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講談社社員 人生の1冊【25】『本を読む本』読書体験は、澱のようになって君を作っていくのだよ

本を読む本
(著:M.J.アドラ-/C.V.ド-レン 訳:外山滋比古/槇未知子)
2017.06.25
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神垣勇 デジタル第一営業部 20代 男

読んだことを全く忘れていた、そんな本との再会。

先日、7年前に貸した本が返ってきた。

アドラー&ドレーン著『本を読む本』──貸したことどころか、このような本を読んだことさえ忘れていた。その元級友によれば、高校を卒業する直前に貸していたそうである。奥付には2008年の第33刷とあるから、おそらく高校生の私が読んだのだろう。アカデミックな風格のある<講談社学術文庫>を、たぶん駅前のあの書店で、背伸びして買った。それから得意気に、全く読書をしない同級生に貸した。そんな時代を想像しておもしろくなり、再読してみる。そして驚いた。

私は、この本から相当の影響を受けている。

本書は、いわゆる「文章読本」の一種である。いかに本を“良く”読むか? ただ単に文字を追う読書から、著者の意図を理解する読書、そしてその思惑を超え自らが考えていく読書へ──。読書の習熟度を4つ(初級読書・点検読書・分析読書・シントピカル読書)に分けながら、丁寧に教え諭してくれる。アメリカで1940年に刊行されてから、各国で読み継がれてきた1冊だ。

影響を受けたことを思い知ったのは、「本を自分のものにするには」という章である。

著者の重要な主張に線を引け。
キーワードに丸をつけろ。
読んでいて感じたことを、全て書き留めろ。

この本は、そうした「書きこみ」を「知的所有」と呼び推奨する。高校生の私は(素直だったのだろう)、この章から「書きこみ」を始めていた。今の私の読書法そのままだ。いつどの本から始めたのかと思っていたが、その原点が突如として現れたのである。

読んだ本の存在を忘れるほど忘れっぽい私ではあるが、今の私とはこうした本たちによって作られているのだと実感する。「書きこみ」という行為だけではなく、きっとものの見方や考え方も。もしかしたら影響どころではなく、本とのこうした関わりこそが私自身なのかもしれない。思えば、ESで語った読書論は、この本の主張そのままではないか。

人生は短い。どんな読書家でも生涯に読める本はせいぜい数万冊だろう。だからこそ1冊1冊を大切に読まなければならない──この本のメッセージは、おそらくこうである。そして(僭越ながら)私の経験を付け加えて、「忘れても良いんだ」とも読み解きたい。読書体験は、澱(おり)のようになって君を作っていくのだよ、と。

そんなことを考える再会だった。

忘れずに、ちゃんと本を返してくれた友人に感謝したい。

『本を読む本』書影
著:M.J.アドラ-/C.V.ド-レン 訳:外山滋比古/槇未知子

本書は、1940年米国で刊行されて以来、世界各国で翻訳され読みつがれてきた。読むに値する良書とは何か、読書の本来の意味とは何かを考え、知的かつ実際的な読書の技術をわかりやすく解説している。初級読書に始まり、点検読書や分析読書をへて、最終レベルにいたるまでの具体的な方法を示し、読者を積極的な読書へと導く。単なる読書技術にとどまることなく、自らを高めるための最高の手引書。

執筆した社員

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講談社社員 人生の1冊

神垣勇【デジタル第一営業部 20代 男】