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若冲、蘆雪、国芳から徳川家光のヘタウマまで。へそまがりな感性の日本美術史

2019.03.20
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■「これでいいの?」ツッコミどころ満載の作品ばかり。今春、もっとも熱い展覧会「へそまがり日本美術」展

徳川家光のゆるい動物画が話題の「へそまがり日本美術」展(@府中市美術館)。家光の他にも、「これでいいの?」と思わずツッコミを入れたくなるような作品が、まだまだあります。「日本美術」というお堅いイメージを根底から覆す、ユニークな作品の数々──実物は展覧会でぜひ、ご覧いただきたいのですが、ここでは思わず実物が見たくなる、選りすぐりの作品をご紹介します。

「かわいい」「ゆるい」だけじゃない!  パンチの効いた、迫力の仙厓さんがずらり

細長い画面いっぱいに、丸い頭が描かれています。「ミニオンそっくり!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、なんとこれは十六羅漢。つまり仏教の世界、作者は江戸時代の禅僧・仙厓義梵です。羅漢さんたちはなぜか頭しかないうえにその頭の形もまちまち、画面の上下に描かれた竜と虎も、「これが竜と虎ですよ」と言われなければわからないほどの自由な描き方。なんともパンチの効いた作品です。

今回「へそまがり日本美術」展には、計11点の仙厓が出品されますが、ポイントは「かわいい」「ゆるい」禅画で有名な仙厓さんのイメージを覆すような作品が揃うこと。中でも仙厓が晩年を過ごした博多・幻住庵から出品される作品は、代表作の屏風絵はもちろん、いずれも破壊力のある作品ばかりで、見逃せません。

仙厓義梵《十六羅漢図》(前期・後期展示)*

仙厓義梵《豊干禅師・寒山拾得図屏風》のうち左隻  幻住庵(福岡市)蔵(前期展示)

仙厓義梵《蜆子和尚図》幻住庵(福岡市)蔵(前期展示)*

若冲、蘆雪、そして国芳……「奇想の画家」たちの「へそまがり度」って!?

「きれい」で「立派な」造形を愛でる一方で、きれいとは言えない、不恰好なものや不完全なものに心惹かれる「へそまがりの感性」に注目して、美術史を捉え直すという「へそまがり日本美術」展。「奇想の画家」として知られる江戸時代の人気画家たちの作品も数多く出品されます。

けれども「奇想」というと、サイケな色遣いや細密描写をイメージするかもしれませんが、そういったテイストの作品ではありません。例えば伊藤若冲。あえて「素朴風」に描いた《伏見人形図》や、おおらかなユーモアを感じさせる《福禄寿図》など、超細密な描写もこなす高い技術を持つマニアックな画家、という若冲のイメージに反する、けれども若冲の「へそまがり度」の高さを物語るユニークな作品が選ばれていることがポイントです。

また、長沢蘆雪の作品も充実。いかにもへそまがりな仙人の絵の他、くたっとした造形が蘆雪の「へそまがり度」を示す子犬の絵も見逃せません。

伊藤若冲《伏見人形図》(前期展示)

伊藤若冲《福禄寿図》(前期・後期展示)*

長沢蘆雪《郝大通図》(前期展示)

長沢蘆雪《菊花子犬図》(前期・後期展示)*

なんと、初公開作品が44点!! 「春の江戸絵画まつり」が人気を集めているわけ

展覧会で初公開の作品があると、新聞などで華々しく紹介されますが、「へそまがり日本美術」展での初公開作品はなんと、44点にものぼるそうです。このページで紹介した作品のうち、「*」マークのあるものも全て初公開なのです。担当学芸員の金子信久先生にそのことをお伺いしてみると、「研究の成果を展覧会で発表するのが学芸員だと信じて、30年間この仕事をやってきました。ですから、いわゆる“新発見”作品はいつもこれくらいになるんです」と話します。これだけ面白い作品を毎年集めて、惜しげもなく公開するのですから、金子先生が手がける、恒例の「春の江戸絵画まつり」が美術ファンの間で人気を集めているのも納得です。

夏目漱石《柳下騎驢図》(部分)(前期・後期展示)*

遠藤曰人《蛙の相撲図》(部分)仙台市博物館蔵(前期展示)

一癖も二癖もある、インパクトのある作品ばかりが揃う「へそまがり日本美術」展。美術通も、そして普段は日本美術に馴染みの薄い方も楽しめる、イチ押しの展覧会です。

春の江戸絵画まつり
へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで
会期 2019年3月16日(土)〜5月12日(日)
【前期】3月16日(土)〜4月14日(日)
【後期】4月16日(火)〜5月12日(日)
*全作品ではありませんが、大幅な展示替えがあります。
会場 府中市美術館(都立府中の森公園内)
特設サイト http://fam-exhibition.com/hesoten/

出典元 https://kurashinohon.jp/1011.html

府中市美術館

「生活と美術=美と結びついた暮らしを見直す美術館」をテーマに2000年10月に開館。都立府中の森公園の中にあり、1階は美術図書室、市民ギャラリー、教育普及関係の施設のほか、ミュージアムショップやカフェなどがある。2階は展示空間で、所蔵品展や企画展を行っている。恒例の「春の江戸絵画まつり」は美術ファンに人気の展覧会となっており、毎年話題を呼んでいる。

 府中市美術館 公式サイト

『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』のほか、料理、美容・健康、ファッション情報など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。

講談社くらしの本はこちら

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『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』書影
著・編:府中市美術館

「へそまがり日本美術ー禅画からヘタウマまで」展の公式図録。一般書籍としても発売中。

若冲、蘆雪、仙厓、国芳といった人気画家の作品から、徳川家光の「ヘタウマ」絵画まで──「きれい」ではないけれどなぜか心惹かれる、「へそまがりな感性」が生み出した絵画138点を紹介する、新しい日本美術史の本です。

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