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講談社社員 人生の1冊【22】『小説の神様』物語を、小説を愛するすべての人へ。
竹内明日香 校閲第二部 20代 女
物語の力を再確認させてくれる本
私は小さいころからぼんやりしていて、将来はポ○モンになりたい(トレーナーのほうではなく)と考えているような子供だった。小学校にあがると、漫画や児童書が好きな友達が増えて、私の夢は作家になった。好き勝手なお話を書いていた思い出と物語への憧れを胸に秘めたまま、大学四年生、就職活動を迎えた。就職活動中、講談社の面接も少し進んだところで、面接終わりのご褒美として買って帰ったのがこの本だった。
主人公、千谷一也(ちたにいちや)は父を作家に持ち、自身も中学生の時にデビューしたものの売れない無名作家のまま、小説を嫌いだと思ってしまっている高校生作家だ。物語は、編入生で彼と同時期にデビューした美少女売れっ子作家、小余綾詩凪(こゆるぎしいな)と一也がタッグを組み、二人で作品を書くという青春小説だ。「僕は主人公になり得ない人間だ」と言う主人公と、凛とした性格きつめの美少女だなんて、作中の言葉を借りればまさに「ラノベかよ」と思わずにはいられない。しかし、読み進めるほどに、決して軽くなんてない作品だということを感じた。
読み始めての印象は、「売れない」「読まれない」「書けない」ことの苦しさが重くのしかかってくる作品だ、というものだった。
期待を背負ってデビューしたはずなのに、作品は売れず良い作品も書けなくなり、自分に自信を失っている一也。彼は、作品を完結させずシリーズで続けるべきだ、読者にウケる作風や文体で書くべきだ、と痛々しいほど売り上げに固執する。一方で、「小説の神様」が見えると言い物語を愛する詩凪や、小説に助けられ誰かの心に響く小説を書きたいと願う後輩の女の子が語る「物語への想い」はとても美しく、正しい。だが、一也はその言葉を否定せずにはいられない。皮肉をぶつけ、反発しあい傷つけてしまう。物語の途中で、詩凪にも小説家生命に関わる秘密があるとわかる。しかし、クライマックスで二人が苦しめられてきた軛(くびき)から脱した瞬間、胸の中がぶわっと温かくなった。まさに小説の神様と表現するほかないような感情の迸りを感じたのだ。
有難いことに講談社で働くことになり、自分が書き手になるのではなく書き手をサポートする仕事をすることになった。出版界の状況を知れば知るほど、一也の苦しみが思い起こされる。彼らのように物語を紡ぐ人たちを支え、読者の心を動かすことのできる本作りをしていきたい、そして、多くの人に本を好きになってほしい、と思っている。ぜひこの作品を通じて、物語の力や作家の情熱を感じてほしい。
- 電子あり
物語を愛するすべての人たちへ捧げる、僕たちの青春。
僕は小説の主人公になり得ない人間だ。学生で作家デビューしたものの、発表した作品は酷評され売り上げも振るわない……。物語を紡ぐ意味を見失った僕の前に現れた、同い年の人気作家・小余綾詩凪。二人で小説を合作するうち、僕は彼女の秘密に気がつく。彼女の言う“小説の神様”とは? そして合作の行方は? 書くことでしか進めない、不器用な僕たちの先の見えない青春!
執筆した社員
竹内明日香【校閲第二部 20代 女】
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