今日のおすすめ

オウムサリン事件には「語られぬ真実」があった。元警視庁公安部が小説で明かす!

カルマ真仙教事件(上)
(著:濱嘉之)
2017.07.01
  • facebook
  • twitter
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます

“当事者”が描いた「地下鉄サリン事件」

1990年代初頭、ソビエト連邦解体にともなう冷戦の終結を受けて、アメリカでは、新しい世界の脅威について、分析を行っていたそうです。

導き出された結論は、今後は国と国ではなく「非対称の脅威」が台頭する。つまり、ある集団と国といった新しい形の争いが起きる。そして「その主要な攻撃手段は、大量破壊兵器を用いた、奇襲的なものになるだろう」と予測されていました。

その分析は1995年3月20日に、極東で実現します。舞台は意外にも、平和憲法を持つ国、日本でした。オウム真理教による「地下鉄サリン事件」です。

世界初の、都市への大量破壊兵器を用いたテロ攻撃。実行したのは宗教団体。この事件は、世界の危機管理分野で「ウェイクアップコール」と呼ばれた。新たなる危機に対して警鐘を鳴らした、世界史的な事件でした。

元警視庁公安部出身という、異色の経歴を持つ作家、濱嘉之氏の、3巻からなる作品『カルマ真仙教事件』は、このテロ事件をモデルとした小説です。いや「モデルとした」という表現は不適切。この小説は実際に、内閣官房情報調査室や公安部など情報のプロとして、いわば当事者として現場にいた著者が、「あの時、本当はなにがあったのか」を描く作品です。

読み始めてすぐに、この物語が持つ視点、公安という、今までどんな作品でも見たことのないリアルな視点に「これが真実だったのか」と驚かれると思います。


警察組織は早くから追っていた!?

主人公は、鷹田正一郎。もとは機動隊分隊長の出身ですが、その能力を見込まれ、公安部に異動。内閣情報調査室へ出向し、そしてさらに警備警察の中枢へと入っていく。彼が見込まれた能力とは「情報」。自身でも天職と感じるほど向いていた仕事が「情報」でした。

ノンキャリアですが、もともと法学部法律科出身。しかも情報のプロというと、怜悧で冷徹な人間を想像するかもしれません。しかし彼は、一面では、とても日本の警察官らしい情緒を持った人物でもあります。反社会勢力の大物に直接連絡をつけ、折り目正しく振る舞うこともできれば、兄貴肌の豪傑に気に入られて、兄弟分の契を交わしたりするような面もある。緻密な情報分析力と、大物政治家とパイプを築く人間力を併せ持つ人物です。

そうした彼が、一般の警察官にさえも知られざる公安の中枢に引き寄せられ、託された任務は、カルマ真仙教。阿佐川光照という人物を教祖とするこの団体について、情報を探ること。我々には急に見えた捜査の展開も、実はかなり初期から警備警察の間では、注意が払われていたのです。

著者の濱氏は、警察内部の人間が読んだときに「これはないよ」と思われぬように、組織のディティールは絶対に崩さない、と心がけているそうです。心の動きのひとつひとつや、組織の実態など、そのディティールは、警察外部の我々が読んでもとんでもなく面白い。


あの事件にはまだまだ謎がある

しかし本書の魅力は、さらに豊かです。鷹田の魅力が、優秀な公安の情報マンという面だけではなく、その人間力にあるように、本書の面白さもまた、圧倒的な公安警察の「情報」だけではなく、さらに深い。 

登場人物の名前は変えられていますが、誰を指しているのかはっきりとわかる。警察官たちが配慮する、警察官僚出身の大物政治家についてもしっかりと語られますし、当時の政界実力者の知られざる顔も明らかになります。しかし、それは単なる裏情報ではない。伝わってくるのは鷹田を通して語られる著者の「歴史観」です。

あの事件には、いまだ語られざる謎がある。なぜ数年であそこまで急成長できたのか? 資金源はどこにあったのか? ロシアとのコネクションをどうやって築いたのか? そして、政界とのつながりの謎。
 
この小説で、どこまでが明らかにされるのか。警察がどこまでつかんで“いた”のか。あるいは“いる”のか。これほど次巻の発売が待ち遠しい小説はなかなかないはずです。あの事件の時代を生きた人には、特にお勧めです。

アメリカが、これからの世界の脅威を「テロだ」と予測していた経緯は、我々に、ふたつのヴィジョンを同時に与えてくれます。

ひとつは、国というものの危機管理にかける真剣さ。そしてもうひとつは、その限界。アメリカは、'90年代からテロを予測し、研究していながら、2001年9月11日に本土への同時多発攻撃を受けてしまう。

日本においても、テロが実行されてしまいました。しかし、無為無策だったわけではない。警察官たちは、懸命に事件を追っていた。使命と、法治国家として大切な制限の間で捜査に没頭する人々。その姿からは、これからの時代、大切になる教訓が、きっとある。上巻を読み終えて、そう感じます。

濱嘉之「カルマ真仙教事件」特設ページはこちら⇒http://kodanshabunko.com/karman-incident/

  • 電子あり
『カルマ真仙教事件(上)』書影
著:濱嘉之

★事実と物語が融合した注目作★
公安は、防げなかった。
平成最悪のテロ事件を。

元警視庁公安部の著者が自らの捜査経験をもとに、平成の世を震撼させた最悪のテロ事件を警察視点で描く!

警視庁公安部OBの鷹田正一郎は絶句した。カルマ真仙教元信者の死刑囚が、秘かに5億円もの金を残していたらしい。その大金は、とある貸金庫に眠っているという。死刑囚とは誰なのか。それは教団の隠し財産なのか。
20年の時を経て、鷹田は孤独な捜査を開始する。平成が終わろうとする今、あの忌々しい事件の記憶を紐解き、カルマ真仙教と向き合う時が、再び来たのだ。

平成を生きる同時代人としてページをめくれば、きっと誰しも何かを思い、何かを感じる小説だと思います。ぜひお手に取ってみてください。(編集部)

レビュアー

堀田純司

作家。1969年、大阪府生まれ。主な著書に〝中年の青春小説〟『オッサンフォー』、 現代と対峙するクリエーターに取材した『「メジャー」を生み出す マーケティングを超えるクリエーター』などがある。また『ガンダムUC(ユニコーン)証言集』では編著も手がける。「作家が自分たちで作る電子書籍」『AiR』の編集人。近刊は前ヴァージョンから大幅に改訂した『僕とツンデレとハイデガー ヴェルシオン・アドレサンス』。ただ今、講談社文庫より絶賛発売中。

  • facebook
  • twitter
  • 自分メモ
自分メモ
気になった本やコミックの情報を自分に送れます