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“他人を見下す人間”が見つかる! 「仮想的有能感」をチェックせよ

他人を見下す若者たち
(著:速水敏彦)
2017.06.14
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まず次の11の質問項目で自己採点してみてください。
1.自分の周りには気のきかない人が多い。
2.他の人の仕事を見ていると、手際が悪いと感じる。
3.話し合いの場で、無意味な発言をする人が多い。
4.知識や教養がないのに偉そうにしている人が多い。
5.他の人に対して、なぜこんな簡単なことがわからないのだろうと感じる。
6.自分の代わりに大切な役目をまかせられるような有能な人は、私の周りに少ない。
7.他の人を見ていて「ダメな人だ」と思うことが多い。
8.私の意見が聞き入れてもらえなかった時、相手の理解力が足りないと感じる。
9.今の日本を動かしている人の多くは、たいした人間ではない。
10.世の中には、努力しなくても偉くなる人が少なくない。
11.世の中には常識のない人が多すぎる。

それぞれを次の5段階で評価して加算します。
全く思わない:1点  
あまり思わない:2点
どちらともいえない:3点
ときどき思う:4点 
よく思う:5点

これはこの本の重要概念である「仮想的有能感」を示す設問です。総合得点が高いほどこの「仮想的有能感」を持っていることになります。

「仮想的有能感」とはどのようなものかというと……
──自己肯定感の中には特に他者軽視を通して生じる偽りのプライドがある。これを「仮想的有能感」と呼ぶことにする。(略)過去の実績や経験に基づくことなく、他者の能力を低く見積もることに伴って生じる本物でない有能感という意味で、「仮想的」有能感と名づけた。──

このような「仮想的有能感」が生まれてきたのには「産業構造の変化や厳しい現実」に直面し、「夢の喪失」「自信の喪失」というものがあります。その一方で「自由な社会の中で自我を膨張させている」ということがあります。「この矛盾が、仮想的有能感形成のメカニズムに寄与」していると考えられます。

この仮想的有能感がもたらしたものが「他者軽視」であり、「他人を見下す」人間を生んでいるのです。

──現実には有能とは認められないにもかかわらず、失敗の原因などを自分以外の要因に帰しやすい。また、他者の失敗には敏感で、その機会を捉えて、相手を批判することを通して自分の有能さを回復させたり、誇示しようとする。──
仮想的有能感を持つ人には、本質的に自己中心的であり「自分のことにだけは関心が強いが、他人のことには関心が薄い」という「共感性のなさ」がみられます。

彼らは自分の身近なことや、直接自己評価に関係してくることには敏感で、激しく感情的に反応しますが、それ以外のことには無関心です。そこには「悲しみ」に共感できない心性があるのです。「外国での悲惨な内戦が報じられても、遠い国の出来事として眺めるだけ」なのです。「共感力」のなさは、「自分に関係がないと思われる人たちの気持ちや感情を推し量ろうとする構えすらない」のです。

彼らは自分のプライド、それも根拠の薄いものを守ろうとして、他者へ攻撃的な視線・行動を向けます。それは、経験に裏打ちされた「自尊感情」とは似て非なるものです。自尊というよりも、根拠のない自己至上というほうが似つかわしいかもしれません。

この「仮想的有能感」は自分の中(内面や経験)に根拠のないぶん、余計に他者や自己以外のもの(他の人の判断・評価)をその根拠にしがちになります。他者のモノマネ、追従、そして権威、権力への依拠といったものです。自らの中に根拠がない分、その“空虚・空疎さ”を埋めようとして貪欲ですらあります。彼らは「周りと望ましい人間関係が形成されておらず、他者にたいしても共感的でない」といえるのです。

これはなんのための心理的メカニズムなのでしょうか。それは「何よりも自分が弱い存在だと思われたくない」ということであり、その行き着く先が「大衆への蔑視」「自分以外はバカ」という心性です。

「仮想的有能感」に陥らないために大事なのは、経験等に裏打ちされた「自尊感情」を育むことです。

では競争社会に対してある種の異を唱えた“オンリーワン”という考え方はどうでしょうか。「自尊感情」といえるのでしょうか。

──ナンバーワンではなく、「オンリーワンになればいい」という考えがありますが、これも本当の意味で個性的で特別な人がどれほどいるでしょうか。最近の保護者は、自分の子どもにオンリーワンになってほしいと期待しがちですが、子どもはそれを重く受けとめるはずです。しかし、オンリーワンになることも簡単ではない。そして結局は、他者の個性を自分のそれより下に見ることで、自分は特別だと考えることにつながってしまうのです。オンリーワンは、ともすると競争社会を解決するキーワードとして捉えられがちですが、実は自尊感情を高めにくいという落とし穴があることも知っておきたいものです。──(速水敏彦氏インタビュー『「他人を見下す若者」の増加と、家庭教育でできること -子どもの自尊感情を高める働きかけが求められている-』よりhttp://berd.benesse.jp/berd/berd2010/feature/feature04/hayamizu_01.html

重要なのは「自分は必要とされていると感じること」です。
──自尊感情は経験によって高められていくものです。学業やスポーツなど、子どもに何か優秀な点がある場合は、そこで経験を積むことで自然と自尊感情は高まります。しかし、大半の子どもは学業やスポーツで優秀な成績をとれるわけではありません。私は「自分が他人のために役立っている」という感覚を培っていくことを提案したいと思います。──(同上インタビューより)

これは「自分は大事にされているというメッセージを他者から受け取る」ことであり、これが「自分が他者のために何かをすることで認められる→このことで、自分も他者も大切であるという感覚」が身についていきます。

このような「他人を見下す」風潮に対して私たちがすべきことはなんなのでしょうか。それは「共感力」を高めることです。「相互に個人間の本当の感情を交流できる場」を作ることです。
──人間相互の感情のぬくもり、人間間の体温そのものが、いやなことについてすぐに吐き出すようなかたちで怒るのでなく、しっかりと心の奥で悲しみとして受けとめることができる厳選である。そして、その体温は何よりも生きる意欲に繋がるのである。──

ヘイトやSNS上でのネトウヨに象徴されるような排他的な思考はなかなかなくなることはありません。けれどそこにみられる「仮想的有能感」は彼らだけではありません。いたるところにみられます。

この本が書かれてから10年の年月が経ちました。この本で対象となった青年は、今では成人として活躍している年代です。そしてそれをみると、けれど速水さんの指摘の重要性は少しも色あせていないことに気がつきます。良書の生命力の強さを感じさせるものです。

  • 電子あり
『他人を見下す若者たち』書影
著:速水敏彦

「自分以外はバカ」の時代!
●自分に甘く、他人に厳しい
●すぐにいらつき、キレる
●「悪い」と思っても謝らない
●泣けるドラマや小説は大好き
●無気力、鬱になりやすい
若者の感情とやる気が変化している!

現代人は自分の体面を保つために、周囲の見知らぬ他者の能力や実力を、いとも簡単に否定する。世間の連中はつまらない奴らだ、とるに足らぬ奴らだという感覚を、いつのまにか自分の身に染み込ませているように思われる。……このように若者を中心として、現代人の多くが他者を否定したり軽視することで、無意識的に自分の価値や能力を保持したり、高めようとしている──<本文より>

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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