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米中露、大国の暴走には「原理」がある。トランプもあれで範囲内なのか?
(著:渡部 恒雄/近藤 大介/小泉 悠)
北朝鮮の核武装をめぐる緊張状態がとまりません。あいもかわらず圧力を重視し「異次元の制裁」まで主張する日本。その一方、軍事オプションをちらつかせながらも対話・外交も手放さないアメリカ。武力制裁を不可として外交・対話を主張するロシアと中国。この北朝鮮問題でこれら「米・中・露」の「三帝国」が現在の国際状況の動向に強い影響力を行使していることがはっきりと示されました。
この本はこれらの「三帝国」の行動原理を分析したアクチュアルな鼎談です。
この3国の指導者で一番不確定要素が多いと思われるのがトランプです。というのは、トランプには予想しにくさがあり、行動原理というよりも感情的とも思えるような振る舞いが多いからです。その上スタッフの入れ替わりが激しく、いまだ全スタッフがそろってはいません。このトランプのアメリカをどうとらえればいいのでしょうか。
──最近よく言われるのは、どうやらトランプという人は、自分自身が最初に決めた設定に戻ってきてしまう人らしい、ということです。たまに、気まぐれのように普段と違ったことをやってみたりもするのだけれど、気がつくと結局は、最初に考えた“初期設定”に戻っている。──
“初期設定”とは「ロシアとの関係を改善する。イスラム国をロシアと連携して壊滅させる!」というものだそうですが、ロシアゲートはこの“初期設定”に大きなダメージを与えています。また国内向けの公約もなかなか実行できず、こちらのほうの“初期設定”もこの先不明な要素が多いようです。
発言や振る舞い方を見ていると、トランプは事象ごとに損得勘定をはかっているように思えます。国際関係でも多国間関係で見ているというより、個々の国との関係で判断しているように思えるのです。これもトランプのいうアメリカ・ファーストのあらわれでしょうか。TPPよりFTAというような選択はその一例です。全体を見ないということから、経済制裁を解いていないロシアに北朝鮮への経済制裁を要求し、プーチンに一蹴されてしまうようなちぐはぐさ、相手につけ込まれることまで起こっています。やはりビジネス感覚が強く個別の事態への判断が優先しているということなのでしょうか。
トランプのわかりにくさをこの本では「鳩山由紀夫に似ている」と評したエピソードが紹介されています。表面的な言動ではなく、意図のはかりがたさからそう評されるのでしょうか。
もっともアメリカは少し前まで絶対の覇権国家として世界に君臨していました。その頃は単に軍事的優位ということだけでなく、文化的にも、さらにはアメリカ型民主主義という理念の優勢を誇ってもいました。アメリカン・スタンダードがそのままグローバル・スタンダードとして主張されていました。いまでもその傾向はあるのではないでしょうか。そんなアメリカン・スタンダードの押しつけがフセイン後のイラクに混乱をもたらしているようにも思えます。
アメリカが“孤高的”あるいは唯我独尊的になりがちなのは国土の特徴や歴史からもきています。真珠湾と9・11以外は本土を戦禍にあわなかった国家の優位性、あるいは時折顔を出すいわゆるモンロー主義、アメリカの大国意識にはこれらが混じり合っているように思えます。中国・ロシアとは違った国家意識があります。その違いはこれはこの本で指摘されている「国境感覚」からもうかがうことができます。
──大陸の人たちにとっての国境線ってリニア、直線ではないんじゃないかと。つまり、国境をグラデーションのように考えている節がある。──
つまり中国・ロシアのような国家では国境というより「勢力圏」が重要な問題になります。「勢力圏」は国境のように固定化できるものでも、隣国との“調整”で決まるものではありません。膨張の意思があるうちは「勢力圏」は拡大しうるのです。
──そもそもロシアは今のような国家になる過程で、ネイションステートになった経験がないですよね。ロマノフ王朝を倒してできたソ連も基本的にはロシア帝国を受け継ぐ存在で、国民国家とは言えない。──
国民国家の定義はさまざまあるとは思いますが、国境でその国の法的拘束力が制限されるようなヨーロッパ・アメリカ型の国家とはロシア、中国は異なっています。これは国家の主権の考え方に特殊な見方をもたらしています。
たとえば、かつて中国は漢字の意味を解する地域を版図と考えていました。ここにうかがえるのは近代国民国家の国境意識とは異なっています。勢力圏の意識であり、「国境はグラデーション」となっているのです。ロシアでも古くから南下志向があり、それを強固な国家意思としてきました。
この国境・国家観は大国(志向)至上主義ともいえます。つまりは覇権主義です。
──ロシアに言わせれば、他の大国に依存している国は「半主権国家」なんですよ。だからロシア的な意味での主権国家って、世界に10ヵ国ぐらいしかないんです。──
その伝でいえば日本は「半主権国家」です。これが現代の“(大陸)帝国”の意識なのです。この意識は中国も持っているようです。
強大な軍事力・経済力を持つ3国、ちなみに軍事力評価では1位アメリカ、2位ロシア、3位中国、日本は7位、北朝鮮は23位だそうです。一説では日本を4位としているレポートもあるそうですが。
世界のすべてがこの3国の絶対的な支配下にあるわけではありません。しかし最大の影響力を行使できる国家であることは間違いありません。この本はその強大な力の背後になにがあるのか、また言論統制に代表される国内治安の維持をどのように行っているのかという分析から、経済の実態までを語り尽くしたものです。この3国にヨーロッパ、日本はどのように対峙すべきかを語り合った、アクチュアルな本です。
この本では鼎談だけにさまざまなテーマが語られています。安保法制の問題、台湾との統一(併合)の意思を捨てない習近平、その中国では国内治安維持の公安予算が国防費より多いということなど驚くべきことも多く語られています。「三帝国の『新・三国史(志?)』」にいたずらに捲き込まれず進むにはどうすべきか、たくさんのヒントにあふれています。世界を掴むためには必読です。
- 電子あり
これが大国の暴走原理だ!
▲自国の権益を守るためなら何でもやるし、何をしてもいい
▲「民主主義」「人道主義」のような価値観はかえって邪魔だ
▲国境は曖昧にしておきたい(国境外にも自国の影響力を及ぼしたいから)
▲他の大国に依存しているような国は「主権国家」ではない
世界を大混乱に陥れる米中露「三帝国」の暴走原理を、日本を代表する「米中露」分析のプロが徹底的に読み解く、新しい国際情勢分析書。
「最近、アメリカとか中国とかロシアみたいな、いわゆる『世界の大国』が、やたらと好き勝手なことばっかりしているように見えませんか? 南沙諸島や尖閣で示威活動を繰り返す習近平の中国。クリミア併合後も周辺国に対して威圧感を高めるプーチンのロシア。そして『アメリカ・ファースト』を唱え、従来の秩序や政治を真っ向から否定するトランプのアメリカ。世界を大混乱に陥れる(ように映る)これら、現代の三大帝国が暴走するその原理を解き明かすような本をいつか作りたいと思っていました」(担当編集者談)。
本書で論じられるトピック
■ホワイトハウスで起きている3派の対立
■トランプが北朝鮮危機を煽る理由
■ロシアが得意とする「弱者の戦略」
■米中露三国による「新ヤルタ体制」
■習近平政権は「中国のネオコン」
■「文明の衝突」から「文明の併存」へ
■オルタナ右翼とデタラメ・ニュース
■帝国主義国家における「主権」の定義
■実はかなりヤバいロシア経済
■台湾が「ディール」される日
■「G0(ジーゼロ)」の世界、または「B3(ブロックスリー)」の世界へ
■中国に襲われない日本をつくる
■トランプの「ガスライティング」に惑わされるな
ほか
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
note
https://note.mu/nonakayukihiro
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