コイツだけは絶対に許さない、殺してやる! と思ったとしても、それを実行に移すことは絶対にないでしょう。なぜなら、自分が犯罪者になり、墜ちるのが嫌だから。
しかし、愛する人が理不尽な殺され方をしたら、理性のたがが外れ、復讐に向かうかもしれません。人間の持つ復讐のエネルギーは、それだけ強大だと思うのです。
『十字架のろくにん』の主人公・漆間俊(うるましゅん)は、わずか12歳で十字架を背負う覚悟を決めます。
小学校の同級生5人に、執拗にいじめを受けている漆間俊。
なぜ俊がいじめられているのかというと、「一番すごいのは、何の理由もなく人を殺すことができる人間」「弱そうな人間を間接的に殺したい」という歪んだ心を持つ主犯格の至極京(しごくきょう)に実験台として選ばれてしまったから。
そのため俊は「実験体A」と呼ばれ、どこまで追いつめれば自殺をするのかという実験が繰り返されたのです。
家族に心配をかけまいと、ずっといじめを隠していた俊ですが、ついに両親に打ち明け、転校することになります。
ところが、これを良しとしない至極京の仕業で、両親は死亡、可愛がっていた弟も生死の境を彷徨う大怪我を負います。
自分も死んでしまいたいと思う俊ですが、それでは至極京の思うつぼ。
疎遠だったおじいさんの家に、身を寄せることを決めます。それは、猟銃を持ち出すためでした。
おじいさんは、第2次世界大戦中に発足した秘密部隊・呉鎮守府第百特別陸戦隊・通称北山部隊の一員で、殺しのプロ。
孫に人の殺し方を教えるおじいさんなんて、かなりショッキングな設定です。
そんなおじいさんにも、おじいさんなりの掟がありました。それは、
改心した者は見逃すこと
見逃すというのは、許すこととは若干違います。
しかし、どちらも魂のレベルが高い人間にしかできない尊い行為だと思うので、「罪を認め反省すること。そしてそれを許すことができるのは人間だけや」というおじいさんのセリフは、心に響きます。
その一方で、何も変わっていなかったら「叩っ殺したれや」ですから、かなりの危険人物です。
でもこれって、何の非もない家族を殺された人間の偽らざる気持ちなのではないかと思えてなりません。
昔の映画で、クリント・イーストウッドが型破りな刑事を演じた『ダーティハリー』も、凶悪犯を敢えて逮捕せずに射殺してしまうのですが、そこには法では裁ききれない悪に対する正義がありました。
それと同じ匂いを俊とおじいさんに感じるのです。
4年の月日が経ち、千光寺克美(せんこうじかつみ)、久我大地(くがだいち)と同じ高校に通うことになった俊。
鳴りをひそめてはいるものの、俊はもう昔の俊ではありません。
そして、俊をいじめていた5人は、今や俊の“標的”なのです。
俊が、復讐の1人目に選んだのは千光寺克美。
しかし彼は、“好意”とも取れる眼差しで自ら近づいて来ました。
千光寺は改心したのか? それとも何か魂胆があるのか?
このあたりの俊の心の動きは、非常に面白いです。
私も自分自身に置き換えて、一緒に悩んでしまいました。
騙されないぞと思う気持ち、どんなことがあっても絶対に許すもんかという気持ち、なぜ平然としていられるのか、改心していたら復讐できないという気持ちが入り乱れ、半信半疑で千光寺を見ていたのですが……。
ここから先は、同級生の東千鶴(あずまちづる)を巻き込んで、予想もしなかった展開になります。
しかし、これはまだ始まりに過ぎません。
俊は5人とどう対峙し、どんな手を使って復讐を成し遂げるのか!!
それとも……、見逃すことになる人間は出てくるのか!!
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp