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【東博にて開催中】東寺展の仏像のみかたを第一人者・ミズノ先生から教わる

2019.05.12
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■空海ゆかりの仏像が東京にやってきた! 仏像研究の第一人者から教わる、東寺展の「仏像のみかた」

東京・上野の東京国立博物館(東博)で開催中の特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」は、1200年の歴史を伝える京都・東寺の文化財の全貌を紹介する展覧会です。

平安時代の初期、唐で真言密教を学んだ空海(774~835)は、帰国後に嵯峨天皇から東寺を賜り、都における真言密教の道場としました。この展覧会では、空海が唐からもたらした法具や経典類をはじめ、彫刻・絵画・書跡など、東寺の信仰と歴史を物語る名宝約110件が一堂に会します。

そこで今回は日本の仏像研究の第一人者で、2月に『ミズノ先生の仏像のみかた』という本を上梓された水野敬三郎先生に、東寺展の仏像について教えていただくことになりました。

水野先生は御歳87歳ですが、仏像のこととなると足取りも軽く、やさしい笑顔でお話ししてくださいます。

会場は東博の平成館。広い展示室に並ぶ至宝の数々は圧巻の迫力です。展示テーマの順に従って、曼荼羅や密教絵画を鑑賞し、いよいよおまちかねの「仏像曼荼羅」の展示室に入ります。「仏像曼荼羅」とは、東寺の講堂に安置されている仏像群のことで、密教の経典に説かれている世界観を仏像で表したものだそうです。

東寺講堂の仏像は、いつ頃つくられたものですか?

ミズノ 大半が平安時代前期の承和6年(839)に開眼供養されたものです。空海が入定した後ですが、諸尊の構成は空海が生前に構想したものでしょう。ひとつひとつの仏像の姿をどう表現するかは、唐から持ち帰ってきた曼荼羅や図像を参考にしたはずです。

仏像曼荼羅イメージ 東寺蔵 東寺講堂の諸尊は五仏、五菩薩、五大明王、梵天・帝釈天、四天王の計21体。今回の展覧会では写真の15体が展示される。

先生、そもそも仏像というのは、一体どこからみればいいのでしょうか?

ミズノ 人間にとっていちばん重要なのは顔だから、人間もまずは顔からみますよね。仏像も顔からみて、つぎに少し離れて全体をみるのが基本ですね。

東寺講堂の仏像のお顔の特徴はどういうところですか?

ミズノ 平安時代前期の仏像の顔は、中国の影響を受けているものと、日本的なものとが混在する一種の過渡期であって、とにかく個性的な顔が多いですね。しかし、ここにいらっしゃる五菩薩像(5体のうち4体を展示)は、やや厳しい顔立ちながら奈良時代の伝統を受け継いだ、典雅な整いを感じさせます。作者の出自を物語るものでしょう。切れ長の目で、鼻も口もちんまりしているという、密教彫刻によく見られる顔立ちの特色はまだうかがえません。

国宝 金剛宝菩薩坐像  平安時代・承和6年(839)東寺蔵 展示期間:通期展示

わたしは、ゾウに乗っている帝釈天の顔が好きです。イケメンですよね。

ミズノ そうですか。実は、帝釈天の顔は平安時代当初のものではなくて、中世に補われたものなんですよ。いかにもサムライっていう顔してますね。もともとの顔は文明18年(1486)に講堂が焼けた時に失われたのかもしれません。

国宝 帝釈天騎象像  平安時代・承和6年(839) 東寺蔵 展示期間:通期展示

帝釈天のお顔は中世のものなんですか! この仏像たちもいろいろな歴史を経ていまに伝わっているんですね……。では、少し離れてみたときの、みどころを教えてください。

ミズノ 仏像の「動き」に注目してみてみましょう。日本の仏像の歴史は飛鳥時代からはじまりますが、最初は動きがほとんどない。それが白鳳時代(飛鳥時代後期)になると少し動く。奈良時代になるともっと動く。だんだん動きがでてきます。

ということは、平安時代前期は奈良時代よりもっと動くのですね?

