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『ロスト・キャット』愛猫の行動をGPSで追跡!? 猫好きに超推薦の実話です。

ロスト・キャット
(著:キャロライン・ポール 絵:ウェンディ・マクノートン 訳:グレッグ・ジェンカレッロ 訳:アキコ・ジェンカレッロ)
2018.02.22
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もし、ペットが誘拐されて身代金を要求されたら、私は一体、どうするだろうと考えたことがあります。愛する“うちの子”が、突然、いなくなる。それは、飼い主にとっては地獄も同然で……。

『ロスト・キャット』は、サンフランシスコの女性作家キャロラインと、ガールフレンドでイラストレーターのウェンディ、13歳になる2匹の双子の姉弟猫を巡る実話なのですが、ことの発端は、突然、弟猫のティビィがいなくなったことでした。

姉猫のフィビィと違い、臆病でシャイなティビィが家出をするはずもなく、飛行機事故で肉体的にも精神的にも弱っていたキャロラインは、毎日、泣き暮らしていました。ウェンディの力を借りてチラシを貼ったり、松葉杖をつきながら動物保護施設を何度も訪ねたり、超能力者に相談しても、ティビィを見つけることはできません。

©Wendy Macnaughton

ところが5週間後、彼はひょっこり帰ってきたのです。しかも、毛艶もよく、ちょっと太った姿で。

普通なら、無事に戻って来てくれただけで十分と思うところですが、キャロラインはティビィに対し、「混乱、嫉妬、裏切り」を感じます。なぜなら、家のご飯を食べてくれなくなったから。それはつまり、よそで食べているということで……。

いやはや、もうここは笑うしかないです。完全にティビィ=恋人または旦那状態です。
確かに5週間も心配していたのに、ケロッと愛人宅から戻り、相変わらず愛人宅に入り浸っているとなれば、「相手は、どこのどいつだ!」ってなもんですが。

絶対にティビィを誘惑した相手を見つけ出してやると誓ったキャロラインは、ティビィの首輪にGPSを付けるという手に出ます。ところが猫は、あちらこちらに動き回るので相手の家を見つけられず、とうとうカメラも首輪にぶら下げることに。

©Wendy Macnaughton


これって、浮気現場の証拠写真を張本人が自撮りで集めるようなもんだなと思ったら、なんだか可笑しくなってしまいました。実際、そのときに撮られた写真も載っているのですが、なにせ猫目線なので酷いもんです。こんなバカバカしいことも大真面目にやるキャロラインは、今度は動物と会話ができる科学者の講義まで聴きに行くという徹底ぶりなのです。

ところがそんな矢先、フィビィが突然、倒れてしまいます。お腹に腫瘍ができていたのです。

フィビィの変化に気付くことができず、自分を責めるキャロライン。このくだりは、ペットを亡くしたことがある人であれば、誰もが自分の経験と重ねてしまうのではないでしょうか?

結局、フィビィは死を迎えるのですが、その死を受け止められなかったのは、キャロラインだけではありませんでした。このときからティビィは、異常な行動をとり始めるのです。奇しくもそれは、首輪につけられたGPSの位置情報によって判明するのですが、彼ら動物にも死を受け入れるためのプロセスが必要だったのです。

ようやくティビィが元気を取り戻したころ、キャロラインとウェンディは改めてGPSを分析し、ティビィが入り浸っている“疑惑の場所”を6軒にまで絞り込みます。そして、あの手この手で接触を試み、とうとう中年夫婦に目星をつけます。その犯人とおぼしき中年夫婦の似顔絵が、これまたコメディ映画に出て来そうなマヌケな田舎者風で、「猫泥棒A」「猫泥棒B」ときたら、笑わずにはいられませんでした。


©Wendy Macnaughton

真実は、キャロラインが想像していたことと、大きく外れていたのです。そして、ティビィの家出は、自分に原因があったのではないかと思うキャロライン。

このあたりのやり取りは、旦那が浮気をしたのは、妻の私にも原因が……みたいにもとれ、読む人によって、親と子供、上司と部下、仲良しだったのに距離ができてしまった友達との関係に置き換えて考えることができるのではないでしょうか。

それにしても、人間以上に繊細な心の持ち主のティビィ。ふと、昔、飼っていた犬の表情から、「この子は、人間の言葉がわかってるんじゃないか」と感じたことを思い出し、懐かしい気持ちになりました。

そんなじんわりとした温かい雰囲気をこの本が醸し出しているのは、ウェンディのイラストの力が大きいと思います。そういった意味でも「ロスト・キャット」は、実際の出来事を描いた、読み応えのある大人の絵本といってもいいかもしれません。

  • 電子あり
『ロスト・キャット』書影
著:キャロライン・ポール 絵:ウェンディ・マクノートン 訳:グレッグ・ジェンカレッロ 訳:アキコ・ジェンカレッロ

──自分の猫のことは永遠にわからない。でも大丈夫。愛とGPSさえあれば。

サンフランシスコで暮らすキャロラインとウェンディは、2匹の猫、ティビィとフィビィを飼っています。
ある日、5週間も家出していたティビィが、ふらりと戻ってきた。しかも、家出している間に、ちょっと”オトナ”になって帰ってきたみたい……。
いったい、どこに行っていたの?
どうして、いなくなってしまったの?
もしかして、猫泥棒に誘拐されていたのかも!?
キャロラインとウェンディは、ティビィの首輪にGPS発信機を装着。ティビィの謎に満ちた家出の理由をたどる、追跡作戦を開始した!
だけど、猫の動きは縦横無尽、自由気まま。
猫語を習得したり、「ペット捜査官」に頼んだり、難航する追跡作戦に奮闘するキャロラインたち。
GPSの足跡からわかった、意外な結末とは……!?

かわいいイラストと、猫好きなら誰もが「あるある」とうなずくたっぷりのユーモア、そしていつか訪れる悲しい別れ。猫と飼い主の冒険譚。

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レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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