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「よみぐすり」処方します!? 「本のおたけび」が聞こえる!? 新たな本との出会い

2019.11.07
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自分メモ
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多くの読書家が集う日本最大級の書店「ジュンク堂書店 池袋本店」。3階文芸書のコーナーでは「講談社タイガ」と「レジェンドノベルス」のブックフェアが開催された。6月から行った第1弾「よみぐすり」は、その後全国の書店でも展開。第2弾「本のおたけび」は8月末から行われ、こちらも今後の全国展開が予定されている。丸善ジュンク堂書店と大日本印刷、講談社の3社がタッグを組んで実現したこの二つの企画は、どのようなきっかけで生まれ、これからどう進化していくのか。主要メンバーの4人が語り合った。

「本を選ぶ」ところから楽しんでもらうために

河北(講談社タイガ) これまでのフェアは出版社が書店に展開を依頼するものが多かったのですが、今年行った二つのフェアは、ジュンク堂書店 池袋本店と大日本印刷、そして講談社の3社で企画を進めたところが今までにない形ですよね。

内(大日本印刷) 印刷会社は製造、ものづくりの部分での仕事が中心ですが、これからの時代はマーケティング企画から製造、流通、販売に至るまで、全体を見ることができるサプライチェーン経営が求められると考えています。大日本印刷はそれができる印刷会社として、講談社とは定期的に新しいビジネスについて話す場を設けてきました。そんな中、昨年の秋に「レジェンドノベルス」が立ち上がりました。「内容は面白いのに、なかなか知名度が上がらない。どうやって届けたらいいのか」というご相談をいただき、今回の企画がスタートしました。ジュンク堂書店 池袋本店の店長にご相談したら、「文芸の棚を使って何か施策を打ってみたら?」と。

松本(レジェンドノベルス) 昨年10月に創刊した「レジェンドノベルス」はイラストが前面に押し出された表紙が多いので、ライトノベルやコミック売り場に置かれることが多く、文芸の読者にうまく届けられていないという課題があったんです。でも、手に取っていただけたら絶対に満足してもらえるはずだと。それで、まずは「本を選ぶ」というところから楽しんでもらえ、なおかつ、普段なら自分で選ばないような未知の作品に手をのばしてもらうためにはどうすればいいかということで、第1弾の「よみぐすり」を企画しました。設問に答えていくと「今の自分」がわかるチャートをパネルにして置き、それぞれに効能がある本を「よみぐすり」袋に入れて並べるというものです。

市川(丸善ジュンク堂書店) 最初に「よみぐすり」の企画をいただいたとき、ここまで完成度が高いフェアはなかなかないと思いました。これまでのフェアは、パネルやポップの販促物で行うのが主流で、お客さまもそうしたものには慣れてしまっているところがあったんです。チャートに答えて自分でも本を見つける楽しみがあるというのは、とても斬新な企画でした。

SNSをきっかけにした来客も

河北 第2弾の企画として8月末から9月末まで、「本のおたけび」フェアも実施しました。それぞれの作品のブックカバーに、本のおたけびがデザインされているというものです。例えば、京極夏彦さんの『今昔百鬼拾遺 鬼』に「鬼面白い本を、読んでいます。」というカバーを掛けています。このカバーで読んでいる姿も面白いですよね(笑)。これをきっかけに「え、それ何読んでるの?」と会話が広がるのも楽しいし、本を読んでいること自体がエンタテインメントになるといいなという思いもありました。

 今回は書店さんにお任せではなく、我々みんなで伺ってセッティングから棚づくりをしましたが、できた瞬間からお客さんが立ち止まって楽しんでくれているのを見て、「これはいけるんじゃないか」と。でも、想像以上の反響でしたね。

市川 最終的には、入荷した冊数のほぼすべてが売れたくらいの売れ方だったんです。フェアって爆発的に動くというものではないので、今回も目標は50%くらいで考えていました。ところが、初速の段階から「これはただごとではない」という感じで。ジュンク堂書店 池袋本店に来てくださるお客さまはフェアに慣れた本読みの方が多いのですが、そういう常連の方にも、このフェアは「珍しいものをやっているな」という引きがあったと感じています。

