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講談社社員 人生の1冊【71】談合って犯罪ですよね? 池井戸潤『鉄の骨』
水口来波 文庫出版部 30代 女
ちょっとご無沙汰していた大学時代の友人から、携帯の留守電に吹き込みがありました。それが、いつになくはしゃいだ声だったので、「もしや結婚?」とどきどきしながら折り返してみると、「新しい彼氏ができて」……なんだぁ、と一瞬白けたのですが、今回は新機軸なんだよ、との言葉に私は再び反応しました。ざっくり何系の人なのかと尋ねてみると、答えは「ゼネコンマン」。
新しい彼氏との話題づくりのために、さっそく業界本を買ってみたという何とも熱心な友人。そんな彼女にすかさず勧めたのが『鉄の骨』だったのは言うまでもありません。
『鉄の骨』の主人公、富島平太も中堅土建業・一松組で働く入社4年目の若者です。
建設現場という武骨な物づくりの職場から一転、業務課という営業畑に異動させられた平太は、この部署が「談合課」と揶揄(やゆ)されながらも、社の命運を握る工事受注部隊であることすら知りません。
ところで、談合って犯罪なんですよね。
その証拠さえ揃えば、関係者はお縄ちょうだい、ということになります。けれどもこの「悪しき習慣」は「必要悪」、もっと言えば「調整弁」「共存共栄のための知恵」として、業界では正当化されているのです。業界の常識は、社会の非常識なんでしょうか。
「おぬしもワルよのう」ではありませんが、談合というと、腹黒い悪役が雁首そろえて密談するようなイメージこそお似合いです。けれども、この小説に書かれたその姿は、どこにでもある「職場」の風景そのもの。「関係者」の思考回路は、サラリーマン然として、いたって当たり前にみえるのです。だってすべては「会社のため」なんですから。誰も悪くない……システムが起こす犯罪、そんな言葉すら浮かんできます。こわいですね。
そこで見えてくるのが、お金という怪物なのかもしれません。
サラリーマンを、会社を、世の中を突き動かしているお金というものが、人を狂わせ、また人を闘士に変え、人間関係をこれ以上ない強さで結びつけ、また徹底的に壊していくのか。
富島平太も、その上司も、競合他社も、それぞれの立場で一生懸命に知恵を絞りながら、どこかこの怪物の掌で踊らされているようにも見えます。
お金のもつ底知れないパワーに翻弄される、『鉄の骨』の登場人物たちの姿は、誰にとっても抜群のリアリティをもって迫ってくるのではないでしょうか。おもしろいですよ。
- 電子あり
中堅ゼネコン・一松組の若手、富島平太が異動した先は“談合課”と揶揄される、大口公共事業の受注部署だった。今度の地下鉄工事を取らないと、ウチが傾く──。技術力を武器に真正面から入札に挑もうとする平太らの前に、「談合」の壁が。組織に殉じるか、正義を信じるか。吉川英治文学新人賞に輝いた白熱の人間ドラマ!
執筆した社員
水口来波【文庫出版部 30代 女】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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