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血飛沫が舞い生首は嗤う。限界突破の殺し愛!! 忍者と極道の殺し合い
読んでないあなたは損をしている
『忍者と極道』はその名のとおり、忍者と極道の争いを描いた作品です。
極道は日本を裏から操ってきた。東京大空襲だって、高度成長だって、バブルだって極道が片棒をかつぐことで成立していた。だが90年代、突如として活動を再開した天敵・忍者によって、行く手をはばまれるようになった。かくして忍者と極道による抗争が激化していく――。
これがストーリーの骨子ですが、これだけ述べるとなあんだと感じる人も多いかもしれません。
チームバトルものじゃん。何度も何度も何度も何度も描かれてきたアレじゃん。名作がいくつもあるアレじゃん。めずらしくもなんともないじゃん。
断言しましょう。
あなたは損をしている。
パブリック・イメージにとらわれない忍者像
統計をとったわけではないから正確なところはわかりませんが、NINJAはおそらく、世界でもっとも有名な日本語です。しかも、それは漠然と「東洋のものである」と認識されています。TOYOTAは日本の企業ですが、それを知っているアメリカ人がほとんどいないことを考えると、NINJAの偉大さがよくわかります。
アメコミを素材にしアニメ化はもちろん映画も数作つくられた世界的大ヒット『ミュータント・タートルズ』の原題は、Teenage Mutant Ninja Turtlesといいます。亀たちが駆使して大暴れするあのワザは忍術であり、彼らが覆面をしているのも忍者のイメージを踏襲したものです。
とはいえ、日本人であるわれわれは、『ミュータント・タートルズ』のような飛躍は難しくなっています。われわれは忍者が歴史のある時期にたしかに存在していたことを「常識として」知ってしまっており、忍者が登場するというと、どうしても時代劇にせざるを得なくなってしまうのです。
山田風太郎の『甲賀忍法帖』と、それをマンガ化した『バジリスク』は大きな人気を得ましたが、あの作品は「忍者どうしが特殊能力を駆使して戦う」作品でありながら、「戦いの背後には徳川の後継者争いがある」というところで時代劇でなければ語れない必然を持っていました。「忍者」にある程度のリアリティを持たせようとすればどうしたってそうなってしまいます。
ほかに、舞台をまったく想像上のものにして、ファンタジーを語るという方法もありますが、当然のこと忍者のリアリティは失われていきます。
ところが、本作は現代劇です。登場人物が忍者でなければならない理由は、彼が時代劇のキャラクターだからではありません。「特殊能力を持っている」からです。
言い換えれば、この作品は『ミュータント・タートルズ』がアメリカ作品だからこそできた飛躍を、純日本製でありながらやすやすと成し遂げてしまっているのです。
凄いことだよ!
このルビを見よ
この作品は、「フキダシ内の漢字にはルビ(よみがな)がふられるものである」というマンガの特性を、じつに巧妙に利用しています。
日本語を日常的に使用しているとなかなか気づけないのですが、漢字にルビ(よみがな)をふる習慣は、世界的にみるととても異常なものです。漢字のふるさと中国ではこんなことする必要はないし、日本語と同じように漢字から文字を発展させた韓国にもありません。自分が知るかぎりでは、漢字文化圏でルビを使用しているのは日本語のみです。
作者がそのことに意識的であるかどうかはわかりません。
しかし、ルビを使うことにより文章に複数の意味が持たせられることにはおおいに意識的であり、本作はそれがとても効果的に活用されています。
たとえば、本作でもっとも重要なセリフのひとつは、次のように表現されます。
裏社会(ウラ)で悪事(わるさ)かますと忍者が来襲(く)る
こんなのは序の口で、下のコマなどは、同じ漢字に異なる読み方をあてています。
PCやスマホなどIT機器は、主として欧米で発達したため、ルビを表記するのが得意ではありません。理由はそればかりではありませんが、自分はルビを滅び行く文化だと考えています。
この作品は、あえてルビの特性を利用しています。作者が言葉に対しとても意識的であることの証左でしょう。
凄いことだよ!
ネットマンガだからできること
本作は、従来のコミックのように、雑誌掲載のかたちで発表されたものではありません。『コミックDAYS』というアプリ・ウェブ媒体で発表されたものです。
そのこと自体はめずらしくはありません。同じ形態の作品はいくつもあります。
おもしろいこころみだなあと思ったのは、本作の外伝「獅子の華」を見たときです。
期間限定公開のためURLの紹介はしませんが、外伝は、たとえ考えついたとしても発表の機会がないのが普通でした。すくなくとも、雑誌という紙媒体でマンガ作品を発表するのが常識だったころは、ページが有限であるため、よほどのヒット作でなければ発表が難しかったのです。
ところが、ネットにはページの限定がありません。理論上は、作品を無限に掲載することができます。「獅子の華」はあきらかに、だからこそ発表された作品でした。
掲載されたのはペン入れする前段階のものです。早い話が、マンガとして完成される前のものが発表されていました。しかし、本作の読者ならかならず気になるポイントはしっかり謎解きされてありました。
マンガ制作のスピードは、断じてネットに適したものではありません。「獅子の華」はネットの特性をふまえたうえで描かれた作品だということも可能でしょう。
凄いことだよ!
こんなに楽しいマンガはそうそうない
この文章を読んでいる人の中には、鬱屈した気持ちを抱えている人も多いでしょう。手足を縛られているように感じている人もいるかもしれません。
本作は、そういう人にこそ読んでもらいたいと思っています。
自分は思わずにいられませんでした。
「ああ、そうだった。これがマンガだ。マンガってこういうもんだった。すごく面白いんだ。忘れてた!」
本作はマンガの良いところをすべて取り入れて執筆された作品です。これを読んだあなたはきっと自分の内に宿っている何かに気づくことでしょう。それはとても得がたいものです。
凄いことだよ!
- 電子あり
トラウマから笑えない少年・忍者<しのは>、表向きはエリート会社員ながら裏では組を牛耳る極道<きわみ>。そんな2人が出会った時、300年にわたる忍者<ニンジャ>と極道<ゴクドウ>の殺し合いの炎が熱く燃え盛る! 孤独を抱えた漢達による、情熱と哀切に彩られた命のやり取り。決めようか……忍者と極道、どちらが生きるかくたばるか!
レビュアー
早稲田大学卒。元編集者。子ども向けプログラミングスクール「TENTO」前代表。著書に『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの? 』(講談社)。2013年より身体障害者。
1000年以上前の日本文学を現代日本語に翻訳し同時にそれを英訳して世界に発信する「『今昔物語集』現代語訳プロジェクト」を主宰。https://hon-yak.net/
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