筋肉だって細胞
筋トレ好きとしてはこの細胞の言い分をぜひ聞きたかった。「はたらく細胞」シリーズの公式スピンオフ作品である『はたらく細胞マッスル』の舞台は“骨格筋”。そこにいるのは“筋細胞”。そう、これは筋肉のお話だ。待ってました。
とある人間の身体のなかでは、今日も“赤血球”が酸素を運ぶ仕事に励んでいた。
不摂生極まりない生活を送っていたこの身体は、最近ちょっと運動を始めたそうで、細胞たちも活気づいている。
そして新人赤血球が向かった先は骨格筋。
すごいよね、骨格筋を鍛えまくった人はベンチプレスを100キログラムとか持ち上げちゃうんだよ。つまり0.1トンを扱える! なんてダイナミックな世界なんだろう。
骨格筋ゾーンはなかなか渋い場所だ。ちなみに上腕二頭筋とは「ほら、筋肉ついたでしょ?」と他人に手っ取り早く筋肉アピールをしたときに腕を曲げてモコっと膨らむあのパーツだ(見せられた方は、実際の発達具合はどうであれ「あ、大きいですね」と適当に流すケースが多い)。
骨格筋にいる筋細胞はどんな人なのかと言うと……、
膝を抱えてため息をついている。どうしたの?
この身体の筋細胞は、今は無職でヒマなのだという。そんなヒマそうな筋細胞たちのことを想像すると、この世のマッチョの大半は青ざめる。
でもどうしてこの筋細胞はヒマなのだろう。身体は運動を始めたんじゃないの?と思っていたら筋細胞を呼ぶ声が!
なるほど、いきなり筋肉に直結するのではなくて神経系から変わっていくのか(だから数ヵ月は変化がなくてもあきらめずに筋トレを続けるといいんだろうな)。
筋細胞さんは筋繊維全部で一つの細胞。だから顔はみんな同じ!
さて、「はたらく細胞」シリーズのおもしろいところは「体内で細胞たちが起こすあれこれを擬人化したらどうなる?」という点だと思う。筋細胞のいう「シゴト」とは、運動や筋トレのことだ。身体が筋トレを始め、筋細胞が働く様子をちょっとだけ紹介する。
そうそう、筋トレのエネルギーは糖を分解して作る。
神経細胞のかけ声がボディビルの大会のようだ。で、神経細胞が言っている「収縮」が大事なのだ。収縮を繰り返すことで筋肉は強くなる。収縮させればさせるほど、それだけ筋肉は大きくなる。追い込めば追い込んだだけリターン(筋肉の成長)があるのだ。世界中のいろんなトレーニングジムで「ウッ」みたいな声を上げながらスクワットをしている人の体内で起こっていることが本作では描かれている。
筋肉を裏切るとどうなるか
筋肉はマッチョ専用品ではない。みんなの身体についている。だから、本作はこんななじみ深いイベントも描く。
ちょっと慣れない運動をすると発生する筋肉痛。そうか、筋肉痛で座るのもつらい日は、“白血球”たちのお世話にもなっていたのか。いつもごめんよ。
そして筋トレビギナーが知っておきたい基本情報もふんだんに登場する。
休息はトレーニングと同じくらい大事! それでも毎日ジムにいる筋トレマニアは、おそらく「今日は背中の日」といった具合にパーツ毎に分けて筋トレをやっているはずだ。
ところで「筋肉は裏切らない」といろんな人が口を揃えて言うし、それは本当だと思うが、「ただしオマエが裏切らない限り」という条件を忘れてはいけない。
運動をしなくなって筋細胞が「シゴト」を失うと、骨格筋は解体され、みるみるショボくなる。でもこの身体は最近また運動を始めたらしいし、上腕二頭筋は活気づいてる。なんとか脚の筋肉たちも覚醒してくれないものか。
こういう「裏切り行為(NG生活習慣)」もある。
睡眠不足やストレスは筋肉の敵。「寝る子は育つ」はマジなのだ。ちょっと夜更かししたくなったら、私はこのページとその後に待っていた惨劇を思い出すことにする。
本作の筋細胞の奮闘ぶりと成長を応援しつつ、ちょっと自分の上腕二頭筋を触ってみてほしい。パーン!と筋肉が張っていても、ふんにゃりしていても、ひげ面タンクトップ姿の筋細胞があなたを見ているはずだ。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori