今日のおすすめ

松浦弥太郎さんが一番大切にしているもの。「1からはじめる」これだけ!

1からはじめる
(著:松浦 弥太郎)
2018.10.15
  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます

成功したい? わかった。まずは、落ち着こう

「自分のお店を持ちたい」
「会社の社長になりたい」
「なんか有名になりたい」

形はそれぞれですが、みんな叶えたい夢のひとつやふたつあるでしょう。
わかるわかる。私もなにかで成功して、プライベートジェットとか月旅行とかしてみたい。

ではその夢を叶えるために、まずやるべきことはなんでしょう?
えーと、物件を探して契約して登記して……。
その前にメニューを決めないと。開店時間は何時にしよう?

いやいや待て。まず、落ち着け。そしてこの本を読もう。松浦弥太郎さんの新著『1からはじめる』である。


松浦弥太郎さんが自己啓発本を書くと、こうなる

松浦弥太郎さんをご存じでしょうか。ライフスタイル誌ブームの火付け役で、『暮しの手帖』元編集長。「ていねいな暮らし」の代名詞といえるような方ですよね。現在はIT企業に移籍して、バリバリやっている。つまり「すてき」と「バリバリ」を両立させている、すごい人。これは憧れざるを得ない。私もこんな大人になりたい。

彼の持つもの、食べるもの、住まいは常に注目されている。そんな方の新著が出たとなると、暮らしぶりが垣間見えるのかと思いきや。なんと持ち物も、レシピも、趣味も、そういう類のものが一切載っていないのです。

そう、これはいわゆる「自己啓発本」。成功する方法とかが書いてあるアレです。松浦弥太郎さんが自己啓発本を書くと、こうなった。まず、装丁がすてき。

手触りが良い。ツルツルしてない。すごくおしゃれである。

文字も大きすぎず小さすぎず、落ち着いていて読みやすいレイアウト。読む人のことをきちんと考えて作ってくれたんだなぁとしっとり感じる佇まいです。

なんだかカフェでコーヒー片手に読みたくなりますが、それなのに中には「成功の秘訣」が書かれているのですよ!! ギラついてます。ギャップがすごいです。


松浦弥太郎さんが一番大切にしているものは、モノでも趣味でもなかったんです

松浦さんと私たちの違うところはなんでしょうか。私たちはどうやったら松浦さんのようになれるのでしょうか。

彼が発信しているレシピやインテリアをぜーんぶ真似すれば、彼のようになれるかな? おしゃれで素敵な「成功者」になれるかな?
いや、もういっそのこと「おしゃれで素敵」はなくてもいい。成功するにはどうすれば!!??

……すみません、私もギラついてしまいました……。
その秘訣とはただひとつ、本の題名にもある「1からはじめる」。これだけ。

冒頭で彼は言います。

「すてきな人になるにはどうすればいいんだろう?」
「なんであの人は成功しているんだろう?」
「なりたい自分になれなくて、つらい」
すてき、成功、なりたい自分の定義はとてもむつかしくて人それぞれですが、どんな定義であろうと、多くの人にとっての願望であり、羨望であり、夢だと感じます。
そのすべてをかなえるのが、「1からはじめる」。
ただ、これだけです。

なるほど……わかったような、わからないような、当たり前なような。

まずそもそも「1から」ってなんやねん。そこがピンとこないまま、やさしい文章の心地よさに、つい読み進めてしまったのですが。

なんと本書、自己啓発本のくせに具体的なことはほとんど教えてくれないんですよ。あのさ、もうちょっとさ、「早寝早起きは必須」とか「酒は飲んでも飲まれるな」とか、実践しやすいノウハウはないの?

雲をつかむようなこの感覚。しかしそのうち、読みながら自分の経験を重ねていくように。それがジワジワとボディブローみたいに効いてくるのです。

私がぐぐぐっと納得したのは、この部分。

1からはじめるとき、具体的に何をするかについても基本があります。
それは、目に見えない部分からはじめるということ。
あらゆるものごとには、目に見える部分と見えない部分があります。
仕事についていうと、目に見えない部分は、プランニングや思考や発想です。頭の中はフルに働いているのですが、はたからは「なんだかぼんやりしているな」といった具合で、仕事をしているさまが目に見えません。
いっぽう、資料や企画書をつくったり、プレゼンテーションをしたり、実際に商品開発をしたり、取引先を訪問したりといったことは、仕事の目に見える部分。誰が見ても「頑張っているな」とわかります。
目に見える部分はわかりやすいから「これぞ仕事」としてみんなに知られており、そこからお金が生まれます。
どちらもなくてはならないことで、両方がふさわしいボリュームで配分されていないと、良い仕事はできません。
「1からはじめよう。すぐにはじめよう。最短距離ではじめよう」となったとき、目に見えることからはじめてしまう人がほとんどです。
しかし「1からはじめる」の「1」は、目に見える部分ではなく、目に見えない部分にあります。まだ何も形になっていない、見えない部分が「1」なのです。


それな!!!
仕事ってどうしても「作業」の部分にフォーカスされがちだけど、「誰のために?」「なんのために?」などの前提がボヤけたまま作業に入ると、なんとなくそれなりには仕上がるけどそれで終わるというか。誰かの心に残ったり、次へと繋がるような仕事には決してならないのです。私も経験ありありです。

ていうかさ、みんな目指すところに一足飛びに行きたがりすぎなんだよね! そりゃ行きたいよ、さっさと偉くなりたいじゃん!
でもそうじゃないぞと。まず落ち着けと。物件探す前にやることあるぞと。


本当の「ていねい」を手に入れる

「1からはじめる」がどういうことかわかったからといって、すぐにできるようになるわけではないみたい。
外堀を埋めていく作業が色々と必要なよう。

本書では、「1からはじめる」ためのコツがたくさん書かれています。
「ヴィジョンにこだわる」
「情熱的に落ち着く」
「自分を大きく見せない」
「『好き嫌い』より、楽しむことを大切にする」
などなど……。

不思議なことに気づいた時には、松浦さんと一緒に自分の内面を見つめる旅に出ていました。

「あ、これあの時のことだ」
「あの時ああしていればよかったな」
今までの自分を見つめ直して整理して、ニュートラルな姿勢に戻す作業を松浦さんが手伝ってくれました。これは、襟を正してまたスタートを切るための、とても贅沢な本なのです。

大切なのは、自分の見てきたもの、知っていること、やってきたことをていねいに積み重ねていくということ。崩れないようにひとつずつ積んでいけば、それは他に代わりのない、私だけのたったひとつのものになるのかも。

松浦さんの「ていねいな暮らし」の本質は、インテリアでもアートでもなく、こういうところにあったんだなと気付かされます。

夢があるのに、なぜかいつまでもうまくいかないそこのあなた、諦める前に一度、この本を手にとってみてはいかがですか?

『1からはじめる』書影
著:松浦 弥太郎

「今日もていねいに」という宝物のような言葉を、再定義して、1から見つめ直し、僕は自分の中のていねいさをアップデートしたい。生き方の本質を語りかける、人気エッセイストの最新作! 松浦さんの言葉があなたを新たな地平に導く。

レビュアー

保手濱歌織 イメージ
保手濱歌織
mazecoze研究所所長。時短研究家、PTA研究家。日々のあれこれをいかに「時短」するかに命を賭けるワーキングマザー。新しいPTAのあり方についても日々リサーチ中。7歳男児&2歳女児&0歳男児を育成しています。
  • facebook
  • X(旧Twitter)
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます