連載開始から30年を迎える国民的バスケ漫画『DEAR BOYS』。現在は名門復活に懸ける湘南大相模高校を舞台にライバルたちがしのぎを削る『DEAR BOYS ACT4』を連載中です。今回は作者の八神ひろき先生がBリーグ・チャンピオンシップ(CS)決勝(5月11日/横浜アリーナ)を生観戦。八神先生独自の目線で試合を読み解くとともに、東京オリンピックに向けて盛り上がる日本バスケ界にもエールを送ってくれました!
八神先生はPGに注目! 試合の行方は……?
東地区を圧倒的な強さで1位通過した千葉ジェッツと、ワイルドカードで辛くもチャンピオンシップに進出した前年覇者のアルバルク東京。千葉が悲願の初優勝? それとも東京が“下克上”で連覇? 注目の決勝に約1万3000人の観衆が集まり、試合開始前からすごい熱気です。八神先生はどんな試合を期待? そして注目の選手は?
八神 決勝なので、ワンサイドゲームにはならないでほしいなと思います。東京は日本代表に多くの選手を派遣していて、代表戦とBリーグの試合との過密スケジュールもあって、レギュラーシーズンでは苦戦していましたが、ここにきて調子を上げてきました。いい試合が期待できると思います! 注目は千葉のポイントガード(PG)富樫勇樹選手ですね。身長は167センチしかなく、コートの中ではひときわ小柄なんですが、スピードとテクニックで大きな選手を翻弄するプレーが魅力です。僕も背が高いほうではなく、PGをやっていたこともあって、どうしてもPG目線で試合を見ちゃう。彼はPGとしてだけでなく、3ポイントシューターとしてチームの得点源でもあるので、特に目が離せない選手ですね。
『DEAR BOYS ACT4』第1巻より
──湘南大相模のレギュラーPGがケガで離脱し、PGのポジション争いが勃発。1年生の柏木柊が名乗りを上げるが、キャプテンの布施歩(スモールフォワード=SF)は1on1で柏木を完璧に封じてみせる……。これを読んで改めて今回のCS決勝を見ると、とても参考になります!──
試合は八神先生が期待した通りの展開に。富樫選手がキレのあるプレーで攻め込みながらも、東京が鉄壁のディフェンスで応戦。第2クォーターを終わって千葉33-35東京という接戦で折り返します。しかし、第3クォーターでは、東京ディフェンスをなかなか崩せない千葉に対し、東京は確実にポイントを重ね、千葉45-64東京と19点差に……。
八神 東京のディフェンスがすごかったですよね。中に入れないようにして、外に追い出して、千葉は苦し紛れにシュートを打つしかないという。改めてディフェンスって大事だなあって痛感させられる展開でした。ディフェンスが一生懸命やってると、いつか攻撃の流れがくるんだなと。シュートはある意味、水物なんで、決まらないときもあるんですが、攻守がかみ合うと一気に点差が開く。でも、バスケは流れひとつで大きく展開が変わることもあります。千葉もあきらめずに反撃してほしいですね。
千葉が猛烈な追い上げ! 奇跡の大逆転が起きる?
東京が19点リードで迎えた第4クォーター。千葉は敗色濃厚な状況から、猛烈な追い上げを見せます。味方の大柄な選手をスクリーンにして、裏から富樫選手がゴール前に斬り込むなど、東京のディフェンスを攻略。要所で3ポイントシュートも決めて、残り27秒で2点差まで迫ります。さらに、逆転への執念を見せる千葉は相手ボールを奪うと、エース・富樫選手にパス……しかし、無常にもこのパスはカットされ勝負あり。東京が71-67で千葉を下し、ワイルドカードからの下克上Vを決めました。
『DEAR BOYS ACT4』第1巻より
──味方との呼吸がぴったりハマらないとうまくいかないこのプレー。富樫選手がお手本のような動きを見せて東京ディフェンスを徐々に追い詰めたが……。──
八神 いやあ、盛り上がりましたね! あれで逆転していたら、まさに漫画みたいな結末です(笑)。本当にいい試合でよかった! MVPは東京の馬場雄大選手(スモールフォワード=SF)が受賞。彼もすごく好きな選手の1人です。魅せるバスケができるので。なかなか日本人はダンクをやらないんですけど、彼はやってくれます! 東京ディフェンスの踏ん張りに応えた田中大貴選手(シューティングガード=SG)の冷静なシュートも見事でした。田中選手はメンタルがいつも一定なんでしょうね。涼やかな顔でシュートを決める姿は頼りになります。
「負けた人がどう立ち直るのかを描きたい」
歴史に残る死闘を演じた両チーム。試合後、悔しそうにコート上でうなだれる富樫選手に、八神先生は熱い視線を送っていました。
八神 僕は、負けた人がどうやって立ち上がっていくのか、そこにすごく興味があります。今、連載中の『DEAR BOYS ACT4』も、前のシリーズで瑞穂高校に敗れた名門・湘南大相模が、その敗北からどうやって立ち直っていくのかを描きたかったんです。漫画の王道としては、弱小チームが全国制覇をするまでのサクセスストーリーが描かれることが多いですけどね。敗北を糧にまた立ち上がる名門チームにもドラマがあるんじゃないかと。今の湘南大相模は富樫選手のような特別なPGがいないチーム。そこからどうやって成長していくのか、それを描いていきたいと思っています。
来年は東京オリンピックも控え、ますます日本のバスケが盛り上がる予感! 八神先生が日本代表に期待することは?
八神 今日のCS決勝は両チームのディフェンスががんばって本当にすばらしい試合だったんですが、あえて言うなら、この厳しいデイフェンスをかいくぐり、シュートの精度をもう一段階上げて、得点力をよりアップして欲しかったかな、という気持ちもあります。 海外の試合では、100点以上入る試合が多いですから。日本のバスケがこれから世界と戦っていく上で、得点力も強化していく必要があると思います。アメリカで活躍している八村塁選手や渡邊雄太選手も加えて得点力がアップすれば、東京オリンピックでも期待できるはず! 楽しみにしています。
Bリーグ・チャンピオンシップ(CS)を観戦した八神先生
──「僕が『DEAR BOYS』を描き始めた30年前は高校バスケこそが『夢の舞台』だったんですけど、Bリーグがこれだけ盛り上がって、『夢の続き』ができたことがうれしいですね」とBリーグにも熱視線を送る八神先生。いつか『DEAR BOYS』のメンバーがBリーグで活躍する「夢の続き」が読んでみたい!──
取材・文=長迫弘