松本 SNS上でも、ハッシュタグをつけた投稿があふれていて、非常に注目されていましたね。「うちの町にも来てほしい」という読者からの声もたくさん届きました。

 今回は店頭での撮影を許可していただきました。「ぜひ撮って発信してください」という手書きポップも手作り感があって良かったですね。

市川 通常、店内撮影はNGなんですが、いわゆる“映え”的なフェアということで、撮影OKにしました。お客さま同士の横のつながりで、口コミ的につながっていったらいいなと思いまして。実際に「#よみぐすり」や「#本のおたけび」の投稿から物珍しさで来てくださる方も大勢いらっしゃいました。棚を見つけて「これがそうか!」とおっしゃっていただくことが多かったんですよ。

池袋本店から全国への広がり

河北 本を読むことは、本好きは当然楽しんでいるんです。でもソーシャルメディアの時代では、それを人と共有すること、「こんな本を読んでいるよ」ってSNSで発信したりする楽しみ方もあって。小説は個人的な楽しみで、自分の本棚を見られるのは嫌という時代から変わってきています。特に「タイガ」や「レジェンドノベルス」は新しいレーベルですから、常に何か新しいことが起こっている感じを出したかったんです。

市川 今回のようにSNSできっかけをつかんで実際に足を運んでいただけたのは、すごく意味があることでした。私たちが旗艦店となって、しっかりと売り上げも立てられたので、全国の支店からも「これは全国でもやるの?」と電話がきたり、他店の店長が興味を示したりしていました。それで全国にも届けることができたんです。

 フェアをスタートして1週間くらいで、全国の丸善ジュンク堂書店でもフェアをやれないかという話をいただき、同様のフェアを全国の約20店舗で開催しました。ほかの書店からも約10店ほど手を挙げていただいて、全国30店舗くらいの規模でフェアを展開することができました。

松本 それぞれの店舗でいろんな置き方がされていて、特設の台を作っていただいたケースもありました。「こんな展開をしています」という写真のご報告をたくさんいただきましたね。

市川 丸善ジュンク堂書店で20店舗というと全体の4分の1ほどにもおよぶ数です。袋に入れたりだとかワンクッションの手間があるのに、それでもやりたいと手を挙げたところがこれだけあったのは結構凄いことで。それだけ引きがあったんだと感じています。

河北 冬には第3弾のフェアも企画中です! 是非、ジュンク堂書店 池袋本店に足を運んでみてください!

「タイガ」と「レジェンドノベルス」の相乗効果

 そもそも「レジェンドノベルス」って、ラノベの分野じゃないというか、すごく硬派な大人向けのファンタジー小説ですよね。

松本 そうなんですよ。そのつもりで作っています。

市川 ジュンク堂書店 池袋本店ではラノベは地下1階で、文芸の棚がある3階に来られるお客さまの目的は若干違っていると思うんですけど。今回はそこがうまく、本当に読者が好きなものにはまったっていうのが、ある意味狙い通りでしたね。

松本 そうですね。もちろん、地下1階のラノベのお客さんが読んで楽しんでくれるというのは前提としてあるんですけど、そこでばかり戦っていてもしょうがないとも思っているんです。このジャンル自体がもっと広がるという可能性を信じてやり始めた事業なので。そういう意味で、もともと文芸のお客さんに広がりうると思って作っていたんです。しかし売り場の違いもあって、なかなかきっかけがつかめていなかったのですが、今回はその確実な成果となりました。

市川 あの棚は3階でも一番目立つ場所で、芥川賞・直木賞のフェアを展開する場所なんですよ。最初は私たちも先入観で、「レジェンドノベルス」はコミックの読者に売れるもので、文芸の棚に持ってきても売れないんじゃないかと思っていたんです。「タイガ」はもともとうちのお客さまの層とも合っていて、売れていたのですが、「タイガ」と「レジェンドノベルス」はまた違うので、どう売っていけばいいか迷っていたところもあって。でも、いざふたを開けてみたら、「こんなに売れるんだ」と実感させられました。こうやって一緒に売ることで、その垣根ってそんなになかったのかなという気づきにもなりましたね。

