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終戦間際の上海、アンニュイな不倫。二人の悩みが壮大すぎる件。
(著:堀田 善衞 解説:川西 政明)
明治以来の日本文学のテーマに多かった「私」の問題は、第二次大戦が近づくにつれ重みを失っていき、終戦でいったん吹き飛んだ、そんな風に思ってました。が、大きな時代の転換と拡張し続ける世界に、人は必死でくらいつきつうろたえつつ、従来の苦悩もかつてと同じ重みでかかえ込んでいたのかなと。ただ時間とキャパは生身の人間において変わらないので、向きあえないまま状況の変化に流されていったのかなと。(カラスヤ)
敗戦時、混乱を極めた上海を舞台に、時代に翻弄され、組織の非情なメカニズムにとらえられていく人間の姿を、著者自らの体験をもとに描破した「歯車」、教会的権威と民衆の知との対立を追った「メノッキオの話」、宗教的熱狂の意味を問う「至福千年」など、小説5篇に初期詩篇を併録。歴史の中で自らの運命を背負いながら生きる個人を見つめ、戦後文学に新局面を切り拓いた堀田善衛の核心に迫る。
レビュアー
1973年生まれ。漫画家。著作に『カラスヤサトシ』『カラスヤサトシのおしゃれ歌留多』『強風記』『喪男の社会学入門』『毎日カラスヤサトシ』『オレは子を見て育とうと思う』『カラスヤサトシの世界スパイス紀行』『おとろし』『カラスヤサトシの孫子まるわかり』『カラスヤサトシの戦国散歩』など多数。近刊にこの連載「文庫で100年散歩」を収録した『カラスヤサトシの日本文学紀行』があります。
近況:前回からこの漫画、さりげなく海外へ飛び出しております。
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