ミズノ そうです。なぜかというと、平安時代前期には仏像に迫力が求められてくるからです。五菩薩像の両ひざが台座の蓮肉(蓮華座の内側の部分)からはみ出ていることに気がつきましたか? これは奈良時代までにはなかった新しい形で、像が身を乗り出してくるような動きと力を感じさせます。坐っている像の動きはその程度ですが、立像のほうはもっと動きを表現しやすい。その好例が東寺講堂の四天王です。とくに持国天は体をひねって大きな動きを表現しています。

本当にすごい迫力ですね! 体を少し前に傾けて、こちらに迫ってくるみたい。

ミズノ それと、裾(スカートのようなもの)や袖が後ろになびくようにあらわされていて、風が吹いているというか、空気が動いている。体勢と空気の表現があいまって迫力満点ですね。

国宝 持国天立像  平安時代・承和6年(839) 東寺蔵 展示期間:通期展示

五大明王像は顔や腕がいくつもあって、みるからに異様というか、恐ろしいですね。

ミズノ 密教の諸尊のうちにはヒンズー教の神々がとり入れられているので、このような異形の像が多いのです。四天王と同じく裾をひるがえしてはげしい動きを表しています。なかでも造形的に優れているのは降三世明王ですね。シヴァ神夫婦を踏みつけた姿勢が見事です。背中側も手をぬかずにつくっていることがよくわかりますよ。

国宝 降三世明王立像  平安時代・承和6年(839) 東寺蔵 展示期間:通期展示

ミズノ先生に、まずは仏像は顔からみて、つぎに全体の姿をよくみるべしと教えていただきました。

「仏像曼荼羅」の仏像は、大きな展示室に一体一体が間を置いて展示されているので、仏像の全体をぐるりと360度みることができます。 みなさんもぜひ密教像の迫力ある造形を体感してみてください。

特別展「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」

会期 2019年3月26日(火)〜6月2日(日)
会場 東京国立博物館(東京・上野公園)
公式サイト https://toji2019.jp

出典元:https://kurashinohon.jp/1012.html

水野敬三郎(みずの・けいざぶろう)

1932年東京生まれ。東京芸術大学名誉教授、新潟県立近代美術館名誉館長、半蔵門ミュージアム名誉館長。東京大学教養学部卒。同大学大学院人文科学研究科美術史に学ぶ。東京国立博物館学芸部美術課勤務、東京芸術大学美術学部教授を経て名誉教授。著書に『奈良・京都の古寺めぐりー仏像の見かた』(岩波ジュニア新書)、『日本彫刻史研究』『日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代造像銘記篇』(中央公論美術出版) など多数。

『ミズノ先生の仏像のみかた』のほか、料理、美容・健康、ファッション情報など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。

講談社くらしの本はこちら

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『ミズノ先生の仏像のみかた』書影
著:水野 敬三郎

仏像研究の第一人者がやさしく語る
いちばん詳しくておもしろい「仏像のみかた」

半世紀以上前から第一線で仏像を研究してきた著者が、仏像のみかたや考え方を対話形式でやさしく解説。目、耳、表情、体型、衣、彩色……など、仏像をみるときのポイントや、時代ごとの特徴をイラストとともにわかりやすく説明しています。

銘文や納入品、技法、仏師などについても詳しく紹介。さまざまな側面から仏像について語っています。これまでの仏像本とは一線を画す内容で、初心者にはもちろん、仏像に詳しい方にも楽しんでいただける1冊です。

【目次】
序章 仏像って、どうみたらいいの?
第一章 まずは仏像の顔からみる
第二章 少し離れて仏像の全体をみる
第三章 もっと離れて仏像のまわりもみる
第四章 仏像がどうやってつくられたかを知る
第五章 仏像のなかをのぞいてみる
第六章 仏像をつくった人たちについて知る
日本仏像史年表

「はじめに」より
如来は悟りを開いた仏陀の姿、菩薩は悟りを目指して修行している姿、明王は怒りの姿で人々を導く密教の仏、天は仏教を守護する神様……それぞれにかたちのきまりがあります。しかし、これについては多く出版されている仏像入門書にまかせて、ここでは仏像の作者がどのような仕方で、何を表現しようとしたのか、どのような祈りにこたえようとしたのか、それに迫る手立てとしての「仏像のみかた」について考えてみることにします。(中略)

教室で講義するような堅苦しい感じではなく、お茶やときにはお酒を飲みながら気軽に話しましたが、ときどき脱線しそうになったり、少し専門的なところもあったりします。難しいと思うところは、はしょっていただいてもかまいません。とにかく最初から最後まで通して読んでいただければ、仏像のみかたにいろいろあることがわかり、こんな角度からみるのもおもしろいかなと思っていただけると思います。

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