今日のおすすめ

死に損ないの新選組・原田左之助vs.凶悪な馬賊・張作霖──豪快時代活劇、開幕!

黒狼(1)
(著:百地 元)
2019.01.26
  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます

歴史ロマンが好きで、主人公がカッコいい作品が好きな読者なら、アフタヌーン系の『ヒストリエ』や『ヴィンランドサガ』は大好物なはず。だけど、「続刊が出るまで待ちきれない!」、「もっと他にもワクワクするような歴史ロマンが出てこないかな? ……」と思っているのではなかろうか。

うむ、何を隠そう、私がその1人なのでございます……。

そこで、次の期待を担う作品として紹介したいのが本作。新撰組に満州馬賊と、歴史物好きにはたまらないキーワード。魅力的な男たちが登場し、俠気溢れるセリフや躍動感いっぱいのアクションシーンがたっぷり盛り込まれていて、一大アクションスペクタクルを楽しめるのだ。

主人公は、「死に損ね左之助」。言わずと知れた新撰組の十番組長、原田左之助のあだ名である。かつて、上官との喧嘩で「腹を切る作法も知らぬ下司め」と罵られたことで、カッとなって一文字に腹を切って見せたことがあり、以来、「死損ね左之助」と隊内であだ名されたことは有名な話だ。


短気だが、豪気であり、新撰組の中でも美男子と言われたこの男、歴史上では、上野戦争の負傷により、29歳で死亡したとされているが、一方、「生き延びて、満州で馬賊の頭目になった」という伝説もある。

この物語は、そんな左之助が、上野の戦いで死に損なったその瞬間、「40年後の満州に飛ばされる」という意表を突くエピソードからスタートする。なぜ40年後なのか疑問に思う人もいるだろうが、そこが本作の肝(きも)なのだ。


雪の中で倒れていた左之助は通りがかりの満州人に助けられ、ここが清の満州であることを知る。さらに、彼らの村は悪名高き馬賊の親玉・白虎王に襲われ、家族を皆殺しにされたことや、白虎王が狙っているものが"龍の瞳"という宝石であること、その宝石を持つ者は、「不老不死や永遠の富と名声が手に入る」という言い伝えがあることを聞かされるが……。


直後、左之助は彼らに同情するどころか、突如、男の手のひらにナイフを突き立てる! 実は、左之助は彼らこそが村を襲った賊だと見抜いていたのだ!

そう、これこそが本作の魅力。ページを開いた瞬間にバクッと急展開をするところにあるのだ。直前までの空気をスパッと刈り取るがごとく、スピーディーかつ意外な展開が随所に織り込まれている。構図の上手さも相まって、「読者の意識を持っていく」力量にワクワク!


この後、豹変した男たちと乱闘になった左之助は胸に銃弾を受ける。この時、赤い光が走り、上野の戦いで心臓を撃たれ、死に損ねた瞬間を思い出す左之助。彼を守ったのは、胸に下げたお守り袋であり、そこには“龍の瞳”の欠片が隠されていたのだ……!


不思議な石の力でまたも死に損なう左之助は、賊との乱闘を続けるが、その均衡を破るがごとく登場したのがこの男、奉天馬賊の英雄・白虎王だ!


白虎王は自分の領地を荒らす賊どもを容赦なくぶち殺す。左之助の胸にも鉛弾を3発撃ち込むが、“龍の瞳”の欠片に弾き返されてしまう。
「なぜ日本人が欠片を持っているのか」と冷ややかに問う白虎王。それもそのはず、龍の瞳とは“王の証”であり、7つに砕かれた龍の瞳の欠片を集めた者が、中華大陸の王となるのだという。


白虎王は、「お前の持っている欠片は俺にとって2つ目だ」と不敵に笑い、殺して奪い取ろうとする。しかし、そこは豪気な左之助。一歩も辞さずに欠片を飲み込んだ~~(笑)!

目的のためにはどこまでも冷徹な白虎王と、炎のような激しさと真っ直ぐさを持つ左之助。緊張感いっぱいの2人のやりとりには、時折、肩の力が抜けるような展開が差し込まれ、次第にキャラの魅力に引き込まれてしまう。


さて、龍の瞳の欠片を腹に抱いたことで、左之助は白虎王と行動を共にすることになる。そんな中、ロシアと通じている賊を制圧する場面で、「異国に媚びて国を腐らせる売国奴は、俺の国には必要ない」と語る白虎王。新選組で同じ思いを抱えていた左之助は、彼の言葉に心を動かされるのだ。


この時、左之助は白虎王によって強引に戦いに駆り出されるが、賊に捕らえられた日本人女性の新聞記者から、戊辰戦争は40年前のこと。侍はもういない」と言われ、愕然とする。

一方、白虎王は左之助の戦いぶりや、後先考えない豪胆さに興味を持つ。自分の根城に連れていき、この国の今や未来について語ったのち、「俺は王になるぞ」と宣言する。「夢物語だ」という左之助に対し、これは事実だと言い放つ白虎王。なぜなら、「お前が現れたからだ」、と……!?


「病み衰えたこの国に、今、必要なのは4億の民を食わせていける王だ」と語る白虎王。“龍の瞳”は、その資格を持つ者に集まるのだと告げ、そして、左之助にこう言うのだ。

「お前の魂を俺に賭けろ」と……!

実はこの白虎王もまた歴史上の人物。その名も張作霖。けた違いの器量を持つ奉天馬賊の英雄は、貧しい農民の生まれから乱世を駆け上がり、満州王と呼ばれるまでになった男だ。なぜ死に損なった左之助が40年後の満州に飛ばされたのか? それは、この男と出会うためであり、再び「自分の“生”」を生きるためなのだっ!!

覇権に向かい、熱き男たちが邂逅するその姿。歴史ロマン好きにとって、まさに「待ってました」なワクドキ展開ですなあ。


俠気溢れる登場人物たちの名台詞や、大胆な構図で魅せるアクションシーンがたっぷり盛り込まれたこの作品。クールな白虎王と熱血な左之助、水と油のごとく違う激しさを持つ2人が、ここからどう覇権を勝ち取るのか、そして、2人にどんな運命が待っているのか、今後の展開に期待大だ!


  • 電子あり
『黒狼(1)』書影
著:百地 元

全力血みどろ新選組、中華大陸で吠える! 20世紀初頭、動乱収まらぬ中国東北部・満州に現れた新選組・原田左之助。馬賊同士の戦いに巻き込まれた左之助は、中でも凶悪な男・張作霖に目を付けられる。銃さばきが強さを決める社会で、使える武器は槍と刀――。戦い続ける男の豪快時代活劇、開幕!!

レビュアー

ゆたかまり イメージ
ゆたかまり

貸本屋店主。都内某所で50年以上続く会員制貸本屋の3代目店主。毎月50~70冊の新刊漫画を読み続けている。趣味に偏りあり。
https://note.mu/mariyutaka

  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます