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腹違いで、疎遠で、犬猿の仲!「父、危篤」から始まるねじれた四姉妹の物語
(著:山下 和美)
「父、危篤」の磁力
駆けつけるか、駆けつけられないか、それともあえて駆けつけないかは別として、この世にいっぱいいる「家族」たちは、たいてい「危篤」という言葉が持つ奇妙な磁力に動かされる。血縁者同士がピタッとくっついたり、強く反発したり、ふだんの自分の意志とは少し違うところからブン!と強引に引っ張られる。とにかく強引です。どうにかしてほしい。
『ツイステッド・シスターズ』の4姉妹も「父、危篤」という号令のもとに引き寄せられます。
今まさに死のうとしている父さんを囲む4人が浮かべる表情のバラバラ加減と、「あの父さんでも本当に死ぬんだ」のひとことに凝縮された父さんのどうしようもなさ。ほんと、いろいろあったんだろうな。察せられます。
なお、彼女たちの鹿鳴館チックな服装からは想像がつかないかもしれませんが、このマンガの舞台は現代の東京です。
とある事情によりこんなドレスを着ている彼女たちは、リボンとレースをひらひら揺らしながらATMへダッシュ。死んだ父さんの銀行口座から葬式代を確保せよ! というわけです。
そう、「父、危篤」からの「ご臨終です」で「終わったなあ」ってなるのは故人の人生だけで、残された家族にとって「ご臨終です」とは、いろんなことが強制的に始まるホイッスルみたいなもの。しかも起こるのはとことん非日常的な出来事ばかり。でもしかなたい、それが家族だから。
葬儀屋さんがめちゃくちゃ手際よく死化粧をほどこした結果、父さんがちょっとかわいくなっちゃったり(しかも葬儀の見積書をさりげなく置いて帰る。最後まで手際がいい!)、
ひんやり冷たくなった父さんをはさんで川の字で寝てみたり、
無理やり葬式会場をセッティングしてみたり、
クセの強そうな弔問客を出迎えたり。私この家族のメンバーじゃないのに一緒にクタクタになってる。
そして「父、危篤」で始まるのは、お葬式のドタバタだけじゃありません。
情や損得だけじゃ説明のつかない……っていうか大っ嫌いで何百回も「縁を切る」と思っているのになぜか離れられない「家族」と「血」のおかしさを味わえます。ほんと、どうしようもない磁力が働いているとしか思えない。
会いたくないけれど「これで最後」
三女・理華子は漫画家。25年にわたる長期連載をやっと終えて、なにはともあれ睡眠……と床に突っ伏して眠り始めた矢先に、ある電話で起こされます。
理華子は、突然の電話によって、とっくに死んだと思っていた父さんの危篤と、四女の存在を同時に知ることに。寝てる人を叩き起こす連絡ってだいたいロクでもない。
理華子の父さんはとても自由奔放かつ恋多き人物でした。ちょうちょみたいな男なんです。ゆえに、理華子にとって家庭は落ち着く場所ではなく、母親違いの姉たちからもいじめられまくって最悪。そんなこんなで高校生のときに母と2人で家を離れます。トドメは父さんの女性問題。
理華子の苛立(いらだ)ちと父さんの神がかった憎めなさを一気に味わえるこのページ、圧巻。『ツイステッド・シスターズ』の凄みは、こんな濃密なページがずーっと続くところにあります。理華子と家族たちの数十年が生い茂ってる。(それにしても、この父さんはモテただろうなあ……)
ということで、臨終なんて誰が立ち会うか勝手に死んでくれと理華子は啖呵(たんか)を切りますが、会ったこともない「妹」は泣きつきます。ずるい。
ほんとずるい。こんなこと言われたらスパッと断ち切れないよ。しぶしぶ病院にかけつけた理華子を待っていたのは……、
本当に死にかけている父さんと、ドレッシーな四女・ティアラ(20歳)。先ほどの電話の主です。そして「他のお姉さんたちすぐには来れないって言ってる」なんて大嘘。理華子をいじめ抜いた姉2人も父さんのもとに駆けつけていました。最悪!
長女・良子(75歳)と次女・純子(60歳)は元気いっぱい。
この圧巻の姉妹トークを見よ。一語一句まったく仲良くなさそうのに絶対に姉妹だなってわかる。
なによりおかしいのは、理華子の「この人たちのうちの一人が死なない限り会うことはない」という独白。最低最悪の鬼姉で、どうでもいいやと思っているのに、死んだら再び集まることを知っているんですよね。切れそうで切れない縁。
ということで、理華子は「これが最後」と唱えつつも姉妹で過ごす時間に翻弄されます。
感情のアップダウンがすごくリアル。1コマたりとも読み飛ばしたくない。浮世離れした強烈な姉妹なのに「本当にこの世界はあるだろうな」って思いながら読んでしまう。そんな4人が東急世田谷線に揺られ、やがてたどり着いたのは……、
とっても古い洋館。もう、ぜったいに何かある。
大変めんどくさい父さんと、その父さんだけを接点とするねじれた娘たち。そんな「家族」の受け皿としてこの洋館はぴったりかもしれません。
なお、父さんは死んだあとも大変めんどくさいのです。
かわいい……。お腹の奥底から「最高にかわいい」って思っちゃう。4人姉妹のみなさんは私よりも強くそれを感じているはず。父さんってば最後の最後までやってくれるよね! ってあきれますが、おそらく、父さんはまだ何かを残しているでしょうし、その父さんの血を継承している彼女たちもただ者ではないはず。楽しみにしています。
- 電子あり
100歳の父の危篤がきっかけで、疎遠だったうえ、年が離れた4姉妹が再集結。家族、お金、居場所、生きがい、それぞれ何かを失っている彼女たちがぶつかりながら、見つけていくものとは?
『ランド』で現代社会の不安を描き切った山下和美が次に挑むのは「家族」! 毎日が愛おしくなる?ファミリーコメディ、開幕!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。
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