あまやかされたい人あつまれ!
ひたすら甘いものがほしくなる時ってありませんか? すごく辛いものでもいいんですけど、ときどき、なにかひとつの属性のおいしさをずーっと頬張って胸をいっぱいにしたくなる。『佐倉は私を好きすぎる』は逃げも隠れもしない極甘ラブコメで、あーこれこれと幸せな気持ちで一気読みしました。ふわふわ甘いものって疲れに効く。
とにかく“佐倉(さくら)”が出来たやつなんですよ。
好きな子からこんなダイレクトな振られ方をしたのに、
キリッ! 振られたあとの人間に見えますか? ヒロインの“沙羽(さわ)”がとっさに言い放った「タイプじゃない」っていう取り付く島もないお断りが、彼の胸をグサリと突き刺したのは確かなのに。キリッと決意表明してる。なんて前向きでジェントルなんだろう。
で、「佐倉、すごいな」って思いながら読んでいくと、ずっと佐倉がすごいんです。1巻まるまる、佐倉がすごくて世界が甘い。
こんなふうに具体的に褒(ほ)められたい。そして沙羽の不器用さよ。かわいげないんだけどもかわいい。
うん、やっぱりすごいわ。沙羽にプイッとされようが臆することなくコレ。ほんと一歩も引かないの。
沙羽だけじゃなく私までふわっふわのブランケットに包まれる少女マンガです。すごいよ佐倉、ありがとう!
佐倉が一歩も引かない理由
沙羽は、顔はいいのに男運がない女の子。そんな彼女の破局情報をキャッチした佐倉は「では」と切り出したのち、沙羽に告白し、一瞬で振られます。なぜなら、真面目な佐倉って沙羽のタイプじゃないから。
顔がかわいくて、髪型もゆるっとウェーブがかったセミロングな沙羽は、ファッション誌がよく言う「抜け感」を体現しているような女子高生。そんな彼女が好きなタイプは、ちょっと華のある男の子なんです(で、浮気される)。対する佐倉はメガネで黒髪でめっちゃ勉強する真面目な子。
あきらかに脈なしな感じなのに、佐倉はあきらめません。あきらめない姿勢もすごいんですが、あきらめない理由がもっとすごいんです。
「好きなタイプと実際に好きになる人は違う」これです。タイプじゃないのなら、好きになってもらえばいい。高校生っていうか恋愛アマゾネスのような境地。沙羽も友達の早川さんもポカンって顔してます。
佐倉は、実地ではなく座学でこういった恋愛の傾向と対策を学んだのでしょうね。そして学習にとどまらず実践してるのがすごい。その知識量とコミット力と自分の恋心をうまく融合させ、沙羽に想いをぶつけます。だからちょっとやそっとじゃ揺るがない。
そんな揺るがないアプローチを繰り返されたら、さすがの沙羽も「あれっ? なんかいいかも?」ってなるんです。こうなったらほぼ勝負はついたようなもの。
ここ、めちゃ好きな場面。ちょっと佐倉のことが気になり始めた沙羽は「放課後にお茶でもどう?」と誘おうとします。でも佐倉は試験前だから勉強してるんです。試験前だろうがお茶したいタイプの沙羽にとって「まさか」の展開。でも、悪くないかなあって一緒に勉強して、相手の世界を知っていきます。佐倉、短期的にも中長期的にも絶対優良な男だと思うよ。ということで、2人は第1話で交際開始します。佐倉強し。
素直になれない! でも安心して!
沙羽は佐倉と付き合い始めたものの、なんだか調子が狂いっぱなし。
佐倉のストレートな愛情表現に心を動かされたはずなのに、いざお付き合いが始まると心が動きすぎて落ち着かなくて、よそよそしい態度をとってしまいます。彼女の不器用さと戸惑いは本作の大切なスパイスです。
この沙羽の表情、つらくてたまらないな……って胸をヒリヒリさせるのは一瞬のこと! だって相手は沙羽のことを好きすぎる佐倉だから。沙羽が感じる「あー失敗しちゃったかも」は、なにひとつとして失敗になりません。こんな甘やかな世界、見たかったー!
安心と安定の佐倉、ここでも満点を叩き出す。いいなあ。どんな角度からボールが投げられようが絶対に優しく打ち返す佐倉はやっぱりすごい。これは、もちろん沙羽を好きすぎるからなのですが、彼のパーソナリティによるところも大きいのです。沙羽に恋する天才であり努力家。読むと「すごいな!」って明るい気持ちになりますよ。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。