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講談社社員 人生の1冊【12】伊集院静ができたわけ『お父やんとオジさん』
鈴木哲 取締役 50代 男
伊集院静ができたわけ
伊集院静さんの『大人の流儀』が売れてます。週刊現代の人気コラムをまとめたものですが、大人の振る舞い、大人の生き方がわかる本ですね。何より、目線の位置が優しい。反骨とか、弱者への優しさであるとか、ことさらに言うわけじゃないんだなあ。普通の伊集院さん、いつもどおりの伊集院さんがいて、それが読者の皆さんに伝わっているんだと思います。
で、どうしてこんな人が出来たんだろう、と考えると、1冊の本が浮かびます。『お父やんとオジさん』。去年の6月に講談社から刊行されました。実話です、たぶん。ただ、凄すぎて信じられない。
朝鮮戦争のさなか、戦場に取り残された妻の弟を救出するため、伊集院さんのお父やん=宗次郎は単身、故国朝鮮半島に渡ります。もちろん、改造船で海を渡り、半島の山中をさまよう逃避行は実話そのものではなく、小説なのですが、結果を考えると、宗次郎はこう行動したとしか考えられないんだ、と伊集院さんは語っていました。読後の感想は、ほんとにこんな男がいたのかよ、ほんとかよ、と言葉を失ってしまうのですが。
しかも宗次郎は、妻が悲しむから、とか、弟がかわいそうだからとか声高に言ってこんな危地に向かうというわけじゃないんですね。自分が行くと決めたから、自分がやらなければ他にやる人がいないから。ただ、そのことだけで、誰にも頼らず、おのれ一人の才覚と力で戦場を生き抜いてゆく。
伊集院さんには、「海峡」「春雷」「岬へ」という自伝的3部作があります。少年の眼で見た父親たち大人の世界がみずみずしい筆致で描かれていますが、あのオヤジさんが、こんな人だったんだ。あの小説の時代の前に、こんなことがあったんだ。そして、その冒険を誰に語ることもなく、もちろん誇ることもなく、お父やんは生きていた。
『大人の流儀』の、伊集院さんの生き方指南、どうしてこんな多くの人たちに読まれるのかがよくわかります。ぜひ、あわせて、ご一読ください。
家族のために命をかけて戦場に突進!
母は泣き崩れて弟の救出を父に懇願する。失敗すればその場で捕縛され、射殺されるかもしれない。だが、父は平然と言った。「心配するな。何とかしてみよう」 終戦後韓国に帰った義父母と義弟を助けるために、朝鮮戦争の戦火の下、父は単身半島に渡った。家族の絆を命がけで守り抜く姿を描いた、自伝的小説の決定版。
既刊・関連作品
執筆した社員
鈴木哲【取締役 50代 男】
※所属部署・年代は執筆当時のものです
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