を賭けて壁の外に出る。その犠牲はあまりに大きかったが、彼という人間がいたおかげで、人類は巨人との戦いで、大きく前進することが可能になった。

余談だが『進撃の巨人』の世界は、上でも述べたように明るいとは言えない。巨人の脅威にさらされ、しかも対抗する手段は希薄という、抑圧された世界観である。実はアメリカでも10代の若者を中心としてディストピアの世界観が人気になっている。いかなる現実(リアル)を反映しているのだろうか。

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レビュアー

堀田純司

1969年、大阪府生まれ。作家。著書に『萌え萌えジャパン』『人とロボットの秘密』『スゴい雑誌』『僕とツンデレとハイデガー』『オッサンフォー』など。「作家が自分たちで作る電子書籍」『AiR』の編集人。現在「ITmediaニュース」「講談社BOX-AiR」でコラムを、一迅社「Comic Rex」で漫画原作(早茅野うるて名義/『リア充なんか怖くない』漫画・六堂秀哉)を連載中(近日単行本刊行)。.

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