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笑う門にはたぬきたる!? 豆狸の女の子と美人師匠の大正落語ファンタジー

うちの師匠はしっぽがない(1)
(著:TNSK)
2019.09.29
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落語ブームと言われて久しい昨今。私自身、熱烈とは言えないまでも寄席には何度か行ったことがあるし、CDを買ったこともあるし、飛行機のオーディオサービスでは必ず落語を聞くので、それなりに知っているつもりでいました。
しかし「上方落語」のことは何も知らないことに、今回初めて気づきました。
『うちの師匠はしっぽがない』に登場するのは、大正時代の上方落語の世界。
しかも師匠は女性で、弟子も女性。さらにこの2人が人間ではないという設定なので、今までの落語を扱った漫画とは一線を画すものになっています。

主人公は、淡路の豆狸「まめだ」。まめだは大阪へ行く用事を託されるのですが、長老からは「わしらの術が通じる時代は終わった」「絶対に人間に関わるなよ」と言われます。
ところが好奇心旺盛なまめだは、大阪に着くなり早速、若い娘に化け……。

ところが、葉っぱのお札にはスカシがなくてすぐにバレ、人間を驚かそうと暗闇で火の玉に化けても、街が明るすぎて狸の姿が丸見えという始末。
これでは「全っ然、化かせない!」と落ち込んだまめだは、にぎやかな寄席へと吸い寄せられます。その高座で見たのは、人気落語家の大黒亭文狐(ぶんこ)。
実は文狐は、人間に追われ通天閣から飛び降りたまめだを助けてくれた命の恩人であり、まめだを狸だと見抜いた女性でもありました。

文狐から「もう人間化かすなんてアホなことすな」と諭(さと)され、淡路に帰るよう言われたまめだですが、文狐に弟子入りを志願します。

どうやらこの文狐、狐が化けているようなのですが、艶っぽくて粋なことと言ったら!
人々が落語に魅せられる理由も「ウチらまだ心のどっかで化かしたい、化かされたいって……、思てるんやろなぁ」と言うのです。このセリフには痺れました。

上方落語は、大阪・京都を中心に演じられてきた落語で、落語家は「タンタン」とか「タタカタン」と小拍子(小さな拍子木)を机に打ち付け、リズムを取りながら噺します。
また、三味線、鐘(かね)、太鼓などの「ハメモノ(鳴り物)」が賑やかに入るのが特徴です。
と書いても伝わらないでしょうから、是非、動画で見るなり聞くなりしてください。

私は関東生まれの関東育ちのせいか、全く上方落語を聞いたことがなかったのですが、漫画にも出てくる『東の旅 口上 発端』という演目を聞いて、落語家と小拍子の絶妙な掛け合いに、これが上方落語か!と感動しました。
なんでもこの演目は、上方落語の落語家が最初に覚えるものだそうです。
そういう背景がわかった途端、この漫画に出てくる絵も生き生きとしてきます。

漫画では、文狐師匠に弟子入りを許されたまめだが、色々と修行をする中で、腕はあるけれど愛想がない前座の女の子・しららと出会います。
このしらら、何やら訳ありのお嬢様で、しららの師匠の百團治(びゃくだんじ)も囚われの身。
そして文狐も百團治とは何かしらの因縁があるようですが、それはまだ謎のままなので、文狐&まめだ、百團治&しららの師弟コンビ同士が、この先どう関わっていくのか気になります。

でもまずは、『うちの師匠はしっぽがない』に出てきた上方落語の演目「遊山船(ゆさんぶね)」「崇徳院(すとくいん)」「らくだ」を聞き込もうと思います。
その上でまた漫画を読み直したらどう感じるのか、それもまた楽しみな漫画だと思います。

  • 電子あり
『うちの師匠はしっぽがない(1)』書影
著:TNSK

「この漫画、化ける!ぞ!」――西尾維新(『化物語』『ヴェールドマン仮説』)

いつか人間を化かしてみたいと夢見る、豆狸の女の子・まめだ。
少女に化けて大都会・大阪に繰り出し、黒髪の美女を化かそうとするが一目で見破られてしまう……!
落ち込むまめだに容赦なく「里に帰れ」と言い放った美女は、自分を「落語家」だと名乗り……?
笑うかどには、たぬきたる。読むと笑顔になる大正落語ファンタジー、ここに開演!

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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