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音楽世界の始まりに、ピタゴラスあり!「ドレミ…は素数の2と3を使って決めましたよ」

2018.06.11
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幼少期にピアノ、そして大人になってからクラシックギターとヴァイオリンを習った。
音楽はいい。心を落ち着かせたり、逆にテンションを上げてくれたり、人生を豊かにしてくれる無くてはならないものだ。最良の友達とも言える。

程度の差はあれ、このように音楽が好きで楽器を習ったり聴いたりするのが趣味だという人は多いと思う。

その中で、
「なんで1オクターブは12音なんだろう? 10や20ではだめなの?」
「グランドピアノやハープの形はなぜあのような曲線なのだろう?」
「ギターのフレットの長さはどうやって決まっているのだろう?」
などという疑問を持ったことはないだろうか。

本書はそんな音楽愛好家に、科学(数学と物理学)から音楽と楽器の疑問に答えてくれる「目から鱗」だらけの音楽入門書だ。

著者はなんと、高エネルギー加速器研究機構名誉教授・専門はビーム物理という、バリバリの物理学の先生。音楽を専門で学んだことはないが、趣味でジャズ演奏を楽しんでいるという。

そしてこの本、なんと10年前に発売され23回も増刷してきた人気作なのだ! 今回の新装版で一部の内容を入れ替え、全面的に記述を見直し、生まれ変わった。

「そもそもドレミって何なの?」
こんな音楽の起源に関わるような根底の話が、楽器を習っていても出てこない。すべての音楽の教科書や楽典の冒頭部にあってもいいような話が、ばっさり抜けている。

音楽の先生も教えてくれない。世界の始まりと同時に、ピアノとドレミファソラシドがあったんです、じゃあ早速弾いてみましょう♪ みたいな前提で話が始まる。

そして大人になり、ようやくブルーバックスという科学書でドレミの起源を知ることになる。不思議というかなんというか(笑)。

本書は数学や物理の知識も多少必要ではあるが、義務教育程度のレベルでもわかるようになるべく容易な表現や文字列で書かれているので安心して読んでいただきたい。


■ピタゴラスなどの先人が、より良い音の組み合わせを追求した、それが音律

早速、音を周波数で見てみよう。

ハ長調のドの白鍵: 261.62Hz
その右上の黒鍵音,ド#:277.18Hz
その右下の白鍵音,レ:293.66Hz
その右上の黒鍵音,レ#:311.12Hz

である。われわれは「半音」という高低差は均一と感じている。しかし上の数値を見ると
(略)周波数差は均一ではなく、音高とともにしだいに大きくなっている。



中央ド・ド#・レ・レ#の周波数 

隣り合う音の周波数比を計算すると(略)ドレミ…の周波数は公比約1.0594の等比数列をつくっていたのだ。
(略)このことは、音の高さに対するわれわれの感覚が「差」感覚ではなく「比」感覚であることを意味する。さらに付け加えれば、音の大小に対する感覚も比感覚であることが知られている。

なるほど、こうしてピアノのそれぞれの弦の長さも等比数列であり、美しい曲線を描いているのだ。

そしていよいよ音律の起源の話。紀元前6世紀・ギリシャ時代に、「三平方の定理」で有名なピタゴラスは数学・物理学として音楽を研究した。

ピタゴラス音律のたった1つの原則が「3倍音」である。



空き箱と輪ゴムと棒の一弦琴


図のような手作り一弦琴で、弦の長さが半分になる位置に竹串を置いて弾くと、元の音の1オクターブ上の音が出る。

次に、1/3の位置に串を置くと、最初の音(開放弦)がドとするとソの音が出る。振動数は開放弦の3倍になっている。

この3倍波と基本波を同時に聞くと心地よい。協和している。

ピタゴラス音律はこの3倍音と、2と3という素数を用い、12音からなる音律「ピタゴラス音律」を作った。


〈ピタゴラス音律のつくり方〉



らせん状で3倍することを繰り返す


その後西洋音楽の音律 は、
ピタゴラス音律→純正律→ミーントーン(中全音律)、ウェル・テンペラメント→現代の平均律(等分平均律)
と発達してきたそうだ。

ピタゴラス音律では、重なった複数の音が不協和音になることがある。これを緩和するために作られたのが純正律。

鍵盤楽器で純正律を実現させようと試みた結果がミーントーンやウェル・テンペラメント。なんとバッハの「平均律クラヴィア曲集」は平均律ではなくウェル・テンペラメントなんですって!

そしてピアノが大量生産されるようになった時期に、隣り合う音高の周波数比が均一になる平均律が普及した。

音律の歴史は、人間の音に対する心地よさ「協和度」の追求、転調という複雑な要求を満たすこと、そして鍵盤楽器の調律のしやすさなどを模索した歴史だったのだ。先人たちの努力、試行錯誤はすごい。

さあ本書はここまででまだ第3章までの内容。本の大きさに似つかわしくない、膨大な情報量だ!


■音楽をオクターブやデジタルから解放してみる

さらに
第4章 なぜドレミ…が好き?──音楽の心理と物理
第5章 コードとコード進行──和音がつくる地形を歩く
第6章 テトラコルド──自由で適当な民族音楽
第7章 楽器の個性を生かそう
と続き、最後の
第8章 音律と音階の冒険──新しい音楽を求めて
は特に知的好奇心をくすぐられた。

・12~24音平均律の試み
・16音平均律と17音平均律
・オクターブを区切りとしない音律
・アナログの音律・音階
・微分音律

著者の最後の言葉は、音楽への懐(ふところ)が深く愛に溢(あふ)れており、未来への期待で胸が高鳴る。

新しい音楽を受け入れるには、聞く側にも冒険心が必要である。心理学者アイゼンクが定義したタフマインド度は、この冒険心を持つ要素と関連が深い。タフマインド度が高い人は若い男性に多く、不協和音を好み、ロックやジャズを好む傾向があるとされる。好奇心が強く「清濁併せ呑む」太っ腹の持ち主である。演奏の技量や絶対音感の有無には無関心である。
(略)
この社会的なタフマインド度も他の一般的な現象と同様、時間的に振動するものであろう。タフマインド度が小さい時代の次には大きな時代がやってくるはずだ。著者としては、音律・音階のみならず、音楽上に思いもよらない改革が起こることを期待し、そのときにはタフマインドを持って受け入れたいと思う。

私もそう思います!

音楽の未来はどうなるのか、どのような作曲家がどのような音楽を作っていくのか……想像もできない世界にわくわくする。

音楽を愛する全ての人に読んでいただきたい音律・音階の起源の話である本書。キーボードやギターを用意して、書かれた音符を弾きながら読み進めることをおすすめします。より理解が深まることでしょう。

  • 電子あり
『音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか』書影
著:小方 厚

モーツァルトからピンク・レディーまで 名曲の陰に数学あり!

・科学の眼で見る音楽と楽器
本書は、科学(おもに数学と物理学)の眼から見える音楽と楽器のあらたな一面を紹介するものです。およそ10年前に発売され20回以上増刷してきた人気作が、新たな内容を加え、装いを新たに生まれ変わりました!

・本書の構成
第1章 ドレミ…を視る,ドレミ…に触れる
第2章 ドレミ…はピタゴラスから始まった
第3章 音律の推移──閉じない環をめぐって
第4章 なぜドレミ…が好き?──音楽の心理と物理
第5章 コードとコード進行──和音がつくる地形を歩く
第6章 テトラコルド──自由で適当な民族音楽
第7章 楽器の個性を生かそう
第8章 音律と音階の冒険──新しい音楽を求めて

・音楽と数学
音楽はドレミ……という決まった音を使います。音とは空気の振動であり、わたしたちはその振動数のちがいを音高のちがいとして聞き取ります。音楽が決まった音(周波数)を使うということは、逆に言えば、それ以外の周波数の音を使えないということです。ドとレの間に音は無限に存在する(周波数を細かく区別できれば、無限の音を扱える)のに、音楽で使えるのはド♯(あるいはレ♭)だけ……。
音楽は音をデジタル化している、とも言えます。ではそのデジタル化はどのようなルールにもとづくのでしょうか? ここに簡単な数学が登場します。ドレミ…に割り当てられた周波数を並べて数列をつくってみると、学校で習った「ある数列」が現れるのです。

・ピタゴラスのおかげ!?
音楽が使う音をデジタル化したのは、紀元前6世紀に活躍したピタゴラスでした(3平方の定理あるいはピタゴラスの定理で有名な、あの方)。彼は楽器を使って音の研究をしていました。ピタゴラスが1オクターブを構成する12音(音律)を決めた実験はシンプルで、私たちも簡単に再現することができます(方法は本書で紹介)。その実験は「心地よい和音」の理解にもつながります。
もちろん、音楽や楽器の進化とともに音律は変化をくり返してきました。しかし、根本のアイデアはピタゴラスから変わることなく生き続けています。世界のあらゆる名曲がピタゴラスのおかげで誕生したのかもしれません。

レビュアー

野本紗紀恵 イメージ
野本紗紀恵

一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。

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