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進学校の天才が2人の少女に手紙を遺して轢死──魅力的な謎を孕むデビュー作
(著:神宮司 いずみ)
県立東高校は、男女共学の進学校。県内では上から5番目に位置する微妙な順位のようですが、東校には全国でもトップクラスの成績を誇る3人の「天才」がいました。加藤沙耶夏、篠崎良哉、渡部純一。その3人ともが3年生。
ある日、その「天才」のひとり、篠崎良哉が死んだらしい、との噂が流れます。
轢死でした。いろんな噂があるなかで、それだけは事実だそうです。帰りの電車に飛びこんで自殺した──篠崎良哉の死は一応そのように処理されますが、彼と同じ東高3年生で文学少女の来光福音(らいこう・ふくね)の運命は、そこから奇妙なものへと変じてゆきます。
彼女の下駄箱のなかに手紙が届いていました。差出人は奇しくも、学校中でその死が騒がれている篠崎良哉。生前の彼が書き残したとおぼしき手紙に、福音が驚くのは当然です。手紙には、おおむね次のようなことが書かれていました。
突然だけど、僕はこれから電車に轢かれて死ぬことになります。どちらにしても、毒を飲まされたので、助からないでしょう。
お願いがあります。僕を殺した犯人を見つけてください。
僕は犯人の恨みを買ってしまい、追い詰められて死ぬことになりました。犯人は東高の人間です。もう一人、同じ手紙を受け取る子がいるので、彼女と一緒に捜してください。
犯人捜しを頼まれた凡人の福音は、もちろん戸惑います。その彼女とコンビを組むことになるのが、「東高三人の天才」のひとりである加藤沙耶夏。「人の心を読める女」と噂される彼女こそ、篠崎良哉から手紙を受け取ったもうひとりの人物でした。
はっきりと物を言う性格の加藤は、典型的な空気を読めない人です。引っ込み思案な福音が彼女に振り回されるのは必然ですが、そもそも福音としては、なぜ自分が謎解き役に選ばれたのか、それすらも判然としません。そんな気持ちのまま、独断専行タイプの加藤にリードされながら、天才と呼ばれた少年の死の真相に、少しずつですが近づいてゆきます。
そして、そこにいたるまでの物語には、篠崎良哉に恋をしていた少女の想いであったり、凡人の理解をはるかに超えた天才であるがゆえの孤独や、福音と加藤との心の距離が徐々に縮まってゆく様子なども、子細に描かれている。本書は魅力的な謎を備えたミステリであると同時に、等身大の少年少女たちの機微を描いた青春小説なのです。個人的には推理物としての面白さもさることながら、そうした青春小説としての一面に最も魅了されました。
ちなみに、著者の神宮司いずみさんは、本書『校舎五階の天才たち』がデビュー作です。1992年生まれのまだ若い書き手でありながら、文章にはしっとりとした落ち着きを感じさせます。ぶっ飛んだキャラクターである加藤を例外とすれば、登場人物たちの描写も抑え気味でそこがいい。僕はそうしたところにも、著者の並々ならぬ才知と魅力を感じました。それだけに気になるのは、神宮司さんの次回作です。同じく青春ミステリなのか。それとも、まったく別ジャンルに挑戦するのか。若い著者のデビュー作に出会えたことを幸福に思いつつ、今後の活躍がいまからとても楽しみです。今後ますますのご活躍、期待しています!
- 電子あり
高校3年生の来光福音のもとへ届いたのは、自殺してしまった同級生からの手紙。彼の名は篠崎良哉。「天才」と名高く、見た目も人柄も完全無欠の男の子。彼の謎めいた遺書に導かれて、福音はもう1人の「天才」──人の心が読める女・加藤沙耶夏とともに行動を開始する。
レビュアー
1983年夏生まれ。小説家志望。レビュアー。現在、文筆の活動範囲を広げようかと思案中。テレビ観戦がメインですが、サッカーが好き。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。
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