今日のおすすめ

講談社社員 人生の1冊【31】『火怨 北の燿星アテルイ』歌舞伎に続き宝塚でも公演!

火怨 北の燿星アテルイ
(著:高橋 克彦)
2017.07.16
  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます

木村圭一 生活文化第三出版部 40代 男

「歴女」に負けてなるものか!

新潟の北の端、私の生まれ故郷にある神社。その近くに「岩舟(いわふね)の柵」なるものがあったと学校で習った記憶があります。築かれたのは奈良時代。「柵」、つまり敵の侵入に備えるための防御壁です。柵の内側は「味方」、外は「夷敵」。そう、当時の私の故郷は、朝廷の支配の及ぶ最北端であり、防衛の最前線だったわけです。

柵の外の住民たちは「蝦夷」と呼ばれました。支配に服したか否かの差によって、同じ人間でも大きく差別されました。『日本書紀』を始め、日本の正史とされているものは、ほぼ「権力側の視点」でなぞった歴史であるわけですが、私は「破れし者、虐げられし者、反逆を試みた者」の視点で見た歴史というのが大好きなのです。

高橋克彦氏の「陸奥3部作」の中でも、最も古い平安初期を舞台に、東北人の独立を守ろうとする闘いを描いたのが『火怨 北の燿星アテルイ』です。

勇敢なアテルイは故郷の軍事上のリーダー。攻める朝廷サイドの軍を率いたのが坂上田村麻呂です。片や歴史から葬られた英雄、一方は教科書にも記述される有名な軍師。「柵」の外側で人々はいかに暮らし、いかに闘ってきたかをこの小説は教えてくれます。要するに、奥州藤原氏などが栄華を誇ったように、当時の東北は金の産地だったのです。「資源を有する地」が「力のある者、権力者」に狙われるのは、古今東西変わらぬことのようです。

そういえば、坂本龍馬は「下士」という身分でした。家康が幕府を開いた際、四国を治めるために送り込まれたのが山内家です。大河ドラマ『功名が辻』で一豊を演じていたのは上川隆也さん。彼は人が良さそうですが、実際は元々いた長宗我部を追いやり、結果、下士という身分が生まれ、それは幕末まで続きました。龍馬も弥太郎も「虐げられし者」の一人だったわけです。

家康といえばもう一つ思い出すのが 関ヶ原。西軍の敗北を見て取るや、敵陣を中央突破し、薩摩に見事逃げ帰った薩摩の島津義弘。合戦後も決して徳川には心から服することなく、外様の雄藩として君臨し続けました。島津を討ち取れなかったことで徳川は後に瓦解します。しかし、その反逆の英雄・島津にしても別の歴史があります。琉球を攻め、彼の地を収奪しました。「人頭税」なる過酷な税が課せられた人々の暮らしはかなり過酷だったことでしょう。これもまた歴史の一面です。これは教科書にも書いてあったように記憶していますが。

このように、歴史をさまざまな角度から見つめ楽しむことを、この小説から、さらには「本」という存在に教えてもらったように思います。新たな視点の獲得は、また新たな読書を誘い、これがおそらく一生続いていくのでしょう。悪くない話です。

「陸奥3部作」のもう一つ、前述の、奥州藤原氏を描いた『炎立つ』は大河ドラマ化されました。原作ももちろんですが、DVDにもなっていますのでご覧になってみてください。最も新しい時代の反逆者が登場するのは『天を衝く 秀吉に喧嘩を売った男 九戸政実』。これもエキサイティングな漢(おとこ)の物語です。ご紹介しました『火怨』も含め、3作いずれも「講談社文庫」に収録されております。

  • 電子あり
『火怨 北の燿星アテルイ』書影
著:高橋 克彦

第34回吉川英治文学賞受賞作品。
8世紀、黄金を求めて押し寄せる朝廷の大軍を相手に、蝦夷の若きリーダー・阿弖流為(アテルイ)は遊撃戦を展開した。古代の英雄の生涯を空前のスケールで描く傑作歴史長編。

既刊・関連作品

執筆した社員

講談社社員 人生の1冊 イメージ
講談社社員 人生の1冊

木村圭一【生活文化第三出版部 40代 男】

※所属部署・年代は執筆当時のものです

  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます