“孤独に生きる”って、本当はこういうことなんじゃないかと思ってしまいました。
長い長い自粛生活の中で、孤独を感じることも多かったのですが、私はまだマシな方だなと。
この話は援助交際をしている女の子が主人公なので、エッチ系の話を想像していたのですが、ちょっと違いました。そんな単純な話ではなく、もっともっと奥が深いのです。
“孤独に生きることでしか生きて行くことができない”少女が、その境遇を受け入れ、悩みながらも健気に生きる姿に胸が切なくなるお話です。
制服姿でラブホテルから出て来た岸本愛利(あいり)に、夜の繁華街を見回っていた美崎学園の教師、藤原が声をかけます。「おまえウチの生徒だろ!!」。
面倒なことになったと思った愛利は、「こいつもヤッちゃうかー」と誘惑するのですが、藤原は……。
愛利は美崎学園に在籍する片桐ゆみを名乗り、この日は藤原に送られて帰ります。
ところが後日、学校へ行かず公園のベンチに寝そべっていたところをまた藤原に見つかり、声をかけられます。
愛利は、学校に行きたくても行けないのです。それは、“いつか無実の誰かを殺してしまう”から。
今までも、愛利の周りでは次々と大切な人が亡くなっていました。
友達、近所のやさしいおばあちゃん、小学校の先生、そして……、
愛利が出会って間もない男とホテルに行くのもお金のためではなく、生きるためだったのです。
もうこれだけでかなり切ないのですが、もっと切ないのは、唯一の肉親であるはずの母親までもが家に寄り付かず、愛利を見放していることです。
だからこそ、親身になって心配してくれる藤原に対し、次第に好意を抱く愛利。
その証拠に藤原と一緒にいる時の愛利が、とても無邪気で可愛いのです。
心の奥に抱え込んでいる秘密が大きいだけに、この2人の微笑ましいやり取りに読んでいるこちらまで救われる思いです。
しかし、愛利が心を寄せるということは、相手の命を奪う危険性があるということ。
これは辛い!! 人を好きになる感情は、自分でコントロールし切れるものではないのに、人を好きになってはいけないのですから。
そんな愛利の気持ちを察した愛利の母は、藤原に色目を使います。
そして、藤原を気に入ったのかと聞く愛利に対し、
この母親、完全に毒親です。
愛利や弟を産んだ理由も、「産んでみたかった……、家族を作ってみたかった……というのが本音かな」って身勝手すぎる!!
愛する我が子の将来を考えるのが親なんじゃないの? と言いたくなりますが、このシーンは愛利の孤独感がさらに際立ち、またまた切なくなりました。
でも2度目に読んだとき、この母親のあまりにも突き放した振る舞いは愛利を守るためで、わざとだとしたら……と限りなく低い希望的観測をもってしまいました。
まぁそれぐらい酷い毒親なので、そう思わないと愛利が可哀想すぎる!!
その頃、ラブホテルや公園などで、性交渉直後の死亡が多いことを不審に思った警察が動き出します。
ここから一気に話が進みそうな気配ですが、やはり気になるのは愛利と藤原がこの先どうなるのか。どうにもならないからこそ、“究極の愛”を選ぶのは果たしてどちらになるのか気になります。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp