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山田五郎の「へん」で身につく美術の教養。ルーベンス、セザンヌ、ゴッホまで。

へんな西洋絵画
(著:山田 五郎)
2018.10.21
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とてもたのしい本です。

「この本はとてもたのしいです。ぜひ手にとって見てください」

そう言ってひとことで終わらせたいのですが、それでは職責を果たしたことにならぬので、駄文をつらねさせていただきます。

本書はタイトルにあるとおり、「へん」な西洋絵画を集め、その「へん」さを紹介する本です。

もっとも、「へん」を集めるだけなら、特殊な才能がなくてもできそうです。画集を山と積み上げ、「へん」と思えるものをピックアップしていけばよいのですから。

だが、そんな簡単なことではありません。この本はたぐいまれなる本であり、マネすることは、たぶん、できないでしょう。

なぜか。

この本には、「へん」を引き立たせるために、絵にツッコミが入っているからです。見出しで、キャプションで、解説で。ツッコミは本書のあらゆるところに見られます。それがムチャクチャおもしろい。読みながら、何度か声を出して笑いました。本見て笑うなんて、ギャグマンガ読んでたってそうそうないことです。

人を笑わせることって、とても難しいことです。怒らせたり悲しませたりすることよりずっと難しい。同じギャグだって、ヘボい漫才師がやるのと一流の漫才師がやるのとでは全然ちがうでしょう? 古典落語なんて、モノによっちゃ江戸時代に作られたギャグを言うのですから、その話しっぷりが成否を分けます。落語家に長い長い修業が必要なのはそのためです。言いかえれば、笑いには高度なテクニックが必要だということです。怒りとか嘆きには、そんなものいりません。

本書は著者の才覚と長年の研鑽の賜物であります。誰にでもできることじゃない。

もっとも、読者であるわたしたちは、そんなことを考える必要はありません。ただ笑っていればいい。おもしろいものを正直に、ひたすら笑うことを許されるのは受け手(本の場合は読者)の特権です。それを享受していればいいのです。

ただし、本書はそれだけでは済まないようにできています。

本書の第一章(SECTION1)は、「可愛くない子どもたち」と題して、へんな顔した子どもの絵を集めています。子どもといえば可愛いもの、それは古今東西かわらないはずなのに、ここに集められた子どもはどいつもこいつも「へん」な顔をしています。三白眼の醜いやつ、オッサンみたいな顔をしたやつ、ずるそうな薄笑いを浮かべたやつ……。



驚くべきは、これらの「へん」は画家たちが意識して描いたものだということです。描いてるうちにへんになっちゃった、ではない。「へん」――そう言って悪ければ通常はあり得ないような子どもの姿を描こうとして成ったものでした。

画家たちは、なぜへんな顔の子どもを描かねばならなかったのか。本書にふれるうち、それが理解されてきます。それは西洋絵画がどうして描かれたのか、人々は絵に何を求めていたのかにつながってくるのです。読者は知らず知らずのうちに、深い西洋絵画史の世界、いや、西洋史の世界に引き寄せられていきます。

西洋の絵画史、ないしは西洋史について述べた本は、これまでに何十冊も、いや何百冊も出版されているでしょう。しかし、本書は専門家と興味ある人だけの世界だったそこに、一般の人も引きずり込もうとしています。

著者はこう語っています。

全ての芸術作品は、難解な「アート」として有り難がるより、「へんな絵~!」と笑ったり、「本物そっくり~!」と感心したりしながら楽しむほうが正解かもしれません。

そういう楽しみ方を伝えることには、該博な知識と並外れたセンスが必要とされます。誰にでも可能なことじゃない。この本はそれを教えてくれます。

そして、そのほうが絶対にたのしいことも。

著者をテレビタレントと認識されている方も多いでしょうが、編集者として多くの美術書を手がけた経験を持つそうです。また、西洋美術に関する著書も多く、氏の美術講座はたいへんな人気で毎回満席だと聞きました。

『へんな西洋絵画』書影
著:山田 五郎

可愛くない子どもたち、どう見てもおかしな動物……偉大な西洋画家たちが描いた”へんな絵”で、笑って学ぶアート入門。

レビュアー

草野真一 イメージ
草野真一

早稲田大学卒。元編集者。子ども向けプログラミングスクール「TENTO」前代表。著書に『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの?  』(講談社)。2013年より身体障害者。 1000年以上前の日本文学を現代日本語に翻訳し同時にそれを英訳して世界に発信する「『今昔物語集』現代語訳プロジェクト」を主宰。

https://hon-yak.net/

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