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牛肉を美味しく食べる知識「流通業者がA5肉を選ばない」理由とは?

炎の牛肉教室!
(著:山本 謙治)
2017.12.28
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牛肉のランク付けで「A5」という表示が、1番上だということは誰でも知っていることだと思いますが、Aや 5は何を示しているのかご存知でしょうか?

Aは「歩留まり」といって、1頭の牛から骨・皮・内臓をとり去った後にどれだけの肉が残るかという割合を示し、たくさんとれる順にABCで区別されます。主に肉用種はAで、乳用種はBC。

また、数字は5段階でランク分けされ、肉や脂肪の色や光沢、脂肪の量、きめや締まり具合といった肉質を表しています。

とはいっても、A5肉は高いし、すべての牛肉にランク表示は付いていないし。綺麗な霜降り肉を買ったのに、美味しくなかったという経験がある方も多いのではないでしょうか?

あれは一体、どういうことだったのかとずっと思っていたのですが、そのからくりが、本書を読んでやっとわかりました。

安くて美味しい牛肉が食べたければ、絶対に知っておいたほうがいい牛肉の知識から、著者自らが肉牛を飼い、それを食すといった話まで、本書は全編、牛だらけ。まさに牛肉のバイブルです。


和牛4種とは?

和牛といわれる品種は、「黒毛和種」、熊本産や高知産で"あかうし"と呼ばれる「褐毛(あかげ)和種」、岩手県にルーツを持つ「日本短角種」、山口県に少数いる「無角和種」の4種類。数では圧倒的に黒毛和牛が多く、それは他の品種より体格が大きくなる、つまり肉の量が多く、サシが入りやすいといった性質もあるからだといいます。

でも、スーパーでよく見かけるのは、「黒毛和牛」と「国産牛」。黒毛と国産と何が違うの?と思いますよね。
実は牛乳を搾るために飼う乳用種のオスは、産まれた瞬間から、肉になる運命なのです。ところがオス牛の肉の評価は高くないので、母牛の段階から黒毛和種を掛け合わせて肉質をあげ、「国産牛」として売られているというのです。

おそらく、私が買った霜降り肉も、これだったのではないでしょうか。しかし、乳用種にも美味しいものがあるというのです。


味の方程式は、(品種×餌×育て方)×熟成

牛肉の味を決めるのは品種だけでなく、餌と育て方と屠畜したあとの熟成の4つだといいます。

餌は、肉に旨味が増すコーンなどが主流で、輸入が多いのですが、驚いたのは餌に含まれるビタミンAを制限して、「ビタミンコントロール」を行っているということ。そうすることで、綺麗なサシが入るそうです。

また、牛は育てる時間が長ければ長いほど美味しい牛肉になるのですが、日本の肥育期間は約2年。乳用種のホルスタインは、成長が早いので22ヵ月、和牛品種は25~28ヵ月で出荷されるのだとか。しかも、「放牧=運動=カロリー消費=太るのに時間がかかる」ので、牛はほとんどの時間を牛舎の中で過ごします。

国土が狭い日本では放牧が難しいという理由もあるのですが、なぜ、こうした飼い方をしなければならないのかが、著者自らが肉牛を飼ったエピソードで明らかにされます。


産まれた牛が、肉となり売られるまで

著者が自腹でメス牛を買い、産まれた子牛を肥育農家に30ヵ月預けたのち牛肉にし、すべてを売りさばいた体験が紹介されています。

十勝の農業高校を舞台にした人気漫画『銀の匙』を彷彿とさせるこのエピソードはとても面白く、なるほどなぁと思うことばかりでした。

特に内臓や骨を抜いた部分肉は350キロもあるのに、サーロインやヒレなどの人気部位は75キロほどしかなく、残りの部位はなかなか売れないという事実。著者が東奔西走して、やっと売りさばいても、経費を差し引くと、マイナスになってしまったというのです。このエピソードには、すべてに具体的な金額が出ているので、牛1頭を育てることが、そして売ることが、どれほど大変なことかがわかり、とても勉強になりました。

だから生産者は、味よりも肥育期間を短めにし、少しでもコストを下げることを考えなければならないのだといいます。

ビタミンコントロールをしたり、牛舎だけで育てられると知って、どこかにスッキリしない気持ちは残るものの、ついつい忘れがちな「命をいただく」ということを改めて考えさせられました。

このほかにも本書には、アメリカ、オーストラリア、フランスの牛肉事情や、日本の「あかうし」が、いかに貴重で美味しいかが紹介されています。さらに「美味しい牛肉を食べられる販売店・飲食店リスト」も載っていますし、スーパーのお肉に付いている個体識別番号の見方も紹介されています。

この本を読み終えて真っ先に思ったのは、A5肉やサーロイン以外の肉を食べ比べてみたいということでした。色々なことを知った今ならば、もっと深く味わいながら、牛肉が食べられるのではないかと思いました。

『炎の牛肉教室!』書影
著:山本 謙治

いま、日本に空前の牛肉ブームが訪れている。にもかかわらず、私たち日本人は牛肉のことをあまりに知らなすぎる。

たとえば、皆さんがふだん食べている牛肉は、なんという牛の品種かご存じだろうか? 「松阪牛」や「飛騨牛」といった、いわゆるブランド名ではなくて、「和牛」や「国産牛」としてパッケージに入っている牛肉の品種のことだ。
また、「神戸牛」や「米沢牛」などブランド和牛の名前はよく耳にしていても、では「そのブランド牛の特徴は?」と聞かれた途端に、困る人も多いのではないだろうか?

牛肉の「美味しさ」についてはどうだろう? 焼き肉店に行けば、「A5の和牛」「最上級の黒毛和牛」というようなキャッチフレーズで、高級な肉が提供される。A5という評価を獲得した牛肉は、文句なしに美味しいものと思っている人も多い。

しかし実際には、A5という規格は美味しさを保証するものではない。牛肉を専門とする流通業者は、「自分が食べるとしたら、A5の牛肉は選ばない」と口々に言う。

「赤身肉」というキーワードにしても、いったいどんな肉が赤身肉であるかがとてもあいまいで、「これは霜降り肉じゃないか!」というものまで、「赤身」をうたっているケースが多い。

話題の「熟成肉」についても、2010年あたりから「熟成肉」の看板を出す店は増えたにもかかわらず、単に腐敗に近づいた肉を「熟成」と称して提供する店が相当数あるようだ……。

いかがだろうか? 

本書を読めば、牛肉に関する誤解が消え去り、正しい知識をぞんぶんに学べる。美味しい牛肉とはどんなものか、どこに行けば出会えるのかもすっきりと理解できるに違いない。

巻末には、筆者が厳選した「美味しい牛肉を食べられる販売店・飲食店リスト」も付いている。
 
本書を読み終える頃には、牛肉を食べるあなたの舌は確実に肥える。本当に美味しい牛肉だけを食べて、一生を豊かに楽しく暮らせるように成熟するのだ!!

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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