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湊かなえ『リバース』63万部超え! 過去のドラマ原作と比べて何が凄い?

リバース
(著:湊かなえ)
2017.04.19
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湊かなえさん原作『リバース』がTBSの金曜ドラマ枠で4月14日から始まりました。

TBSといえば湊かなえさんと縁の深いテレビ局。2013年放映の「夜行観覧車」、2014年放映の「Nのために」と同じプロデューサー、脚本家、スタッフの方が集結して制作されたリバースはTBS金曜ドラマとして3作目となりました。

ドラマを楽しむ前に、「夜行観覧車」「Nのために」「リバース」、それぞれの作品の原作を振り返ってみたいと思います。

まず、“家族ミステリー”と銘打たれた「夜行観覧車」。高級住宅地「ひばりヶ丘」で起きた殺人事件を背景に、3つの家族の崩壊、そして再生に至る姿が描かれた作品です。

続いて“純愛ミステリー”と銘打たれた「Nのために」。エリート夫妻の殺人現場に居合わせた4名。誰かが誰かに嘘をついている──。「究極の愛、それは罪の共有」という世界観で描かれた作品です。

そして“ヒューマンミステリー”と銘打たれた「リバース」。大学のゼミ仲間との旅行中に起きた事故で親友を失った主人公。しかし、10年後「人殺し」と書かれた手紙が届いて──。

3部作すべてに共通するのは、殺人を主軸にストーリーが進む点。ただ、殺人は殺人で大きな事件なのですが、それはあくまでもひとつのきっかけ。個々の登場人物の抱える心の闇や問題を通して、その事件が起こるまでの背景に深く迫っていきます。

なかでも「リバース」が「夜行観覧車」「Nのために」と大きく違うのは主人公の視点です。前の2作では複数の人物の視点が複雑に入れ替わり、オムニバス形式で話が進みます。

「夜行観覧車」「Nのために」とも、ただの家庭内トラブルや恋愛トラブルには留まりません。「受験」「いじめ」「家庭崩壊」「家庭内暴力」「貧困」など数々の社会問題を織り交ぜることによって、加害者にも被害者にもそれぞれ「やむを得ない事情」があった点が浮き彫りになっていくのです。

全体を俯瞰しながら読み進んでいくと、最後に「あれはそういうことだったのか……!」とパズルがカチッとハマるような面白さはあるのですが、登場人物の視点が何度も入れ替わるので、私は誰にも感情移入できないまま読み終えてしまった印象がありました。

しかし、リバースは一貫して主人公・深瀬の一人称の視点で物語が進行します。過去の秘密と向き合った主人公がもがき続けながらも立ち向かう姿に心揺さぶられ、深瀬を見守りながら読み進めることになりました。「どうか、深瀬には幸せになって欲しい……」とハッピーエンドを期待しつつも、そう単純に終わらせてくれないのが「イヤミス」の女王・湊かなえさん。

3作品とも最後にあっと驚く結末が待っている点は似ているのですが、読み比べて感じたのが湊かなえさんの作品の「パワーアップ」ぶり。ミステリーとしての仕掛けの鮮やかさ、読者の気持ちを掴んで離さない主人公のキャラ設定、そして最後に「ああっ!!」と声をあげてしまうような想像のつかないオチ。心拍数が一気に上がるラストの衝撃はもっとも新しい「リバース」が群を抜いているように感じます。

湊かなえ初心者なら、3冊の読み比べから入ってみるのもまた面白いかもしれませんね。

『リバース』書影
著:湊かなえ

深瀬和久は平凡なサラリーマン。そんな深瀬の唯一の趣味は、美味しいコーヒーを淹れる事だ。そんな深瀬が自宅以外でリラックスできる場所といえば、自宅近所にあるクローバーコーヒーだった。ある日、深瀬はそこで、越智美穂子という女性と出会う。その後何度か店で会ううちに、付き合うようになる。淡々とした日々が急に華やぎはじめ、未来のことも考え始めた矢先、美穂子にある告発文が届く。そこには「深瀬和久は人殺しだ」と書かれていた──。何のことかと詰め寄る美穂子。深瀬には、人には隠していたある”闇”があった。それをついに明かさねばならない時が来てしまったのかと、懊悩する。

レビュアー

上岡史奈 イメージ
上岡史奈

20代のころは探偵業と飲食業に従事し、男女問題を見続けてきました。現在は女性向け媒体を中心に恋愛コラム、男性向け媒体では車のコラム、ワインの話などを書いています。ソムリエ資格持ちでお酒全般大好きなのですが、花粉症に備えて減酒&白砂糖抜き生活実践中。

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