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『縄文の思想』強気に世界を旅した彼らは、現代に何を遺したのか?

縄文の思想
(著:瀬川 拓郎)
2018.01.28
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現代まで残る縄文時代の風習とは

縄文時代といえば遥か昔、人々が狩猟や採集で暮らしていた時代。約1万5000年前から2300年前まで長きにわたり続いた時代ですが、縄文文化の風習を残す人々がついこの間までいたって、信じられますか?

長崎県の西彼杵半島や瀬戸内海を拠点に、船を住処としていた家船(えぶね)漁民という人々がいたのをご存知でしょうか。規制が厳しくなった昭和40年代頃まで実在していて、当時の写真や記録は多く残されています。漁をしながら物々交換で暮らしてきた彼らは独自の文化を持ち、なんと入れ墨や抜歯の風習があったそうです。

現代でもお祭りや正月料理などで、地方独自の文化を目にすることはありますよね。テレビやインターネットが普及する前は今よりも地域差が大きかったのでしょう。とはいえ、入れ墨や抜歯は聞いたことがありません。

本書『縄文の思想』の著者いわく、これが縄文時代の風習の名残りだというのです。このような、縄文時代の文化を引き継いだ人々が日本各地にいる証拠を、徹底的に集めたのが本書。文字を持たず直接の記録がない縄文時代の暮らしを、外濠から埋めていこうという試みです。


縄文文化を受け継いだ人々から探る、当時の社会

著者の瀬川拓郎氏は考古学者ですが、専門はアイヌの研究。『アイヌの世界』『アイヌ学入門』など多数の著書があります。アイヌと縄文。全く関係ないように思えますが、両者は密接な関係があるといいます。

私たちが習ってきた日本史は、縄文時代を経てから稲作を取り入れたことで弥生時代が到来したという、いわば一本の流れでした。しかし実際はそう単純ではないようです。大陸から日本列島に渡って来た人々が、元々住んでいた縄文人へ稲作を伝え混血していったのは確かなのですが、その中でも稲作を受け入れなかった人たちがいるのです。彼らは縄文の文化を受け継ぎ狩猟中心の生活を続けてきました。そのひとつが、著者が研究しているアイヌ民族。実際アイヌのDNAを調べると、縄文人の特徴を多く残しているんだそう。

アイヌって単なる北海道の先住民族だと思っていました! 私たち和人と同じルーツを持つと思うと、なんだか一気に親近感が湧いてきますね。そして本書では、アイヌのほかにも稲作を受け入れず縄文時代の生活を受け継いだ人たちが日本中にいたという説を展開しています。そんなことわかるの?と思ってしまいますが、読み進めると出てくる出てくる信憑性のある証拠が!


縄文の暮らしを引き継いだ人々が、日本中に巨大なネットワークを作り上げていた!

本書では、これまでに発掘された遺跡や、朝廷が残した記録、今も使われている地名や言語など、多方面から縄文の残り香を探っていきます。

アイヌと同じく縄文文化を引き継いだと言われているのは、沖縄の糸満漁民や南九州の隼人など、主に沿岸部の人々。彼らの言葉や周辺の地名からも、アイヌ語との共通点が見られるそう。

「引き継いだ」というと、伝統を守りそれまでと変わらぬ暮らしを続けてきたと思いがちですが、そうではありません。彼らは変わりゆく時代や周りの世界に合わせて、進化していったのです。稲作を受け入れ豊かになっていく農耕民のニーズに応えるかのように、彼らは海民として漁撈に特化し、技術を高度に進化させていきました。それまで自分たちが生きていく分には必要のなかったサメやマグロなどの大型魚や、アワビの大量採捕で農耕民と交易し、同時に外洋まで出られる技術を会得して、日本中に海上交通のネットワークを作り上げたのです!

興味深いのが彼らの移動距離。なんと弥生時代には、九州の海民が北海道の北端まで漁をしに行ったということが遺跡から判明しています。はるか昔、エンジンGPSもなかった時代に、どうやって移動したんだろう。ご先祖さま、かっこいいです。


日本各地に残る民話からわかる当時の世界観

縄文人と同じく、アイヌも文字を持ちません。しかし彼らが語り継ぐ歌や儀式に、彼らが歩んで来た道のりや暮らしを垣間見ることができます。

本書で特に力を入れて解説しているのは、日本各地に古くから伝わる伝説の共通点。西暦713年に土地の産物や地勢などを天皇に報告するためにまとめられた『風土記』には、海の神であるワニ(サメ)が川上にいる女神に会いにいくという伝説が残されていますが、不思議なことに同じモチーフの物語がアイヌの伝説にもあるそうです。さらに日本のいたるところに、同じ民話が残されていることがわかっています。それぞれを比べることで、縄文の人々の世界観や、弥生時代以降の政府の意図を想像していきます。


日本という壮大な物語を紐解く謎解きゲーム

このように、さまざまな側面から残された縄文時代のかけらを拾い集め、彼らの姿を探っていく本書。ある種の推理小説のようで、一緒に謎解きをしていく感覚で読み進めていけます。

縄文文化を引き継いだ人々は、「可能性を信じる心」が強かったという研究者の言葉があります。

私たちの中には、安定した定住生活を求める側面と、広い世界へ旅立っていきたいという側面のふたつがあるように思います。前者は弥生の定住性、後者は縄文の流動性。これまで私たちは、弥生的な安定した集団での暮らしを求めてきたように思いますが、これからは均一の価値観などなくなり、それぞれがいいと思う生き方をする時代になります。これってまさに縄文的! 

自分の可能性を信じて、未知なる世界を切り開いていくことも、案外私たちの性に合ってるのかもしれないな、なんてことを考えながら本書を開き、冷静な視点と豊かな想像力をもって展開される縄文人の暮らしを楽しむことができました。

  • 電子あり
『縄文の思想』書影
著:瀬川 拓郎

文字に残されることのなかった縄文人のリアルな思想、かれらの他界観や世界観といった生々しい観念の世界、すなわち縄文人の生き方を律した思想を、どうすれば知ることができるのか──。
本書はこの難問に、考古学と日本列島の様々な神話・伝説といった具体的な資料にもとづき、さらには海辺や北海道、南島という日本列島の周縁に生きた人びとの、弥生時代以降の歴史に光を当てることによって解答しようとする試みです。縄文は単なる失われた過去ではなく、周縁の人びとの生を律する思想として、上記の人びとのなかに脈々と生き続けてきました。その生の様式をとおして、もうひとつの日本列島人の歴史を描くことが本書の目的です。
では、なぜ周縁の人びとなのでしょうか。
かれらは弥生時代以降、縄文伝統である狩猟漁撈のほか多様な生業に特化することで農耕民との共存を実現し、その結果、縄文の習俗や思想をとどめることになったと著者は考えています。周縁の人びとの、弥生時代以降の歴史に注目しようとする理由はこの点にあります。
縄文を「思想」としてとらえようとする場合、これまでは、具体的な手がかりがほとんどないと考えられていたために、どうしても書き手の「ロマン」、思い込み先行になりがちだったのではないでしょうか。本書では、上記の画期的なアプローチにより、いままでに明らかにされることのなかった縄文の核心に迫るものです

レビュアー

保手濱歌織 イメージ
保手濱歌織
mazecoze研究所所長。時短研究家、PTA研究家。日々のあれこれをいかに「時短」するかに命を賭けるワーキングマザー。新しいPTAのあり方についても日々リサーチ中。7歳男児&2歳女児&0歳男児を育成しています。
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