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“炎上が大好物”──日本人は絶対読むべき『目くじら社会の人間関係』

目くじら社会の人間関係
(著:佐藤 直樹)
2017.11.17
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ロケットニュース24やガジェット通信の創設者で、現在は各社サイトの盛り上げなどをしながら隠居生活をしているクドウヒロカズです。女性向けニュースサイトのポーチの創設者でもあります。いろんなサイトを立ち上げてきましたが、すべてにおいて言えることは、炎上の中で生きてきたということ。

※読者の皆さん、この記事は殺伐とした炎上をテーマに書いたものですので、掲載する画像くらいは華やかにしておきますね。まったく無関係ですけど。

炎上はマスコミにとってオイシイ

サイトではたくさんの人の炎上を報じてきましたし、自分のサイトも数えきれないほど炎上してきました。燃えたり消えたり、燃えたり消えたり、何度も燃えてきたのに灰にならず生きているのですから、ありがたいことです。(ちなみに自分で自分の炎上ネタを投下する行為をセルフバーニングといいます)

いまとなってはネガティヴな炎上は商売になりにくくなっていますが、ネットメディア創成期において炎上はポジティブでもネガティブでも商売になりましたし、他誌にはない個性と新しさを得られるので、強烈なインパクトを生みました。(炎上にはポジティヴとネガティヴの2種類があるのですがそれはまた別の機会に)

そして炎上は、私が作ってきた新規サイトの注目度アップという点において大きく寄与し、スタートダッシュすることができました。炎上を糧に生きて猛省している部分は多々ありますが、そんな炎上の中に生きてきた業の深い私が最近読んだ本があります。

表紙画像

日本では「世間」のルールに反するような行為は、正しくともバッシングされ、ブログが炎上することになる。日本独特の「世間」の支配というもの……そんな「1億総目くじら社会」を生き抜くヒント!

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そこまで怒らなくても

『目くじら社会の人間関係』(著:佐藤 直樹)を非常に興味深く読ませていただきました。そして、炎上や「炎上しやすい社会」について、ページをめくる度に頷く自分がいました。今まで言葉にしていなかったけど、炎上のメカニズムが明確に書かれていました。

この本、企業はもちろん教育現場や学生も読むべきですよ。炎上を防げるし人生変わりますよ。当記事ではこの本を読んで思い出したことを書いているのですが、やや長文になるので、だったら本を買うのが時間の節約になり手っ取り早いです。


インターネットをしていると、ブログ、ツイッター、フェイスブック、インスタグラム、mixi、あらゆる場所で炎上しているのがわかります。炎上とは「ルール違反を犯した者がインターネット上でバッシングを受ける行為」を意味する言葉。

殺人事件や強盗事件の犯人がバッシングされるのならば理解できますが、炎上原因の大半が「些細なこと」だったり「無知ゆえの」だったりします。そう、毎日のように起きている炎上は、「そこまで怒らなくても」と思えるものばかりなのです。


インターネットが多大に影響

炎上の問題点は、殺人だろうと万引きだろうと「ふざけてコンビニの冷凍庫に入って怒られた騒動」だろうと、ほぼ同じレベルで私刑が行われる点だと思っています。殺人も割り箸を鼻に突っ込むのも斬首刑! みたいなレベルです。もちろん根本的な点でいえば「どこで何をすればどうなるか理解していない本人が悪い」ということになりますが、そこまで激怒しなくてもと思うものばかり。

当たり前ですが、インターネットがない時代にも「そこまで怒らなくても」と思うくらいツッコミ好きな人はいたはずです。太古の人類誕生の時代からいたと思われます。ウホホッ!ウホウホッ!しか言ってない時代から、口うるさい人はいたはずです。しかしそんな人がいくら声を上げようと、怒りの声が届くのは狭い自分の世界のみ。自宅か、近所か、職場か、もしくは新聞の投書やマスコミへのクレーム止まり。

西暦2000年代になり、インターネットの普及により、ツッコミ好きな人が手軽に、気軽に、自分の正体を隠して怒りをぶちまけられるようになりました。


重すぎる罰

1990年代にゴミを分別せず、ペットボトルも缶も生ゴミも同じ袋に入れて燃えるゴミの日に回収所へ出したとします。その行為を誰かに見られたとしても、近所の人に怒られておしまいです。

しかし、それを2017年の現在にやった場合、近所の人に怒られるだけでは済みません。その写真をスマホで撮られ、場合によってはゴミ袋を開封され、個人情報をツイッターに掲載される可能性もあるのです。「これどう思います? ××町1丁目2番3号の〇〇さん」という言葉を添えて。

もちろん「ゴミを分別しないヤツが悪い」という考えがあるのはわかりますし、それは正しいのですが、ここで説明したいことは、そういうことではありません。ほとんどの炎上が「ちょっとしたルール違反をした者に正義の鉄拳を振りかざす行為」だと言いたいのです。

こういうことを書くと「ゴミの分別をしない行為が「ちょっとしたルール違反」だと!? ふざけるな!」と怒る人も出てくると思いますが、「ゴミを分別しなかった罰として、炎上という名の斬首刑を与えているのではないか」というのが私の持論です。重すぎる罰。この流れはとうぶん変わらないと思うので、どうすればよいとか、どうすべきとか、そんな無意味なことは言わないでおきます。


