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2人っきりの将棋部でぐいぐい迫る後輩に揺らぐ先輩。新感覚“盤外戦”ラブコメ

それでも歩は寄せてくる(1)
(著:山本 崇一朗)
2019.08.06
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藤井聡太七段の活躍、羽生善治九段の歴代勝利数NO.1など、この数年、将棋熱が高いので、てっきり将棋のHow toものだと思って読んだら、肩透かしをくらいました。
でもそれは、いい意味で期待を超えたと言うこと。その証拠に最初は頬が緩み、次にじわじわと染みてきて、気づけばクセになっていました。
これって人を好きになる感覚と似ているかもしれません。

田中歩(あゆむ)は、高校1年生の男の子。1つ上の先輩、八乙女(やおとめ)うるしと2人きりの部室で、将棋を指す日々を送っています。
将棋初心者の歩が将棋部に入った理由はただ1つ、うるしが好きだから。と、ここまでは部活入部動機あるあるなのですが、ここで繰り広げられるのは将棋の対局というより、1対1の恋の心理戦。


歩はうるしのことを「かわいい」だの「見惚れてました」だの「センパイの笑顔が見れて嬉しい」だのと平気で言ってきます。
褒め言葉を言われて嫌な気持ちになる人は滅多にいないでしょうが、歩の場合は褒め言葉を通り越して、“褒め殺し”に近い感じです。なぜかというと、怖いくらいのポーカーフェイスなので。そのくせ「好き」とは決して言わないのです。

グイグイモーションをかけてくるのに肝心の告白をしない歩は、とんだ曲者です。
私がうるしだったら、こう言いますね。「いい加減、思わせぶりな態度やめろ」
こんなふうにジリジリと攻められたら、「好きになってまうやろ」だからです。

この漫画、登場人物はほぼ2人、限りなく2人。
それぞれの1ショットずつの画が多く出てくるのですが、2人の掛け合いと間の取り方が絶妙なんです。しかも、それがそのまま恋の駆け引きになっていてシビレました!

一貫しているのは、歩は言葉では攻めるのに将棋は守り。
うるしはその反対で、将棋では攻めるのに、歩の愛の言葉には防戦を強いられます。
そして、うるしが思い切って攻めに転じると、今度は歩がすっと引くのです。
これぞ見事な"肩透かし作戦"と言いたいくらい、歩はうるしのちょっかいをニコリともせずにかわします。

でもなぜ、歩がそんな態度を取るのかというと、「告白するのは、センパイに将棋で勝った時と心に誓ったんです」と歩の心が呟くわけです。
いい男だな、田中歩。男として芯が通っている。しかも、なかなかのイケメンというのは、うるし自身も認めているところだし。

一方、うるしは歩のことをどう思っているのかというと、まんざらでもなく、少しずつ攻め寄られている感じです。
そりゃそうですよね、素直に好意を寄せてくる人に対し、気持ちが動くのは当たり前。あれっ、いつの間にか好きになってる……なんてことは、誰しも経験があると思うのです。

とにかく歩の将棋の腕前が、どこまでうるしに追い付き追い越せるのか。この勝負に2人の恋の行方もかかっているわけです。

うるしのセリフに、こんなのがありました。
「と金~と金~~ 成ったら強いぞ」
将棋の駒の「歩」は、相手陣地(三段目以内)に入ると裏返って「と金」に「成る」ことができます。
より強い駒に変わることができるのです。
全戦全敗の歩も、変貌を遂げるかもしれません。この先、歩がどんな男気を見せ、うるしを攻略するのか見ものです。

  • 電子あり
『それでも歩は寄せてくる(1)』書影
著:山本 崇一朗

『からかい上手の高木さん』山本崇一朗が描く超尊い将棋ラブコメ! この恋、詰むや詰まざるや……? 将棋の初心者・田中歩は部長の八乙女うるしに勝って告白したい。棋力は程遠いけれども、ぐいぐい攻めてくる歩の姿勢に別の意味でセンパイは“詰む”かもしれない……というお話。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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