河北 ジュンク堂書店 池袋本店に来られる方は、読者として本に対する偏差値が高くて、本読みの総本山の一つ。そこでこのフェアをすることで、「行ってみよう」となる人たちも実際にいたし、「ジュンク堂書店 池袋本店でやっているなら、うちでもやりたい」と思ってくれる書店さんもありました。フェアのあとにも広がりがあった。

松本 お客さんの層的にも、こういうちょっと変わった試みをやれば、ぐっと響いてくれるだろうなという期待感は、やっぱりありましたよね。

河北 本読みのインフルエンサーのような方たちから広がり、普段本を読まない人も「なにこれ?」と手を伸ばしてくれることもあると思うんです。最終的に、タピオカくらい読書がブームになってくれたらいいんですけどね(笑)。

市川 売り上げにも出ていますが、普段は本屋にあまり来ることがない方も来てくださったんじゃないかなと思います。印象深かったのは、「タイガ」や「レジェンドノベルス」とは少し縁遠い存在とも言える高齢の女性のお客さまが、「新聞で見たんだけど」と来店されたことですね。面白いことをやっていれば書店に足を運んでくださるんだというのを目の当たりにして、すごくうれしく感じました。今回は本当にいろいろな思い込みが次々と覆されていって、書店員としてそういうところから改めないといけないなと思わされるきっかけにもなりました。

松本 普段の客層との違いでいうと、いつも「レジェンドノベルス」をたくさん売ってくださっているマンガ専門店さんからも、SNSを通じて問い合わせがあって、「タイガ」と一緒にこの「よみぐすり」フェアを展開したんです。本来「タイガ」はあまり売れないお店だと思うんですが、そこでもちゃんと「タイガ」が売れたという話を聞いて、こちらも「タイガ」に乗っかるだけじゃなくて少しは貢献できたかなと安心しました(笑)。

市川 「よみぐすり」は完全に袋に封をしてあるわけじゃないから、本の中身も見られるんですよね。それでもお金を払って買ってくださっているというのは、結構すごいことだと私は思うんです。

 値段的には「レジェンドノベルス」は「タイガ」の倍近くしますからね。でも、ほぼ遜色なくどちらも売れていたのはすごいことですよね。

市川 これまで、私たちもあそこまでこまめに売り上げをとることはありませんでした。正直、フェアでは出したら出しっぱなしのところがあって、何となく売れ方をつかんでいる程度。今回はデータとして書目とかも細かく知ることができて、これだけ売れるんだというのをより実感しました。実は店頭にいると、お客さまから「どういう本が今売れていますか?」とか「どれが面白いですか?」と聞かれることは結構あるんです。決めうちで何を買うか決めて来られる方もいらっしゃいますけど、どういうものを読んだらいいか選んでほしいっていう方も多い。結構そういうニーズはあるなと思っていたので、「よみぐすり」フェアでチャートをして自分に合うものを決めてもらうっていうのは、合っていたのかなと。自分でも選べるし、選んでももらえる、ハイブリッドな感じも良かったのかもしれません。買う買わない以前に、書店で楽しんでもらうというのがいいですよね。フェアをじっくり見て下さる方は、実はそこまで多いわけではないのですが、今回はお客さまが棚の前にいる時間も長くなりました。

3社が一緒になって企画したことの意義とは

 今回のプロジェクトでは、店頭の企画は編集サイド中心にやっていただいたので、我々は外への発信の仕方や、書店に足を運んでもらう為の仕掛けとか、そういうことができないかなとか、いろんなことを議論しながらやってきました。そもそも「レジェンドノベルス」はどの本から読んでいいのかわからないんじゃないかという話から、チャートも作りました。河北さんと松本さんの対談を載せたフリーペーパーを作って「よみぐすり」の袋の中に入れるという試みもしました。本当にみんなでワイワイ話しながら内容が決まって言った感じでしたね。最初から最後までワクワクした気持ちで楽しみながら取り組ませていただきました。