ちなみに、炎上したときは「素直に謝る」(場合によりネットでは何もしないで静観する)が正しい対応です。なぜなら、炎上には以下のような流れがあるからです。


とある炎上の流れ1

A君がバカなことをしてツイッターに写真を載せる

A君が炎上する

B君がA君を擁護する

B君もバッシングの対象となり炎上する

A君とB君のツイッターフォロワーがバッシングの対象となる

有名人C氏がA君の炎上を擁護する

有名人C氏がバッシングの対象となり大炎上する

有名人C氏の影響力によりさらにA君の炎上騒動が広まる

スーパー大炎上


とある炎上の流れ2

A君がバカなことをしてツイッターに写真を載せる

A君が炎上する

A君の炎上がマスコミにより報じられる

マスコミの影響力によりさらにA君の炎上騒動が広まる

A君の関係者にマスコミ取材の目が向く

A君の続報がマスコミにより報じられる

スーパー大炎上


炎上を生むのは無関係の他人

かつて、コンビニのアイスクリーム用の冷蔵庫に入って炎上した男性がいました。バカだと思いますし、それをインターネット上に掲載したのもバカだと思います。ハイブリッドなダブルバカです。炎上して当然です。これ、いたずらをインターネットに掲載しなかったらバレなかったかもしれないし、バレても店長に怒られて終わり。店長も本部に怒られずに済んだでしょう。炎上しなかったはずです。

つまり炎上の種火を生んだのは本人ですが、そこに燃料投下をするのは本人ではなく「私たち無関係の他人」なのです。インターネット上で「正義の鉄拳」が振りかざされた結果、生まれたものが「炎上」と考えて間違いないでしょう。

よって、もしあなたに「冷蔵庫に入ったヤツをこらしめたい」という意思がない優しい人だというなら、スルーするのがいちばんです。心で「バカなやつだな」と思って終わりでOKですので、ツイッターにあなたの心情を書き込む必要はありません。


人気作家の北条かや先生の例

しかしながら、悪意なく、ルール違反もせず、意図せず炎上してしまう人もいます。作家の北条かや先生がそのひとりで、ピュアな気持ちで悪意なくインターネット上に書き込みをしていながら、なぜか炎上してしまう人物。

今回、この記事を書くにあたり、炎上経験がある彼女と会って話をしたのですが「なぜ炎上するのか?」という非常にシンプルな質問をしてみました。

「私は炎上させようと思って書いたことは一度もあません。私を悪く言う人たちが迫ってくる気がして、怖くて、死んでお詫びをしたくなる心境に陥りました。ネットという大きなものに消されるという恐怖感がありました」(北条かや)

そして彼女は炎上を「交通事故みたいなもの」と語ります。だとすれば、彼女は交通事故に遭いすぎな気もするけれど、だからといって彼女が打たれ強くて図太い神経の持ち主だとは思いません。なぜなら、彼女は炎上により、自殺未遂に至るほど悩みまくった経験があるからです。

炎上の歴史を振り返っても、北条かや先生の例を踏まえても、罪のあるなし、悪意のあるなし、それらのステータスは炎上に一切関係ないことがわかります。自分の常識から外れているものを叩くのが炎上です。「叩く」の部分は人により解釈が大きく変化しますが。


まさに日本は目くじら社会

『目くじら社会の人間関係』にも書かれていましたが、私も同様の考えを持っています。炎上は「外国には存在しない日本独特のもの」という部分です。もちろん海外でもバッシングを受ける人はいますが、毎日のように、小さなネタから大きなネタまで、幅広く炎上しているのは日本ぐらいです。

「Aという映画がつまらない」という声に、「そうなんだ。俺は面白かった」と返答するのが海外のありがちな流れ。日本では「Aという映画がつまらない」という声に、「ふざけるな面白いだろゴルァ! ブッコロ!」という流れがあると感じます。海外では多様性を受け入れるのに対し、日本では自分と考えが違うものを敵視する流れがあると感じています。

いつ炎上してもおかしくない日本に生きているということ、自覚してない人が多すぎますね。そんな時代だからこそ『目くじら社会の人間関係』は読むべき1冊と言えるでしょう。炎上しまくった私だからこそ推奨します。

  • 電子あり
『目くじら社会の人間関係』書影
著:佐藤 直樹

ここのところ、訳の分からないバッシングが止まらない。
2016年4月の熊本地震のときは、ネット上で「不謹慎刈り」と呼ばれる一連のバッシングが起きた。タレントの紗栄子さんが義援金を寄付したことをインスタグラムで公表したところ、それがネットで批判された。寄付したことが批判されるなど、海外だったら考えられない。
このように近年、インターネットが普及した日本では、誰しもネットに容易にアクセスできるようになり、「一億総目くじら社会」になっている。いったいなぜ、こうなるのか?
それは、日本ではどんなところでも、津々浦々にわたって「世間」が支配しているからである。「世間」のルールに反するような行為は、仮にそれが正しいことであっても批判を受け、バッシングされ、ブログが炎上することになる。
この「世間」は、外国には存在しない日本独特のもの──「1億総目くじら社会」を軽々と生き抜くヒントを!

レビュアー

クドウヒロカズ

ガジェット通信、ロケットニュース24、女子向けサイトPouch等の初代編集長兼創設者。旅とグルメジャーナリスト。Twitterは意見を交わすには不向きな媒体なので議論しない派。ご飯大好き。旅行好き。

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