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【論客喝破】保守本流(石橋湛山系)を排除した自民党本流(岸信介系)に未来はあるか

2018.07.31
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今の自民党はどうなっているのでしょう? 頑迷固陋と呼びたくなるまでのふるまい、独善的な排他性……平然と前言を翻す厚顔さ……。かつての自民党はもっと活力があり、闊達なさまを見せていました。戦争に反対する強い意志を持つ党員も数多くいました。たとえ執行部が相手でも、だめなものはだめと主張し、また執行部もそれを聞く度量がありました。自民党の中で事実上の政権批判もあったのです。今の自民党は見る影もありません。

自民党の変質には小選挙区制と政党助成金が影響を与えています。時の執行部に全権が集中し、主流・反主流というものはもはやなく、まるで執行部派しか存在しなくなっているかのようです。自民党はかつての党とは似て非なるものです。小泉純一郎元首相が自民党をぶっ壊すといったことが現実となったようです。なぜそうなってしまったのか……この本を読むと明快に理解できます。

著者によれば、もともと自民党には「保守本流」という流れと「自民党本流」と呼ぶべき2つの流れがありました。この「保守本流」と「自民党本流」の相剋がダイナミズムを生み出していました。しかし近年、人材に恵まれなかったことで、自民党内の「保守本流」は消滅の危機に至っています。それがいまの独善的な自民党を生み出しました。

「保守本流」「自民党本流」の源流となった2人の政治家がいました。「保守本流」を作った石橋湛山、「自民党本流」を作った岸信介です。この2人はまったくといって正反対の思想・信条を持ち、戦前・戦後を生きてきました。


・石橋湛山vs.岸信介

日本はかつて誤った道を歩んだ、もうここで誤った道を歩ませてはならない。

これが石橋の原点です。石橋はジャーナリスト、エコノミスト出身で戦前からの自由主義者でした。戦前から日本の満洲国経営を含む海外膨張主義(覇権主義)を厳しく批判し、「小日本主義」を提唱。戦後は戦前日本の侵略を批判し続けました。またGHQ(アメリカ)に対しても是々非々を主張し、そのためGHQによって追放の憂き目を見たこともありました。このGHQの石橋追放は著者もいうようにGHQの大きな過ちの1つにあげられます。経済観はもちろん自由主義経済を主張しています。

もう一方の岸信介についてはいろいろと語られていることが多い政治家ですが、端的に故・後藤田正晴が岸について語ったことがあります。

僕は個人的には、戦犯容疑で囚われておった人が日本の内閣の首班になるというのは一体どうしたことかという率直な疑問を持ちました。文字通り統制経済の総本山の方ですよね。そして中央集権主義的な行政のあり方、政治の主張、これを色濃く持っていているかたですよね。(略)これは、戦争に対する反省がないからです。それが、いまにいたるまでいろいろな面で尾を引いている。(講談社刊『情と理 カミソリ後藤田回顧録』より)

岸は経済官僚出身、満洲国経営の中心人物であり、また開戦時の東條英機内閣の閣僚でした。戦後も一貫して大日本主義(大アジア主義)を唱導しました。自民党の党是となっている戦後憲法の否定、自主憲法制定は岸の主張でした。また、統制経済を核とした国家経営を至上命題としていました。奇妙に思えるのは戦前日本への思いを強く持ち、戦後憲法否定でありながら、戦後体制を作ったアメリカとの日米一体化論(いまでは一体化ではなく対米従属)を主導したことです。

これほど考えの異なる2人でしたが、反吉田茂という点で一致し、日本民主党を結成し、岸の豪腕をもって自由党と合同し、自由民主党を誕生させます。本当はここにはねじれがありました。けれど冷戦という時代背景はそのねじれを押し隠したのです。このねじれは日本政治のわかりにくさの遠因にもなっています。

ところで、自由民主党結党後、ある時まで、首相になったのは「自民党本流」という岸の流れではなく、「保守本流」という石橋の流れにいる人のほうが多かったのです。首相経験者のうち「自民党本流」と呼べるのは岸、福田などであり、「保守本流」からは池田、田中、大平、竹下、宮澤、橋本、小渕等を輩出しました。かつての派閥名でいえば、田中派(のちに竹下派)と池田が作り上げた宏池会が「保守本流」です。ただし小渕以降は「自民党本流」もしくは「自民党本流」が支持した人が首相となっています。

