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講談社社員 人生の1冊【70】宇宙のゴミ拾い!? 幸村誠のデビュー作『プラネテス』

プラネテス
(著:幸村 誠)
2018.06.10
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平塚敏 週刊少年マガジン編集部 20代 男

わがままで、無様な君へ

「ヘラヘラしてるトコが嫌」

誰かがそう言いました。奇遇です。僕もヘラヘラしてるヤツは嫌いです。

「自分勝手なやっちゃなぁ」

そんな声もありました。分かります。僕もそう思います。

分かってる。分かってはいるんだ──と、思い続けて生きてきました。布団を出るのが辛くて授業をサボり、誰とも会わない学生生活。飯はコンビニ。趣味はスマホを撫でること。高校を出てからの数年間、ダメな自分への苛立ちだけが鮮やかな日々でした。

ただ、そんな生活にも一つだけ誇れることがあります。それは「夢を持てたこと」です。いつからか「きっと何者かになってやろう」と、心の底から思えるようになりました。振り返れば、僕にそのきっかけをくれたのが、本書『プラネテス』だったのだと思います。

大学2年次、探検部の狭い部室の片隅に、手垢まみれの古い漫画を見つけました。背表紙には『プラネテス(2)』とだけ。初めて見る作品でしたが、表紙の絵が妙に気になり、つい手に取ってしまったことを覚えています。これが出会いです。SFなのに、どこか身近に思える舞台。透明感のあるエピソード。そして何より、生々しく怒り、苦しみ、生きるキャラクター達に、僕は一瞬で引き込まれました。

主人公のハチマキは、宇宙のゴミ(デブリ)を拾う仕事をしているサラリーマン。宇宙に憧れ、宇宙に居場所を見出した若者です。しかし、毎日デブリを拾い続けるだけの日々を過ごすうち、彼は一介の会社員には過ぎた夢を抱きます。それは「自分の船で宇宙を駆ける」こと。本書の2巻は、夢と現実の狭間であがく、無様なハチマキの物語でした。

生きてるだけならゾウリムシにだってできらァ
テキトーに食って寝てクソしてビール食らって……
…………クソッタレ!!

ときに他人の善意に苛立ち、自分の殻に引きこもる。いつも強気の言葉を並べているのに、内心不安でたまらない。ハチは当時の僕から見ても、歪で不完全な人間です。けれど、そんな彼だからこそ、夢に向かって足掻く姿は何よりカッコよく見えた。試験の前日、眠れず、歯ぎしりをし続ける弱さも。友人の優しい言葉に縋りかけ、一人愚痴を吐き散らかす醜さも。全てひっくるめて、どうしようもないくらいにカッコよく見えたんです。

わがままになるのが怖い奴に 宇宙は拓けねェさ

無様に足掻いて、自分勝手に生きる人間は素晴らしい。『プラネテス』から、僕はそんなことを教わりました。ひねくれ者でも、小心者でも関係ない。必死に夢を見ている人って、ただそれだけでカッコいいのです。だから、僕もそうなりたいと思った。僕の不安や下らない苛立ちも、ハチのように力に変えられるのかもしれない。夢さえあれば、ダメ人間なりにカッコよく生きられるんじゃないか……そう、思ったんです。

いい物語は僕らを引き込み、感化し、その先を示してくれます。どう生きるか、どうなりたいのか、大学生の僕は『プラネテス』を通して知りました。これまで数え切れない「いい物語」と出会ってきましたが、敢えて一つ選ぶとすれば、「この1冊」を勧めます。

  • 電子あり
『プラネテス』書影
著:幸村 誠

しがないデブリ(宇宙廃棄物)回収船に乗り組むハチマキは、大きな夢を持ちつつも、貧相な現実と不安定な自分に抗いきれずにいる。同僚のユーリは、喪った妻の思い出に後ろ髪を引かれ、自分の未来を探せずにいる。前世紀から続く大気の底の問題は未解決のままで、先進各国はその権勢を成層圏の外まで及ぼしている。人類はその腕を成層圏の外側にまで伸ばした。しかし、生きること──その強さも弱さも何も変わらなかった。

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執筆した社員

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講談社社員 人生の1冊

平塚敏【週刊少年マガジン編集部 20代 男】

※所属部署・年代は執筆当時のものです