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死んでも恥ずかしくない「遺品整理の心得」──現場5000件のプロに聞く

高齢者人口は、「団塊の世代」が65歳以上となった平成27(2015)年に3,387万人となり、「団塊の世代」が75歳以上となる平成37(2025)年には3,677万人に達すると見込まれている。その後も高齢者人口は増加傾向が続き、平成54(2042)年に3,935万人でピークを迎え、その後は減少に転じると推計されている。
総人口が減少する中で高齢者が増加することにより高齢化率は上昇を続け、平成48(2036)年に33.3%で3人に1人となる。平成54(2042)年以降は高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇傾向にあり、平成77(2065)年には38.4%に達して、国民の約2.6人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来すると推計されている。総人口に占める75歳以上人口の割合は、平成77(2065)年には25.5%となり、約4人に1人が75歳以上の高齢者となると推計されている。

「平成29年版高齢社会白書」の1節です。(平成という元号はまもなくかわりますが)今後50年近くに渡っても高齢化率は下がりそうもありません。

遺品整理の仕事に従事している著者がこう記しています。

遺品整理の現場では、いまの日本人、あるいは日本社会の現実に直面させられる。多くの人が「一人で死んでいく」という現実だ。(略)いわゆる「孤独死」が、いまやなんら特別な亡くなり方ではなくなっているのだ。しかもこれからは、もっと増えることが予想できる。

避けようもない高齢化社会、その中で孤独死もまた増えていくように思えます。「特殊清掃」に従事する著者は孤独死のかたの遺品整理にもあたっていました。この特殊清掃はどのような内容の仕事なのでしょうか。
「特殊清掃業(とくしゅせいそうぎょう)とは、清掃業の一形態である。一般には、Crime Scene Cleaners(事件現場清掃業)等とも呼ばれる清掃を指すことが多く、事件、事故、自殺等の変死現場や独居死、孤立死、孤独死により遺体の発見が遅れ、遺体の腐敗や腐乱によりダメージを受けた室内の原状回復や原状復旧業務を指す」(「ウィキペディア」より)

著者の仕事の内の特殊清掃にあたる業務は、全体の件数約5000件のうち、13%で650件ほどになるそうです。孤独死や自殺だけでなくゴミ屋敷や夜逃げの後始末も含まれる特殊清掃は「ある意味、現代日本の縮図」なのかもしれません。

東日本大震災から神戸に移住した男性の自死の話が載っています。その部屋を訪れた著者が見たのは「ガランとした室内」でした。そこからは少しも生活というものが感じられなかったそうです。被災地から離れて一人暮らしとはいえ、異常に少ない遺品、それらを目にして著者は、「移り住んではみたものの心の傷は癒(い)えなかったのかもしれない」とも感じたそうです。

ところで、通常だとどのくらいの廃棄物が出るかというと、「マンションの2DK、50平方メートルくらいで45リットルのゴミ袋120個分くらい、2トントラックで運ぶと3台は必要(略)3LDK、80平方メートルくらいでゴミ袋200個分くらい、2トントラック5台分以上」になるそうです。

「遺品整理の現場には、故人が生きてきたときの『生きる形』がそのまま残され」ています。大量に残された遺品はその人の生活の反映とでもいうものです。それは本人にはかけがえのない“価値”があったのでしょう。もっともどのような“価値”を秘めていても人はみな「ものを持っては逝けない」のですが。この本の後半は、こうして残された遺品を前にしてどう“片付けるか”がテーマになっています。

遺品整理に当たって重要なのは2点です。
1.これからの生活になくてはならないものかどうか。
2.生活にちょっと潤いを与えてくれるものかどうか。

1は当たり前ですが、2をどう考えるかで大きく変わります。なぜならそれが示しているのは、これからの生活のことであり、将来どのようになっていたいか、つまり「理想の自分生活」を考えることになるからです。

たとえば「趣味」というようなことがすぐに思い浮かぶかもしれません。けれど、それ以上に重要なのは残された自分の「家の中の行動原理」や「家の中の動線」を考えることです。自分はどのように生活していくのか、家の中ではどのように生活行動・動作を行っているのかを考えることが大事なのです。

残された人が遺品整理に難渋する例がこの本に収められています。最大の原因は遺品整理が「突然にやってくるため、準備ができていないことが多い」からです。であるならば、生きている内に残された者のことを考えておくことも必要でしょう。「残されてこまるもの」を増やすより、身1つで逝くしかないことを踏まえて「住空間整理」をしておくべきなのです。

この本は、こうした“心掛け”を説いたものだけではありません。遺品整理の現場で見た相続のさまざまな問題をどのように解決するかを具体的に説いています。空き家となった不動産をどのように扱うべきか、相続税はどうなるのかなど、残された遺族が直面する難しさをひとつひとつ丁寧に解説しています。

高齢化社会とは「終わりかたを考える時代」でもあります。自分の生活と将来を今一度見直すためにもどのように「住空間整理」をすればいいのか教えてくれる、極めて実践的な1冊です。

  • 電子あり
『遺品は語る 遺品整理業者が教える「独居老人600万人」「無縁死3万人」時代に必ずやっておくべきこと』書影
著:赤澤 健一

「独居老人600万人」「孤独死年間3万人」の衝撃──。
団塊世代の高齢化が進み、子どもと離れて暮らす夫婦が連れ合いを亡くして1人暮らしとなり、やがて気づかれず1人亡くなる……そんなケースも珍しいものではなくなってきています。ふるさとに1人残した親の突然の死に直面し、「もっといろいろ話しておくべきだった」と後悔する子ども世代。事後のことを託したり、たくさん伝えたいことがあったはずなのに、何もできずに逝く親世代。
 
遺品整理業をスタートさせて4年で業界トップクラスの5000件を扱ってきた株式会社リリーフと、その経営者である著者は、さまざまな現場で、そうした事例を無数に見てきました。なかでも、5000件のうち約13%が「特殊清掃」と呼ばれる、孤独死・自殺・ゴミ屋敷・夜逃げの後片付け業務。主を失った部屋には、そこで暮らしていた人物の人生、人柄、暮らしの痕跡が濃厚に残されているといいます。また、そうした遺品整理の現場にこそ、われわれ日本人が直面している本当のリスクと問題、克服すべき課題が、凝縮された形で示されているといいます。

本書では、「知られざる現場の実情」と「間違いだらけの遺品整理の実態」について紹介しながら、「その時」が来る前に「必ずやっておくべきこと」を具体的に教示します。65歳以上が総人口の25%以上、多くの人が「1人で死んでいく」時代に、もしものときに途方にくれないための「読む処方箋」!

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

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