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講談社社員 人生の1冊【50】『きんぎょ注意報!』空飛ぶピンクの金魚と才能
近藤憲二郎 文芸図書第三出版部 40代 男
大の男を虜にした少女まんがの“才能”
もう20年以上も昔のことになりますが、新卒入社をした私は、それまで手に取ったことすらない『なかよし』という少女まんがの編集部に配属されました。
「編集者の仕事は何が楽しいか。それは“才能”に出会えることなんだよ」
先輩編集者は、そんなアドバイスをしてくれました。しかし“才能”とはいっても……。誌面を埋めつくピンク色に気圧されながら「自分はこの雑誌の中に“才能”を見出すことができるのだろうか?」……いま白状すれば、この仕事は自分には無理なんじゃないか、と悩みつつ『なかよし』との格闘を始めたのです。
はたして。私はすぐに“才能”が誌面に溢れかえっていることを知ります。入社後はじめての新年を迎えるころには、はずかしながらも「この作品、おもしろいね」とか「こうしたら、もっとよくなりそうだな」とかを、自分なりに掴めるようになりましたし。まったく未知の世界に投げ込まれたからかもしれません。数々の“才能”の中で「編集者の仕事っておもしろいな」と、心から実感することができました。
ご紹介する『きんぎょ注意報!』は、20年ほど前(※注 2011年執筆当時)の『なかよし』誌上で大ヒットしていた作品です。編集部の門を叩いた配属日。部屋のそこかしこには「空飛ぶピンクの金魚=ぎょぴちゃん」のぬいぐるみが、ぶら下がったり、転がったりしていました。ちなみに「ぎょぴちゃん」は、『きん注!』の象徴といえるメイン・キャラクター。かわいい「ぎょぴちゃん」ですが、よくよく冷静になってみると、すごくシュールなキャラです。
この『きん注!』こそは、私に“才能”とはどういうものかを気づかせてくれた作品でした。当時の『なかよし』誌上において、『きん注!』は、まったく異質な作品だったのです。金魚が空を飛ぶという、ありえない舞台設定。ギャグまんがのようで、前向きなメッセージにホロッとさせられてしまうストーリー展開。そして、恋愛要素がゼロの基本構成。すべてがフツーじゃないのに、読めばスッと作品世界に没入できる(男の私でも)。そして、これこそが大事なんだと思いますが、ちゃんとした少女まんがでもあります。初めて読んでゾクッと震えた瞬間は、いまでも忘れられません。
私自身は部署を移っても、当時『きん注!』を担当していた先輩編集者を心のライバルに、新たな“才能”を見出すことに精を出す日々です。……いや、ほんとうにいろいろな意味で、物語づくり、あるいは編集という仕事のもっとも大切なところを教えてくれる作品だと思います、ここでは書ききれないほどに。
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執筆した社員
近藤憲二郎【文芸図書第三出版部 40代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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