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講談社社員 人生の1冊【35】『墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便』
(著:飯塚 訓)
河井敬宜 書籍宣伝部 50代 男
1985年8月12日の夏
大学3年の夏、帰省先の実家のリビング。夜7時に何気なくつけたテレビの向こうにその一報を読み上げるアナウンサーがいた。「羽田発伊丹行のJAL123便が消息を絶った」と。その後、同機が群馬県の御巣鷹山の尾根に墜落していたことが判明、乗員乗客524名がほぼ絶望と報じられたが、翌朝からの捜索で航空機史上最多の520名の犠牲者を出しながらも奇跡的に生存者が4名も帰還したことでニュース性が高い事故だった。そして、それからの報道によって忘れえない事故と記憶することになった。
当時のマスコミは、事故発生時から先を争って現場取材に赴き、その凄惨さを修正なしで晒し続けた。事故原因の追究、矛先が曲がった状態で追及される責任者探しなど、その当時の報道内容や取材方法については、商業主義最優先の報道の在り方も含めてメディアにとって、いろんな意味で教訓を残した“墜落”事故だった。
本書は、この事故の身元確認の責任者であった群馬県の刑事官が、犠牲者520名の身元確認が終了するまでの127日間を綴ったノンフィクション作品です。私は文庫化された後、事故から20年近く経って邂逅した作品でした。
事故発生から、修羅場の中で行われた身元確認作業、そして合同荼毘(だび)までを時系列に映像的な状況説明とともに情緒的にもならずに淡々と書き上げている。それは著者の職業的な経験から得た術なのかもしれないが、文章に無駄と遠回しな言い回しもないその表現が、結果としてリアリティを持つものだと感心した。これには、担当編集者の存在も大きく関与したことだろうと推測できる。
『墜落遺体』。このタイトルにある航空機事故での遺体の損壊度は、想像する以上に悲惨である。そのほとんどは、挫滅、離断したもので、なかには墜落の衝撃で三つ目になった遺体もあったとある。それは何百Gの衝撃力で頭部の中に他人の頭部がめり込んだ結果だそうだ。また泥や油にまみれたもの、ジェット燃料の炎に晒され炭化したものも多かったとある。これらの記述については、本書で確認いただきたい。
このような無慈悲なまでの遺体の惨状を記しながらも、遺体をその肉親、家族に“帰す”ために、心身ともに極限まで酷使しつつ、その一念で作業に従事した数多くの人たちを描きつくしている。最後まで職責をまっとうした著者をはじめとした関係者たちの姿が尊く、またその根底にある日本人の宗教観、仏教思想を改めて認識することになる。
急峻で酸鼻極める墜落現場にとどまり続け、遺体回収に従事する自衛隊。原形をとどめない遺体を検屍のために清拭(せいしき)し、親族に引き渡す前に生前の面影を宿すことを願いつつ遺体の頬に自身のファンデーションを塗る日本赤十字社の看護婦(当時)、看護学生たち。検屍作業を昼夜問わず続ける警察官。身元確認作業を続ける医師、歯科医。そして加害者としての立場で遺族の世話係のために派遣されてきた日本航空の社員たち。著者が修羅場の中で、目撃した遺された人たちが背負った深い悲しみ、後悔、怒り、絶望に付き添うことを余儀なくされた多くの人々の善意が胸を熱くする。
2011.3.11の震災の時もそうだが、人は平和な日常の中では認識することはないが、このような事故、事件によってしか日々の有難みを認識できなくなっているような気がする。
- 電子あり
1985年8月12日、群馬県御巣鷹山に日航機123便が墜落。なんの覚悟も準備もできないまま、一瞬にして520人の生命が奪われた。本書は、当時、遺体の身元確認の責任者として、最前線で捜査にあたった著者が、全遺体の身元が確認されるまでの127日間を、渾身の力で書きつくした、悲しみ、怒り、そして汗と涙にあふれた記録。
執筆した社員
河井敬宜【書籍宣伝部 50代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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