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山口百恵は笑いも達者だった? 高田文夫しか書けない「ナマの芸能史」

2017.04.22
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「開口一番」多くの物故者名が並んでいます。ゼロからテレビを作った1人でもある大橋巨泉さん、永六輔さん、親友・景山民夫さん、古今亭右朝さん、映画監督・森田芳光さん、そしてミュージシャンの大瀧詠一さん……彼らへの謝辞からこの本は始まります。

──それぞれその世界での私の師匠であり、常にユーモアを忘れない先生でもあった。いろんなことを教えてくれた。雑談の楽しさ、ハイカラとは何か、アメリカ文化とは何かを景山から教わり、日本の伝統文化の美しさをさしで右朝から教わり、映画の素晴らしさを森田から、音楽の楽しさを大瀧詠一から人一倍教わった。みんなみんな、ありがとう。彼らが残してくれたエンターテインメントを、生きる楽しさを、生き残った分、私もたけしもさまざまなかたちでまだまだ伝えなければいけないのだろう。──

少ししんみりした始まりですが、そこからは速い! 一気呵成に読み進むこと間違いありません。高田さんが伝えてくれるのは笑い(芸人)の話ばかりではありません。もともと塚田茂さんに師事した高田さんですから、歌手、アイドルたちの逸話もふんだんに収められています。

大物歌手として登場するのは村田英雄さんを初めとして三橋美智也、春日八郎、三波春夫、田端義夫という面々。三波春夫vs村田英雄というもはや伝説・神話の域に達した逸話、また深夜ラジオでビートたけしがとりあげた(作り上げた?)村田英雄伝説などは当時を知っている人にはことに懐かしく感じられると思います。

またアイドルでは、お笑いも達者だったキャンディーズや山口百恵らが登場しています。アイドルたちの素顔も興味深いのですが、高田さんらしいのは、“企画もの”と呼ばれるジャンルをとりあげたところでしょうか。角界からは増位山、将棋界は内藤國雄、女子プロからのビューティ・ペア、お笑いからは海原千里・万里、月亭可朝や明石家さんま、わらべらの話が載っています。企画ものといってもバカにできません。佳曲ぞろいの中にあの国民的大ヒット『およげ! たいやきくん』の裏話も出てきます。

この国民的大ヒット曲、高田さんと縁(えにし)が深いようです。作曲の佐瀨さんは高田さんの居候的悪友で、売れる前・売れた後の2人のやり取りは抱腹絶倒! ご自分の目でぜひ! 楽しげに語るところに高田さんの真骨頂があるのでしょう。

歌の世界は高田さんにとってファーストステップ、いよいよお笑いの世界へ連れて行ってくれます。白眉は「我が“芸人この世界”」の章です。題名は永六輔さんの名著『芸人その世界』から、しかもこの章はご丁寧にペンネーム氷六輔で書こうという心意気です、つまらないわけがありません。心に残ったものをいくつか紹介します。

「江戸っ子は三代続いてやっと江戸っ子でしょ。横浜は三日いればハマッ子だから」(春風亭一之輔)
「親切だけが人を納得させる」(立川談志)
「お前のスケジュール帳には、思想がない」(大島渚)
「博奕も人生も、九勝六敗の奴が一番強い」(色川武大)
「何もしてない時が一番忙しい」(大瀧詠一)

そして永六輔さんの言葉が……。
「昔の芸人は、芸の上手下手が人気を分けました。近ごろの芸人は、運が良いか、悪いかです」

この本は「上手な芸」を追い求めた芸人・作家たちの言行録としても読めます。前著『誰も書けなかった「笑芸論」』もそうだったのですが、このような“記録・記憶”を留めようとした高田さんの心にあるものを感じさせる1節がありました。
──近ごろのテレビ、みんな「芸人」と名乗って出ているが、その「芸」とやらを見たことがない。見せるゲイもない。昔から「芸NO人」と言われるゆえんだ。──

最近ではツィッターで茂木健一郎さんが最近の芸人に対して苦言を呈していました。これはアメリカのコメディアンがトランプに果敢に批判しているのに比べて、日本の芸人は上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無ではないかといい、国際水準に達していないというものでした。

多くの芸人から茂木さんに批判が出されました。けれどテレビに出ている芸人が、笑いを醸し出す雰囲気を持ったコメンテーターやMCをしているだけのように思えます。そこにはかつて高田・ビートたけしが突きつけた“世間への毒”はありません。やはり“上下関係や空気を読んだコメント”が目立って多いと思います。もちろんこれはテレビだけのことで、ライブステージでは違うのかもしれません。だとするならこれは彼らを起用するメディアの問題です。

高田さんはこのようなお笑い、芸人の現状(起用のされ方)に疑問をもっているような気がしてなりません。「M-1」以前、テレビには「花王名人劇場」「ザ・テレビ演芸」など多くのお笑い番組がありました。コメントするタレント風芸人ではなく“生の芸”をする芸人を見ることができました。同じネタでは笑いがとれません。鎬(しのぎ)を削っていました。その最たる番組が「お笑いスター誕生!!」です。コロッケ、とんねるず、イッセー尾形、小柳トム(今のブラザー・トム)、シティーボーイズなど多士済々。それを語る高田さんのうれしそうな顔が浮かんできます。(「“火花”散る笑いのバトル三国志」の章)

その頃の芸人さんへの郷愁がこの本では感じられます。テレビとともに生きてきた高田さん、今のテレビが芸に対してフェアじゃないと思っているのかもしれません。

ともあれ「らくご&ドラゴンの・ようなもの」の章で落語ブームを作った男たち(宮藤官九郎さんや森田芳光さん)を語り、「1979年のはやり歌たち」の章ではこの1979年が芸能全体の分水嶺となっているという歌謡曲史観は読むと思わず納得させるだけの実証性があります。さすが芸能の最前線で生きてきただけあります。

物故者を思う1文から始まるこの本で素敵なものを発見しました。高田さんは山藤章二さんを宗匠とした俳句の会・駄句駄句会に参加しています。句友は野末陳平さん、吉川潮さん、立川左談次さん、橘右橘さん、松尾貴史さん、林家たい平さんというそうそうたるメンバーです。その句会を語った中にこのような句が紹介されていました。
「赤とんぼじっとしたまま明日どうする」
「ゆうべの台風どこに居たちょうちょ」
「お遍路が一列に行く虹の中」

故・渥美清さんが詠んだ句です。俳号はもちろん「風天」とか……。「切なくうなる」と高田さんが記しています。この切なさが、笑いだけでなく、もうひとつこの本の底流に流れているものではないかと思います。「おもしろうてやがてかなしき鵜舟(うぶね)かな」(芭蕉)を思い出します。そういえば「車寅次郎」の名セリフも記されています。
「寂しさなんてのはな、歩いているうちに風が吹き飛ばしてくれらぁ」
歩き続けて、書き続けてほしいと思います。

『TOKYO芸能帖 1981年のビートたけし』書影
著:高田文夫

今という時代とテレビ60年の歴史をクロスさせながら、大衆芸能稼業45年を誇る高田文夫が、自身で「見た」「聞いた」「読んだ」大衆芸能界のあれやこれやのおもしろ話を披露するエッセイ。なかでも、歌謡曲黄金時代から“笑い”がテレビ、ラジオの主流になっていく転換期となった1981年(昭和56年)を描いた1編は珠玉。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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