『ひゃくえむ。』は感情をメッタ刺しにしてくる漫画だ。
「俺には“これ”があるから大丈夫」
誰にも負けない趣味や特技がある、勉強ができる、コミュ力がある……。“これ”があれば、自分で自分を認められる。友達も認めてくれる。だから大丈夫だ。
じゃあ──“これ”が無くなったら?
Twitterでも話題になった『ひゃくえむ。』は100m走をテーマにした漫画です。でも、単なる陸上漫画ではありません。描かれた人生に、心を抉られる物語なんです。
100m走が速い。他には何もない
『ひゃくえむ。』の主人公は、トガシという少年。彼は生まれつき足が速いという「才能」を持っています。
全国1位という実績、成功体験もあります。他に何も持っていないけれど、足が速ければ人の輪に入れる。何も不自由がない。
それが彼の「正解」でした。
走ることが好きなわけではない。「才能」を与えられただけ。
だからこそ──
走ることに情熱がないトガシを変えるのは、転校生「小宮くん」との出会い。内気な小宮くんは、転校初日からイジメられます。
学校帰り、全力疾走する小宮くんを見かけるトガシ。小宮くんの走り方はヘタで、遅いです。
それでも「毎日走っている」と言う小宮くんと、トガシは対話します。
走ることが、好きなのではない。トガシのように、速いわけでもない。しかも、「辛い」。
じゃあ、なぜ? 小宮くんの走る理由は?
足が速い。それだけが「自分の意味」であるトガシにぶつけられた、小宮くんの価値観。
そんな小宮くんにトガシは戸惑いつつ、小宮くんにアドバイスをします。この時はまだ、トガシが小宮くんを引っ張っているような状態でした。
トガシを変えた瞬間
学校でのトガシは、小宮くんとは話しません。
クラスに馴染んでいない小宮くんと「仲が良い」と周りに思われたら、自分の人間関係にも影響を及ぼすかもしれない。そんな空気が漂っているんです。
でも、トガシは知っています。放課後、小宮くんが必死に練習しているのを。小宮くんが着実に、速くなっていっているのを。
運動会で「勝ってみたい」と語る小宮くん。
ですが、現実はそううまくいきません。クラスのリーダー格ゲンタに揶揄されて、小宮くんは転んでしまいます。
みんなが笑う中、
トガシは気づきます。
そして──
周囲に気を使い、自己主張をしていなかったトガシが、初めて衝動で空気を壊した瞬間です。
"熱”を知ったトガシですが、この転機は単なる序章に過ぎません。
最後にこの手に残るものは何か?
中学で100m走の最年少記録を更新する陸上のスター、仁神選手の言葉。
どんどんタイムを縮める小宮くんとの真剣勝負。
一方トガシは、中学に上がり、己の才能の劣化に気づく。
陸上を失ったら、俺には何もない。全てを失ってしまう……。そんな恐怖が、トガシを「100m」に縛り付ける。
そして、トガシの人生の分岐点となる高校生活が始まる──
この漫画を読むと、言葉が出てきません。ただ、心が何かを言っている。感情が鋭い刃で刺されている。肌が粟立って、熱いものが込み上げてくるんです。
『ひゃくえむ。』、無料で読めるのは3話まで。
この3話で人生が変わります。
「元の記事をマガポケベースで読む」
https://pocket.shonenmagazine.com/article/entry/100m_20190505