「保守本流」は田中(著者のいう保守本流武闘派)と大平(保守本流理論派)が強力なタッグを組んでいた時が最盛期でした。その後「保守本流」は、2000年の竹下、梶山、二階堂などの有力政治家の死、加藤の乱の失敗などで急速に勢いを失っていきました。


・田中角栄ブームの底にあるもの

「保守本流」「自民党本流」という視点から私たちが得ることはたくさんあります。たとえば何年かごとにやってくる"田中角栄ブーム"。それが起きるのは「自民党本流」が勢いを増し、「保守本流」の復活を願う雰囲気が生まれた時のように思えます。誤解を恐れずにいえば岸から続く「自民党本流」の狙いである「国家統制意思」が強く出て息苦しさを感じたときに角栄ブームが起きています。石橋がなによりも重視した「自由闊達さ」への憧憬が現れてきたのでしょうか。きっと「保守本流の再興に挑んだ田中角栄」の姿が思い出されるのでしょう。

さらにこの本の優れたところは、研究者以外は着目されていない石橋湛山を大きく取り上げたところにあります。石橋はあまりに知られなさ過ぎます。病に倒れ、短期政権だったとはいえ、石橋は極めて重要な政治家です。

「戦後構想を示せた唯一の人物」と著者がいう石橋が作った「保守本流」、この本の中で宮沢喜一がいっているように戦後日本の経済政策は石橋の路線で進み、見事にその成果をあげたのです。

「戦争中に日本が誤った道を歩んだ、もうここで誤った道を歩ませてはならないということを考え、それだけで政治に入ったようなもの」という石橋の意思は、その見識とともに池田、大平そして宮澤喜一へ受け継がれました。そしてその精神は自民党を離れ、細川護熙に継がれていった、というのが著者の政治観です。そして「保守本流」に込めた石橋の意思はどこへいったのでしょうか? 

少し前に「私は保守」「30年前なら自民党宏池会ですよ」と立憲民主党の枝野代表がいったのがニュースになりましたが、もはや自民党には「保守本流」の流れは枯渇したのかもしれません。

ですから、自民党=保守という先入観から脱却して、「自民党本流」「保守本流」という2つの違いを今こそ正しくつかみ「保守本流」を復活させる必要がある、それが混迷と暴走を続ける今の政治から脱却する道である、それがこの本の底流にあるものです。その著者の声に耳を傾ける必要があります。戦後政治史を考え直す上でも必読のアクチュアルな1冊です。

  • 電子あり
『自民党本流と保守本流 保守二党ふたたび』書影
著:田中 秀征

近年の自民党の変質、安倍一強体制の背景には何があるのか?
政界きっての論客が、自民党結成の源流に遡り、戦後を導いてきた自民党の正体に迫り、日本政治を解剖した画期的論考!

自民党は、1955年の自由党と民主党の保守二党の合併により生まれた。立役者は岸信介。岸が鳩山、石橋ら思想の違う指導者を「反吉田」で巻き込み、民主党を結成、自由党との合併という大きな流れをまたたく間に作り出した。その背景には米ソの冷戦激化に伴う米国の対日政策の大幅変更がある。冷戦が反共の自民党結成を促し、岸を時代の主役に押し上げた。

岸の思想ー「自民党本流」の思想ーは結党来の自民党の綱領に色濃く反映されている。しかしその後、多くの指導者を輩出し、戦後日本を主に導いてきた思想は、岸の思想ではなく、石橋湛山、鳩山一郎、吉田茂らを源流とする「保守本流」だった。'60年安保後、所得倍増を掲げ経済成長を実現した池田勇人、歴史的な日中国交回復を電撃的に果たした田中角栄を始め、大平正芳、宮沢喜一、橋本龍太郎、小渕恵三……。彼らも保守本流の思想に連なる人脈である。

1990年代の冷戦の終結は世界の構図を大きく変えた。社会党の没落が象徴するように革新政党は後退し、一方自民党も反共という歴史的使命を終えている。では歴史的使命を終えている自民党に存続意義はあるのだろうか?

2000年以降、保守本流は有力な政治家の相次ぐ死、「加藤の乱」の失敗などで指導者に恵まれなくなる。代わって復活してきたのが、自民党本流の思想。その典型が祖父の信念の実現を悲願とする安倍晋三政権の誕生である。

2017年の一瞬の「小池フィーバー」は、国民の保守本流への期待と、それが実現されないことへの失望がはっきりと出た現象だった……。

政治の危機の本質とこれからの行く末を占う。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の2人です。

note⇒https://note.mu/nonakayukihiro

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