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講談社社員 人生の1冊【78】極上の小川洋子ワールド『ブラフマンの埋葬』
小野敬子 業務部 30代 女
ジュンブンガクもなかなかおもしろい、と思った1冊
コミック雑誌の販売部から書籍の販売部に異動して、純文学の販売担当をすることになった。出版社に勤めていながら(好きな作家の作品はそれなりに読んでいたけど)恥ずかしながら「純文学」ってあまり得意ではなく……。そんな中、販売担当としてめぐりあったのが小川洋子さんの『ブラフマンの埋葬』だった。当時、著者の作品で初めて読んだのもベタですが『博士の愛した数式』だったくらい疎かったんです。
タイトルからしてブラフマンはいずれ死ぬのだろう、ということは想像できる。ブラフマンがオスの小動物であることはすぐにわかるが、最後まで何の動物なのか明かされない。最初はかなり気になったが、読み進めていくとそんなことはどうでも良くなり、おとぎ話のような小川ワールドに引き込まれていった。とにかくどのページを開いても描写が美しい! おそらく日本ではないだろう物語の舞台・創作者の家、森のキラキラとした風景、愛らしいブラフマンの生き生きとした様子、しかし対照的に登場する「死」を予感させる石棺や碑文彫刻家。そしてあまりに突然おとずれるブラフマンの死。淡々と語る著者の「生と死への思い」が伝わってきて、そのなんともあっけない死の余韻が心にしみ、この作品というか小川ワールドにすっかりはまってしまった。
ゲラを読んでいたく感動しているところに、『博士の愛した数式』が「第1回本屋大賞」を受賞したという吉報が舞い込んできた。今や受賞すれば大重版→大ヒット間違いなしの本屋大賞だが、なにせ当時は第1回。『博士の愛した数式』はすでに売れていたが、それが新作の『ブラフマンの埋葬』にどれくらい影響があるのかは全くの未知数、でも書店員さんたちの熱い気持ちを感じていた編集者と「やっぱり本屋大賞受賞帯をつけよう!」ということで盛り上がり、すでに進行していた通常帯の上に受賞帯を二重にかけて発売することにした。
発売になると、多くの書店が店頭の一等地に作った本屋大賞コーナーの中の、さらに1番目立つ場所に置かれた受賞作の隣に本書を平積みしてくださり、売れ行きも良好だった。大阪の書店で開催したサイン会はもちろん大盛況、とても丁寧にサインをし、熱心なファン一人ひとりに耳を傾ける著者の姿勢に、その人柄が伝わるとてもすてきなサイン会となった。担当させてもらって本当に幸せだなぁ、純文学もなかなかおもしろいじゃない、と思った1冊です。
- 電子あり
ある出版社の社長の遺言によって、あらゆる種類の創作活動に励む芸術家に仕事場を提供している〈創作者の家〉。その家の世話をする僕の元にブラフマンはやってきた――。サンスクリット語で「謎」を意味する名前を与えられた、愛すべき生き物と触れ合い、見守りつづけたひと夏の物語。
【第32回泉鏡花賞受賞作】
執筆した社員
小野敬子【業務部 30代 女】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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