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【寺と仏像のカルテ】五木寛之『百寺巡礼』で京都は10倍楽しくなる!

百寺巡礼 第三巻 京都
(著:五木 寛之)
2017.11.12
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紅葉や桜の季節が近づくと、本屋に必ず並ぶのが京都のガイドブック。正直、どれもこれも似たり寄ったりで、グルメや街歩きは詳しく書いてあるけれど、お寺については表面的なことしか書かれていないものがほとんどです。

実は私は、仕事で3年ほど京都に通っていたので、100近いお寺を巡ったのですが、もっと深くお寺や歴史や仏教のことが知りたいと思ったときに出会ったのが『百寺巡礼』でした。

著者は、仏教に造詣が深く、京都に5年ほど住んだことがあるという五木寛之氏。第1巻から第10巻まで、全国各地の100ヵ所のお寺の話が載っていて、京都は第3巻と第9巻になります。

この2巻の中から、私が特にオススメするのは、京都御所と同志社大学の目と鼻の先にある「相国寺(しょうこくじ)」。ここは、臨済宗相国寺派の大本山で、建立は室町幕府3代将軍、足利義満。義満といえば、金閣寺を作った人として有名ですが、金閣寺や銀閣寺(足利義政建立)は、相国寺の末寺(従属する寺のこと)にあたるのです。

そして相国寺は、京都五山の中でも、天龍寺に次いで2番目に列せられる名刹。

京都五山とは、臨済宗の五大寺のことで、南禅寺、天龍寺、建仁寺、東福寺、万寿寺、そして相国寺。あれ?五山なのに6寺もあるじゃないかと思いますよね。実は、すでにあった五山に、なんとか自分が建てた相国寺を加えたいと思った義満は、南禅寺を五山より上の別格扱いとし、相国寺を強引に入れてしまったのです。

いやはや、時の権力者というのは、こんな強引なことまでするのだなと思ったのですが、それだけの権力が義満にあったという証しでもあるわけです。

これらをこの本で初めて知った私は、俄然、相国寺に行きたくなり、紅葉の季節に訪れたことがあります。市内は、どこもかしこも観光客でごった返していましたが、相国寺ですれ違った観光客は、わずかに3人。確かに4万坪という広大な敷地ではあるのですが、京都のど真ん中で、これはあり得ない少なさです。お陰で、紅葉が美しい静かなお庭を独り占めすることができました。

また、豊臣秀吉の息子、秀頼が寄進した法堂(はっとう)には、天井に描かれた龍の下で手を叩くと龍が鳴く「鳴き龍」もあり、人がいないせいかよく聞こえました。

もう一つ、オススメしたいお寺は、浄土宗の総本山・知恩院。ここは徳川家康の手で整備された徳川家の菩提寺であり、映画『ラストサムライ』のロケ地、物理学者アインシュタインが自ら鐘の下に立って実験をしたというエピソードもこの本で初めて知りました。

その知恩院の入口で大きな存在感を示す三門は、現存する木造三門の中で、東福寺とならんで日本最大級。普段は非公開なのですが、三門の上層部に上り、極彩色の天井画と壁画に囲まれた空間で、釈迦如来像とずらりと並ぶ十六羅漢像を見たときは、神聖でありながらも怖さが入り交じった不思議な感覚になったことを覚えています。もしかしたら、この三門を建てた大工の棟梁と妻が(完成後)に自害した悲劇が、そうさせたのかもしれません。

鎌倉仏教(浄土宗、浄土真宗、日蓮宗、時宗、曹洞宗、臨済宗)の中でも、南無阿弥陀仏と念仏を唱えれば誰でも救われると説き、庶民に人気があった浄土宗。その開祖である法然の生い立ちや数々の苦行、のちに浄土真宗の開祖となる親鸞と、どのようにかかわっていたのかもわかりやすく書いてあります。

庶民に人気のあった浄土宗に対し、公家や上級武士に人気だったという臨済宗。試験に出るから仕方なく覚えた鎌倉仏教が、ぐんと身近になり、いつまでも印象に残る旅になること請負です。

また、「そうだ京都、行こう。」で有名なCMの今年の顔は、世界遺産でもある東寺。ここの一番の見所は、21尊の仏像が並ぶ「立体曼荼羅」。他では見ることができない、そのスケール感に圧倒され、私も何度も訪れたことがある大好きなお寺です。

「立体曼荼羅」は、空海(弘法大師)が密教の世界感を人々に教えるために作ったもので、大日如来を囲むように様々な如来がいて、優しいお顔の菩薩群、怖い形相の明王群が左右に配置されています。

如来は、悟りを開いているので蓮華の上に安置され、菩薩は道に迷っている私たちを導いてくれる存在。明王は叱りつけながら正しい道に連れて行こうとする役割があるそうです。そして、これらの仏を外敵から守るために六守護神が配置されています。

ほんの少しの知識があるだけで、見えてくるものも変わるのです。これだけの仏像群を見て、ただ凄いなぁだけでは、せっかく京都まで行ったのにもったいない。

最後に、紅葉の名所として名高い「永観堂」。正式名称は「禅林寺」なのに、なぜ永観堂と呼ばれ、親しまれているのかもこの本で知ることができます。

ただしここは、南禅寺も近く、ライトアップもあるので非常に混みます。バスもぎゅうぎゅう詰めで、なかなか進まないことを覚悟して行ってください。

自分が訪れるお寺の章を読むだけでも、今までとまったく違う京都を味わうことができます。ありきたりの京都に飽きてしまった人に是非、手に取って欲しい本です。

  • 電子あり
『百寺巡礼 第三巻 京都』書影
著:五木 寛之

五木寛之の『百寺巡礼』全巻完全刊行!
第3巻 京都1 奥深き古都へ、さあ行こう!

永遠の古都でありつつ、最も前衛的な都市でもある京都。権力者の欲と孤独を伝える金閣寺、懐深き南禅寺。「いのちの物語」をイメージさせる、浄瑠璃寺。あまりに有名な清水寺が教える、日本の寛容さ……。法然上人の教えを奉じ、親鸞聖人に勇気づけられる。知らなかったこの街のふしぎな魅力!

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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