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「古い本になると、みりょくもつよくなる」 「本って人をひきつけて、その人に影響をあたえるってことがあるでしょう」
(著:柏葉幸子 絵:杉田比呂美 )
小学6年生の夏休み、初めての一人旅をしたリナが向かったのは、おとうさんに教えられた“霧の谷の町”という所でした。
でもなかなか街は見つかりません。誰にきいても街の場所ははっきりしないのです。それでもおとうさんのいうとおりにひとりで街をさがし続けます。
山道に迷いながらもなんとか町に着いたリナ。そこは山奥とはとても思えない街でした。
その町でリナは、口やかましい下宿屋のピコットさんに出会います。どうやら彼女はこの町の主人らしいのです。リナはピコットさんの下宿に住まわせてもらいながら、注文の多いピコットさんに言われるままにリナは働く(=生きる)ことになるのです。
ところで、この“霧の谷の町”はというと……なにやらひとくせもふたくせもあるような人たちでいっぱいでした。住人たちも、自分たちの住んでいる所をめちゃくちゃ通りとよんでいるとおりのむちゃくちゃさだらけの町なのです。
リナにとっては毎日の出来事だけでなく住人たちの生活ぶりや人柄にも驚かされっぱなしの連続でした。おまけにこの町の住人はどうやら魔法使いの子孫らしいのです。
そんなこの町の変わった住人たちの中でひときわ魅力的なのが本屋のナータさんです。彼女がリナに言った言葉が心にしみてきます。
「古い本になると、みりょくもつよくなる」
「本って人をひきつけて、その人に影響をあたえるってことがあるでしょう」
「本に、読んだ人のにおいがしみつくの。わたしそんな本にしか興味がないのよ」
と……。
柏葉さんは、この本もナータさんのいうような本になりますようにと願って書いたのに違いありません。リナが助けた王子さまの性格がちょっとヘンだったり、悪口ばかりのオウム、四季の花を咲かすために部屋で四つのストーブを燃やし続けているイッちゃんなど、一人一人が物語を持って生きているように思えるのも、作者のそんな願いが込められて描かれているからに違いありません。
驚きと楽しさで過ごしたリナですが、この町でのそんな日々にも終わりがやってきました、しかもピコットさんの突然の宣言によって。ピコットさんの言いつけどおりに町を去った(元の世界にもどった)リナですが、気がつくとリナの手には大きな袋が残されていました。その袋の中にあったのはこの町で過ごしたリナの思い出がつまった品々でいっぱいでした。その一つ一つがあの町の日々をリナの心に響かせてくれるものでした。
もしかしたら実際に過ぎた時間は数時間だったのかもしれません(作者はそのように感じさせてもいるように思えるのですが)。でもリナが過ごした日々は永遠のものなのでしょう、この町が永遠のものであるように。そしてそれは、ある日、リナのおとうさんがこの町のことをリナに教えたように、いつかリナが誰かに伝え教えることで、この町は永遠に生き続けるのでしょう。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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