河北 もちろん、マネタイズは今後の課題だと思うんですよ。特に、大日本印刷さんは従来、印刷という製造部分の役割が中心で、出荷までが大きな仕事でしょう。でも、そうじゃないところで出版社との新しい取り組みを考えていく時期に来ていると思うんです。最終的には大日本印刷さんのほうで主導して、フェア自体を講談社に限らず、他の出版社に売り込むところまでやってほしいなと思っていますから。

 いつも河北さんにはそう言っていただいています。今回は、まずやってみようというチャレンジ企画でしたね。それこそセッティングからみんなで手分けしてやって、本当に手弁当のフェアでした。

河北 出版社と印刷会社が書店に「すみませーん、おじゃまします!」って(笑)。みんなで本を並べて、本当に文化祭のようでしたね。

松本 著者も大喜びでした。「これまで全然知らなかった人に届くのは本当にうれしい」と言ってもらいましたし、そもそも「こういう工夫をして売ってくれること自体がうれしい」という話が非常に多かった。わざわざ地方から池袋までフェアを見に来た著者もいましたよ。

市川 ここまで大々的なフェアって、あんまりないですからね。

河北 でも、普段は書店員さんがポップとかを書いてフェアをやってくれますよね。それは書店員さんの仕事の一部ではあるんですけど、そこに我々はこれまではおんぶに抱っこでいたわけです。

 実はちょうどこのフェアを始める前、私は書店研修でジュンク堂書店 池袋本店にお邪魔していたんです。そこでたまたま市川さんにご指導いただいていたんですよね。

市川 そうでしたね。

河北 とても忙しくて厳しかったでしょう(笑)?

 いろいろ伺いました(笑)。書店員さんが1日何をやっているかとか、出版社とどんなお話をされていて、何を基準に仕入れているのか、店頭でどうやって生活者の方に本を届けようとしているのかとか。書店員さん、本当にお忙しいんですよね。特に大型書店だから、1日中本も届き続けて……。

市川 そうですね。プラス接客業でもあるのでお問い合わせを受けたり。研修に来ていただいたのでわかると思うんですけど、本当になんだかずっと忙しいんですよ(笑)。

 私も朝の10時から延々と声をかけていただきました。

市川 私たちも、もっと面白い切り口でフェアとか考えたいという気持ちはあるんです。でもどうしても、時間がない。あそこまでの完成度のレベルのものは書店員の力だけではなかなか難しい。なので、こうやって3社合同で面白いことができたのはとても有意義でしたし、これからも継続していきたいんです。

河北 3社だけでなく、ブックカバーを作ってくれているデザイナーさんも、楽しんでやってくださったんですよ。

 フェアに関わった人、みなさん楽しんでやっていましたよね。本当に文化祭のような感じで。これからフェアを全国展開していくときにも、この熱量は各書店さんにお伝えしたいですね。

河北 「本のおたけび」のフェアも興味を持ってくれている書店があります。ある程度まとめてつくらないとコストもかかってきてしまうので、その辺りも考えて、これから準備して展開していきたいと思います。

 そうですね。「よみぐすり」も20店舗くらいの注文を一緒にして進行できたので理想的でした。あの規模がどれくらい広げられるかがビジネス的には肝になってくると思います。

河北 これから「本のおたけび」のブックカバーも見直していきます。店頭での動きをみていると、タイポグラフィーの圧が控えめのものが手に取られづらかったなとか、なんだかんだみんな英語は苦手なのかなとか(笑)、いろいろわかってきました。もうちょっと動いてもよかったなと思う作品もありますしね。

松本 読者も含めてみんなで楽しみながらいろんなことがつながって、これまでの課題の突破口も見えました。10月からは「レジェンドノベルス」の1周年フェアとして、「伝説のよみぐすり」フェアも実施しています。今回の知見を活かして、この先もどんどん面白い企画を立てていきたいですね!

市川真意イメージ
市川真意(いちかわ・まい)

丸善ジュンク堂書店 池袋本店 文芸書担当

内 宏隆イメージ
内 宏隆(うち・ひろたか)

大日本印刷株式会社 出版イノベーション事業部ビジネスデザイン本部営業部第2課課長

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