イケオジと絶対零度男子のピュア恋
満面の笑みになるラブコメだ。BLにうとい私でも怯(ひる)まず恐れず、最初から最後まで楽しく読めた。「ああ、いいなー」と思いながら表紙を閉じると、帯に書かれた『ライトBLだよ♡』」という紹介コメントが目に入る。納得。『イケオジモンスターと絶対零度男子』、ライトBLでした。
大手総合商社で働く有能だけど冷徹な若手“氷渡(ひわたり)”と、
同じ総合商社で出世街道(とモテ街道)をひた走る40歳独身の“小鳥遊(たかなし)”。スーツも時計もビッカビカ。
“絶対零度男子”と“イケオジモンスター”と称される2人には、それぞれ誰にも言えない秘密がある。
頭の中で何考えてることって、周りには全然わからないもの。氷渡は小鳥遊の大ファン。そして小鳥遊は1年ほど続くED にお悩み中。
表情は絶対零度だけど頭の中は「あばばばばばば」。かわいい。たしかに小鳥遊は仕事はできるしスーツを綺麗に着こなす立派な胸板だって持ってるし、怪物級にモテまくる。「イケオジモンスター」なんて呼ばれてます。
そんなイケオジモンスター小鳥遊も、顔には出さないけれど頭の中は「股間(通称:タワー)」のことでパンパン。
日曜の朝だってこの通り。いじらしい。
商社の同じ部署で働きまくる2人が今まで誰にも見せずに隠してきた「顔」をお互いに少しずつ明かすことで物語はライトBLな方向にガンガン進むのです。
怒涛の展開。でもライトなBLなの! それにしても小鳥遊、ほんっとうにいい体してるなあ。仕事の合間にきちんと鍛えているんだろうな……(本作は彼の肉体美を拝む漫画でもあります。このページの1コマめとかすごいでしょ?)。
「タワー」を部下(男)の前で拝む!
小鳥遊はある日会社の人事部に呼び出され、氷渡にまつわる匿名の通報を知らされます。
氷渡の日頃のつめたーい態度を知ってはいるものの「君、パワハラやってる?」なんて真正面から雑に尋ねることはしませんし、小鳥遊としてはまずは事情を把握したい。
そしたらタイミングよく氷渡から飲みに誘われるのです。ふだん絶対に忘年会にも参加しない男なのに! まあ、氷渡は小鳥遊に「あばばばばばば」なので、いつか2人でお食事したいなって思ってはいたのですが。
「タワー」が消灯するまでは、星の数ほどの女性と夜を共にしてきたのが察せられます。あと氷渡はマヨネーズかけるときすら仏頂面なのがわかる。
この飲み会でまさかの展開。小鳥遊があまりにイケオジモンスターであるがゆえのトラブルが居酒屋で発生してしまい、流れで2人はビジネスホテルに入ってしまうんですね。
そして、これまた流れで上半身裸で揉み合いになり……!
ライトBL! ライトBLなの、この場面も! 肉体描写が手加減なしだけど、セーフなの!
で、みなさんお察しの通り、立派な花火が打ち上がったのと時を同じくして小鳥遊のタワーも打ち上がっているのです。やったね! 本作はこういった奥ゆかしい表現や小ネタのおかげでどんどん彼らのことが好きになる。たとえば先ほど紹介した「マヨネーズかけていいですか?」の場面でも、小鳥遊はマヨ断るんですよ、太るから。40歳ならではの気遣い。
しかしどうして氷渡の前で小鳥遊のタワーは点灯したのでしょう?
氷渡にも小鳥遊にもわからないんです。小鳥遊は「自分は異性愛者である」とあえて語ることもないくらい、ごく自然に女性と関係を持って生きてきました。そして氷渡は「男性が好き」じゃなくて、ただただ「小鳥遊が好き」。
「なぜタワーは灯(とも)ったのか」の核心に少しずつ手を伸ばしていくのが、この物語のおいしいところ。激務の商社を舞台に2人の関係は近づいては遠ざかり、揺れ動きます。
タワー問題は解決しないままだけど、出世街道では引き続きトップをひた走る小鳥遊。そしてその背中を見つめる氷渡。絶対零度じゃない表情が切ない。
ちなみに、相変わらず心の声はめちゃかわいいです。
小鳥遊は小鳥遊で、氷渡との師弟愛のような関係が居心地良い様子。でも……?
ほんと、どうするつもりだったの!? ちゃんと聞かせて!?
BLの楽しみかたってこういうものなのかあ、と再確認しました。めくるめくBLの世界の入門書としていかがでしょうか。スーツ姿で汗水流して働く悩める男たちが待っています。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。